サイボーグエージェントは静かに殺す
詩亜/犬職人
第1話
俺はサイボーグ。本来疲労も空腹も痛みもないが、俺の義体を砂粒が蝕んでいるのが分かった。
早く、この砂嵐からどこかに身を守る場所を探さなくては。
数日歩き続け、やっと小さな街を見つけた。
検問を抜け、街を探索する。
「おい!そこのあんさん。サイボーグだろ?」
「・・・・・・・・・・ああ」
こー言う胡散臭い奴は嫌いだ。
にしても、凄い店構えだな。元は只のテントだったんだろうが、銃器類が並べられ、弾薬がところ狭しと並べられていた。
「その右手、荷電粒子砲だね?しかも、大戦前の特殊モデルだ?違うかえ?」
「知らん。ところで、旅館や宿泊施設が何処にあるか知らないか?」
「・・・・・あっち」
男は、相手にされなかったことにムカッとしたのか、ふてくされた風に言った。
「実はな、ワシもサイボーグなんじゃ。5800年前、大戦に戦役として参加しておったのじゃが。―――ランジーと言う名を聞いた事はないか?」
親父は、自分を指差しながら言った。記憶のないこの俺に尋ねるとは。まぁ、知らないから仕方がないか。
「・・・分からない。すまん」
「そうか。ふふっ。ランジー武器屋をよろしくな!何でも揃ってるぜ?」
「・・忘れなきゃ、また来よう」
ランジーが指差した方向に進むと、小さめな旅館が見えてきた。
『当店は、貴方さまのチェックインを歓迎致します。此が、貴方さまの部屋である323号室のカードキーとなります。紛失には追加料金が必要になりますのでご注意下さい。それでは、心行くまでごゆっくりと』
受付ロボットが、スチームを吐きながら喋った。そして、ギュタギュタと音を立てつつキーを渡した。
「すまないな」
『どうぞ、ごゆっくりと』
部屋に入り、上着を脱いでハンガーにかける。
ベッドに寝転び、天上を見上げ、深いため息を吐いた。
ふと、ランジーの言葉がリフレインする。
――――――5800年前、大戦に戦役として参加しておったのじゃが。
5800年前、か。一体、大戦とはどんな物だったのだろうか。
人類の文明を衰退させるぐらい強大な物だったのだろうか。
わからないことが多すぎて、深い思考の海に埋もれかけた時、
ウウウ―――――――――――――ッ!
サイレンが、鳴った。
サイレンは、深い思考の海に埋もれかけた俺を引きずり上げ、現実を注入してくる。
上着をひっつかみ、部屋から飛び出ると、街は数十分前の活気は消え失せ、阿鼻叫喚となっていた。
「うわああああ!地下系生物が出たぞおおおお‼逃げろおおおお‼」
「きゃあああああああああああ」
「まって、まま」
「ひいい!殺さないでぇ」
逃げ惑う町民の流れに逆らい、肩がぶつかりながら、足を踏まれながら、殴られかけながら、人を掻き分けて、元凶の元へと向かう。
「あれが、地下系生物・・。間抜け、だな」
見た目は、砂で出来た首のない巨大(十メートルぐらい)なゴリラだ。しかし、本来あるべき目は消え失せぱっくりと歯のついた口が開いている。
しかも、3体いる。どれも、ビームを街に放とうとエネルギーをチャージしていた。
「!!」
義亞は、脚に目一杯力を込め、前へ飛んだ。そして、
「荷電粒子砲、チャージ!!」
右手をピストルの形にして、敵に向けた。中指が人差し指と合体し2倍ぐらいの長さになり、黒く、四角く角張って、銃口が開き――――――――。
「荷電圧解放ッ!」
カッ‼
シュドドンッ!
指から注がれるディープブルーの閃光は、ゴリラ型地下系生物を2体纏めてぶち抜いた。
ゴリラ型地下系生物の体は砂のように風化して消滅した。
が。
まだ一体残っている。
「ッ!くそッ!撃ち漏らしたか!」
もう一度チャージし直そうとするが、網膜に映し出されたのは、
『警告:使用不可:銃身過熱』
「もう、なんだよっ!」
3体目のビームが街に放たれそうになったとき。
ふと、ふとゴリラ型地下系生物が右斜め下を向いた。
そして、ビームのチャージされたエネルギーを引っ込めた。
「・・・・・・?」
何かを見つけたように、それを追い始める。
「?」
義亞も、ゴリラ型地下系生物を追うため、ダッシュで向かった。
フェンスを一飛びで飛び越え、砂地を走る。のそのそ歩くゴリラはスローに見えてもスピードはかなり速い。足が長いからだろうが、異常なスピードだ。
大きな体の右側を走り抜き、何かを追っている前方に視線を向けると、
そこには、
「・・・・?ちび女?」
ちっちゃくて、金髪で、ワンピースを改造した戦闘服を着ている。
んで、とてつもなく速い。足元は砂ぼこりでよく見えなかったが、きっととんでもない義体パーツを使ってるに違いない。絶対そうだ。
だが、この幼女が襲われているのは間違いない。
「もういっぱーつ‼」
もう一度チャージしようとしたが、
『使用不可』
のメッセージが出てくるだけだ。
「クソ!」
俺は、さらに加速し、ゴリラの左側を走り抜き、前方にいる幼女をかっさらい、右側に抜けた。
左手で引っ掴んだ幼女は、真顔で俺の顔を仰ぎ、見つめてきた。
「・・・・・」
見つめてきたのはわかったが、いまは気にする余地は無いので、無視!
後ろを振り返ると、ゴリラがその巨大な拳を振りかぶっていた。
「!」
ひらりと回避。だが、ただでさえ不安定な足場と左に重心が傾いていたせいで、倒れ込んでしまう。
「うぉ」
先に着地する俺。落ちてくる幼女。その華奢な体の向こうには、振りかぶられた巨大な拳。
煤けた色の青空を埋め尽くしている。
マズった。死ぬ。
ッッシャキンッ!
「!」
拳が切り刻まれ、風化して消滅した。
「早く!体勢を立て直し離脱して!」
女性の声だ。眼だけ動かして周りを見ると、砂ぼこりに混じって宙を舞う、女の子の影が。
くるくる回転しながら長刀でゴリラの脚を斬り付けていく。
ゴリラは、女の子に向けて残った右手を振り抜くが、それを木の葉のような動きで避けた。
そして、左腕の上を滑るように走り抜き、背中に刀を突き刺し叫んだ。
「喰らえッ!ガンブレード‼」
ガン‼ズガガガガガガ‼
刀から発射される弾丸はゴリラの本体(心臓のようなもの)を破壊し、只の砂の塊にして見せた。
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