エピローグ

「河童!」



 みんな思わず破顔はがんしていた。くるんくるんと、真っ白な河童の身体が宙に浮き、あたたかなオレンジ色の光に包まれていく。人の祈りの届いた瞬間だった。

 河童はみるみるうちに生気を取り戻し、池に落ちた石碑の一部に降り立つと、



「カッッパー!」



 と笑って、池のはたへと戻ってき、ピンクの河童と水かきをたたきあって、うきうきと踊った。



「届いたんだな。みんなの気持ち」



 静かに涙をこらえる勇也のそばに、あこはそっと近寄り、ハンカチを手に握らせてあげた。



「あこ、俺、うれしいよ……うれしいんだ」


「うん、私もだよ」



 ユウコが生徒諸君らへ、と書かれたチョコボックスを手にしながら、あこの隣りへやってきた。



「ごめん、わたしももっと信じるべきだった。あなたのこと、そして自分の気持ちを……」



 そして、そっとあこの手にチョコボックスを乗せると、江崎なおみの秘密を明かした。



「これ……書道の江崎先生からだよ。一人一人ずつ、筆で書いてある。けっして安くはないよ、一個百円」



 一番近くにいた娘がぷっと吹きだすのがわかった。



「そうじゃないかと思ったんだ。江崎印のチョコ、去年ももらったもん!」


「一人一個、全員分を買うだけでも、ゴティバの箱入り高級チョコが買えちゃうもん。採算悪いよね」


「笑っちゃいけません、ようは気持ちの問題です! ってー先生の真似ーきゃっ」



 わっとみんなが笑い、陽気にハイタッチを交わした。



(イナリー、ありがとう。私、みんなのこと、好きになれそう)



 勇也が、自分の分の江崎印えざきじるしのボックスを開けて、はい、と片手を差し出した。



「俺の気持ち」


「――半分こ! これっておまじない?」



 確か――一つのものを二人でわけあうのはもっと仲良しになるおまじない。

 あこは、顔面に血を昇らせる勇也のことを、もう少しだけ大好きになってもいいかな、と――もらったチョコをぺろりとなめた。



 ☆☆☆ハッピー・エンド☆☆☆



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あこと勇也の妖怪事件簿~河童の怪~ れなれな(水木レナ) @rena-rena

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