第2話

「私は、アテナ・バルトゼーミュラー。この街のサイボーグ傭兵部隊の隊長をしています。今から話を聞かせて貰います。なぜちっちゃい女の子を引っ付かんでいるのかも、ね?あなたの名前は?」


彼女――――アテナは淡々とした口調で言った。

銀髪に左目に布の眼帯、黒を基調色としたスカート姿で、背中にはガンブレードと呼ばれる刀を備えている。

「・・・俺の名前は義亞。悪いが、俺は記憶がなくてな。2週間前の話をしろ、と言われても困る。それと、こいつは・・・」


左手にぶら下がる金髪幼女に目をやった。

言っておくが、俺が引っ付かんでる訳ではないからね?こいつだからね?俺ひっつかまれてるだけだからね?

「わたしはフレイヤ。外部記録内蔵型生体アンドロイドなのだ」

俺の手から降り、その小さな胸を大きく張って言った。

「では、なんであんな所にいたのですか?皆さんと一緒に逃げればよかったのでは?」


「待て。こいつ、フェンスの外に居た。逃げるも何も、街に入れなかったんだと思う」


「そうだったのですね・・・。っと、こんなところで立ち話もなんですから、私たちの兵舎で続きをいかがですか?」

もう日は落ちていて、完全に夜、って感じだった。


・・・・


夜の街はまだまだ活気に溢れていて、眠らない雰囲気だった。昼間とは違い、少し危ない色気を帯びた空気で満たされていた。


人の溢れかえるメインストリートをずんずん先に行くアテナ。慣れているのか、結構なスピードで歩いていく。

そして、暗くて細い道に差し掛かった時、

「きゃっ!?離しなさい!やめっ、ふああ」


アテナが屈強な男二人組に組付かれていた。

「わああ、胸揉まれてるのだ!」


「・・・・・」


「ぐえへへへ、姉ちゃん良い体してんなぁ、俺らをと遊ばなぁい?」

胸を揉みながら言う男二人。どうした物か。

「んうっ、はああ」

これ以上やられたらアテナがぶっ壊れそうだな。よし、一応助けるか。

「・・・おい」


「あれぇ?男いたのぉ?残念だなぁ」

まだ胸をむにむにもみつづける男。

「・・・残念なのはお前の頭の方だ」


「はあ?なにいってんのぉ?ぇぶっ!うごぁああああ!」


とりあえずぶん殴ってみた。鮮血が飛び、奴の前歯がへし折れる。


「あああ!てめえええ、何すんだ!うごぉ!」

もう一人もぶん殴ってみた。まあ、念のために。

「おい。次にアテナに変な事したらただじゃ置かないからな」


「ひいいいい」

ドタドタと殴られた顔を押さえながら逃げていく二人。

「大丈夫?」


「・・・・・・・・」


顔を真っ赤にしながら黙り込むアテナ。

「たっ、助けていただき、ありがとう、ございます・・・・」


「いーよ。行こうぜ。話、まだ聞きたいんだろ?」


「・・・・・・・はぃ」


彼女は、とてとてと頼りない感じの足取りで兵舎と呼ばれる施設に向かう。


そして、兵舎と呼ばれる施設に到着した。

お世辞にも綺麗とは言えず、錆びた感じの長屋だった。

「私たちは常時、ここに駐屯しています。本来は立ち入り禁止ですが、今回だけ事情聴取ということで入舎許可が降りています。さあ、どうぞこちらに」

彼女は玄関口に俺たちを案内してくれた。

「少し、待っていて下さい」

彼女は俺たちを応接間に通したあと、盆に茶とビスケット(サイボーグの食べ物はラジセルウムという潤滑剤みたいなものなのだが、それを食べ物っぽく加工した)を載せて歩いてきた。

「さあ、続きを。」


「続きをっつっても、俺はマジに記憶が無い。だから、街に入る以前の記憶はないんだ。すまないが」


「では、そちらの貴女は?」


「わたしはフレイヤ。お主に会うために、シューナの使いでこの街に入ったのだ」


「俺に?わざわざ?」

こくこく首を振るフレイヤ。

「っつーか、シューナってだれだよ?」


「わたしの姉上なのだ」


「姉上?」


姉上、か。顔が想像出来ないな。

「シューナはとんでもなく人使いが荒いのだ。どこにあるかもわからない街を私に探らせて、

『写真の男にあって、伝言してきて』だなんて、酷いのだ」


ぷりぷりしながら上着のポケットから写真を出し、俺に見せた。

たしかに、そこに写っていたのはいつとられたのだろう俺だった。

「偶然、ってやつなのだ。お主がこの街にいたのはな」


「・・・伝言、っつーのは?」


「ああ、そうそう。それなのだ。

おほんっ、『あー、あー、聞こえるかしら義亞君。』」

いきなり声色が変わり、ロリロリだった声から結構大人びた声に変わった。

「『わたしはシューナ。とある施設で博士をしているわ。わたしの妹、フレイヤに使いを頼んだから、フレイヤについてきてわたしのいる施設に来てちょうだい。理由は・・・来てから話すわ。んじゃっ』」


「・・・・・・・・今のは?」


「おほんっ、そうなのだ。わたしは生きる外部記録媒体。テープレコーダーの代わりでもあるのだ。

伝言は以上。姉上は義亞に会いたいのだ。明日にでも出発するのだ!」


「ち、ちょっと待った!そんな、理由も無しにいきなり『来い』なんて・・・・おかしいと思います!」


「そーいうカオスなのも姉上なのだ。わたしも早く帰りたいし、わたしは来た道を戻るだけで良いから、わたしについてくれば姉上の所に行けるのだ」


「行ってみなきゃわかんねぇっつー事か」


「本当に、宜しいのですか?その・・・し、信用に足らないというか・・・その」

自信なさげにいうアテナ。

「まあ、行ってみる価値は有りそうだな。仕方ない。お前の姉上っつー人に会いに行こう」


「わ、私は行きませんよ!?だって、そんなことで砂漠を越えろだなんて・・」


「あ?来るつもりだったのか?」


「んなっ・・・。とにかく!私は行きませんからね!」


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サイボーグエージェントは静かに殺す 詩亜/犬職人 @OOTAWA452

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