15.東側の進軍事情①


 Aチームの目的はアウィーナ国での物資の調達。勿論そこで装備を潤沢にするのだが、実践ということもありそれなりに皆装備は整っている。あくまで予備や薬草、食料の補充がメインとなっている。


 そのAチームが森に入り数分。また4人は集まって話をしていた。


「ムドウはBチームか…まぁ、実力で言ったら当然なんだが」


「ムドウって、腰に剣を差していた人だよな?シルバより強いのか?」


「私も近くで試合を見てましたが…あれは剣を振るために生きている方…そんな印象を受けました」


「柔破一刀流の道場で剣の鍛錬してたらしいからな。ハヤテの2倍もある奴を吹っ飛ばしたり、ありゃあマジモンの化け物だわ」


「ハヤテは同期の中では小さい方だもんね~」


「う、うるせぇ」


 和気あいあいと進んでいくAチームは森の半分の所まで来た。この一本道を抜けたらアウィーナ国に着くのだが、普段行商人なんかは夜に運ぶことも少なくないので、森を迂回してトーラム王国に行くのだが、今回はゴブリンが討伐されたこともありこの道を進んでいけるというわけだ。少しはハヤテも貢献?していたようだ。


「なんやなんや?君ら知り合いか~?」


「俺達3人は幼馴染みですね。メイリンさんは同期で歳も近い感じです」


「そうなんや~。まぁ、参加して貰ってホンマ感激なんやけど、この後物資を調達せなアカン。重労働なるからよろしく頼むで!」


「だ、そうですわよシルバ」


「俺だけかよ!────……って今、聞こえたか?」


「…何かが木をなぎ倒してくる感じ…?」


 時折ドスンと鈍い音がし、木々は揺れ、鳥は飛び立っていく。


「この季節は…いや、特に何も無いはずやけど────新手のモンスター?」


 ドンドン音は近づいて来る。堪らずアヴァリスは全員に指示を出す。


「何が来るか分からへん!総員、戦闘準備や!冒険者ギルドと戦士ギルドの人らはいつ来てもええように構え、魔術ギルドの人らは補助魔法かけれる準備や!」


 木々を分け赤く光りを放つモノが現れる。それは想像以上にデカく、並の魔物…いや違う。人工的な人型の造形。───今回の対象になっている魔導兵器がAチームに立ちはだかる。


「なっ────!何でコイツがこんなとこにおるんや!」


 武器は特に持っていないが、それでも大きすぎる体躯は驚異的だ。木々に隠れる程度だが、目測で4~5mはある。周りを見渡しても術者は見当たらない。木の間に隠れて居るのだろうか?


『ガードシールド!』


 魔術の展開が始まる。4人とは言え選ばれた人間だ、レナも混じり急ごしらえの連携を取ろうとする。かけ終わると同時、魔導兵器は横殴りに腕を伸ばしてくる。


「うぉらぁぁぁ!!!」


 シルバが先頭に立ち攻撃をガードする。しかし…補助魔法がかかり、さらに体格の良いシルバでさえ数秒しか持ちこたえられずに吹き飛ばされ、後ろの木にぶつかる。


「シルバ!!」


「ってて…、…大丈夫だ気にすんな」


 補助魔法のおかげでダメージ自体は抑えられたが、脳を揺さぶられたのか少しよろめいている。


「誰か、治癒魔法を彼に!」


 アヴァリスが指示をし、1人がシルバの回復に専念する。魔導兵器も振りが大きいのか硬直している時間は長い。その隙を見て既存のギルドメンバーが攻撃を仕掛ける。


「うぉぉぉぉ!!!」


「───!くそっ、剣が…ほとんど通らねぇ!」


 ガチン───…。無情にも剣は装甲を傷付ける事無く弾かれてしまう。魔導兵器も硬直が無くなったのか逆の手でなぎ払う。避けられた者もいるが、何人かその餌食になってしまう。


「ぐわぁぁあ!!!」


 地面を這うように飛ばされる者達。それでも、やはり手練れが多いのか、致命傷は避け立ち上がる。


「アカン、大振りやけどリーチが長い!出来るだけ散開して魔導兵器を囲むんや!魔術師は攻撃魔法を準備してくれ!」


 指示通り距離を取る。魔導兵器と人との距離は十分に取れた所に魔法が飛び込んでくる。


『ファイアボルト!』

『アクアランス!』

『ウィンドカッター!』


 それぞれ確実にヒット…したかの様に見えた。


「手で…魔法を弾いた…のですの?」 


「───!いや、違う…吸収している!」


 魔導兵器への攻撃は、身体に触れると同時に霧散し、魔導兵器に吸収されていた。それでも幾分か効いているのか、関節部分に電気が走る。だが、それも殆ど効果的では無かった。


「魔法がほぼ効かん…!物理も駄目…!動きを止める事に専念するしかないんか!?」


 物理も魔法も効かない敵。単純に出力が足りないのなら、このAチームには勝ち目が無い───。しかし、相手は魔導兵器…機械に分類されても良いだろう。そして、人型と言う体躯。そこから導き出す対処法は…。ハヤテがハッと一つ策を思いつく。


「アヴァリスさん!俺が何とかして回り込みます。その後、合図をしたら一点集中で電撃系魔法を!」


「────!分かった…動けるもんで気を引きつけるで!」


「…俺も何とか動けそうだ」


「あまり無理しなくても良いんですわよ?」


「いや、行かしてくれ。今この巨体を止めれるのは俺ぐらいしかいねぇだろ」


 復帰したばかりのシルバ身を案じるメイリン、それでも前に出て囮役を引き受ける。


「骨は拾いますわ…」


「はっ!こんな所で死ぬつもりはねぇよ!…レナも魔法使える準備に行ってくれ」


「…分かった!とにかく無理はしちゃ駄目だからね」


 ジリジリと魔導兵器は動き出す。周りをなぎ払う様にその手は挙げられた───。









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王国ジョブシチュエーション! きのこいし @kinokoishi

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