第7噺 この二人組パーティーに聖職者を!(前編)

妹side



「やッ…やめ……」


青年は突然私の首筋に勢いよく噛みついてきて、犬歯を突き立てた所からじゅるりと血を啜る。コイツ…ヴァンパイアだったのかッ!?


ヴァンパイアとは、アンデッドモンスターの最高峰リッチーと並ぶ、有名な大物アンデッドモンスターである。

生命の根源とも言われる血を吸い、栄養源とする蘇った死人または不死の存在。

とは言っても、普段から定期的に鉄分なり他人の血なりを補給していれば問題ないので、ヴァンパイアが血を吸う目的は、血を介して他人の魔力を奪うというのが主な目的なのだが……このヴァンパイアはどう見ても血が不足してるだけみたいだ。

まさかこんな真っ昼間の森の中で遭遇するなんて思わなかったよ!古びた洋館とかにいそうなイメージだったよ!!


先程までの紳士的な雰囲気は何処にいったのか、音を立てて啜るその姿は、まるで獣のようだ。……いや、弱っている様な感じで倒れたし余裕が無いだけか。

だとしても、これは……


「ハァッ…ハァッ……じゅる」

「ひゃッ……ちょ…舐めちゃ……」


メチャクチャくすぐったい!!

やめてぇえええ変な声出ちゃうからぁああッ!!ぞわぞわするからやめてぇえええッ!!なんでそんな貧血なの!?

パニック状態になりどうすれば良いか分からず、されるがままだったのだが……あれ、何か呟いてる?


「ハァッハァッ……」

「……ん?」

「ハァ…幼女ッ……ハァッ…「ってロリコンじゃねぇかよッ!!」ゴフゥッ!!」


殴られたヴァンパイアは、そのまま地面に倒れ気絶した。イケメンヴァンパイアに吸血されてちょっとドキドキしてたのに、ロリコンかよッ!!私のトキメキを返せッ!!


その後、危機が過ぎ去った雅也を無理矢理叩き起こし、ヴァンパイアを縄で締めた状態で街まで運び、私達が寝泊まりしている馬小屋まで連れてきた。

なんか馬小屋の入り口辺りで体がビクッて痙攣してたけど、大物アンデッドだしまぁ大丈夫だろう。口から出かかってた魂も押し込んだし。



―1時間後―



「ん……?この馬糞臭い所は…」

「あ、起きた」

「ようこそ、多くの冒険者が寝床にする馬小屋へ。よくも俺の凪ちゃん襲いやがったなこの野郎、回復してくれたのは有り難いけどそれだけは許さ「はいはい話進まないから雅也は黙ってて」はい……」


雅也が早口になり掴みかかりそうな勢いだったので、話を進める為に黙らせるとシュンとなり縮こまった。

ちょっと、隅っこでキノコ栽培しないでよ。


「とりあえず、名前を教えてくれない?」

「……私はウィリアム。ご存知の通り、大物アンデッドモンスターのヴァンパイアです。こう見えて魔王軍の一員でしたが、随分前に辞めてしまい、人探しの旅に出ていました。

しかし……どんなに空腹を満たせても、血を摂取しなければ干からびていくばかりで。先ほどのようなことに…」

「馬鹿だ、コイツ馬鹿だ。鉄分取れよ」


だからこんなにガリガリになってたのか。

腕なんて簡単にポキッと折れちゃいそう、レバーとかホウレン草とか何かしらあっただろ。鉄分を取れ鉄分を。


「そもそも、なんで今まで血を吸わなかったの?人間と遭遇することもあったでしょ」

「いえ、確かに人間と会うことはありましたが……どいつもこいつも屈強な冒険者ばかりで。女性に会ったとしても大人ばかりで、全く興味をそそられないんですよ!」



……はい?



「私は幼女が好きなんですよッ!!思わず触りたくなるスベスベの肌!プニプニのほっぺ!子供独特の柔らかな髪!そしてあの無邪気な笑顔ッ!!もう想像しただけで……おっと失礼」


そう力説しながら、ウィリアムは垂れてきた涎をじゅるりと啜り、口元を拭う。

駄目だコイツ、早くなんとかしないと。

そんな偏食の理由で貧血になってたのかよ、まさか探し人って幼女?幼女を求めて三千里……駄目だ、シャレにならない。

真性の変態はどこまでやらかすか分かったものじゃない。


「うーん、やっぱり通報した方が良いかな?「あの…」ん?」

「あなた方のパーティーは二人だけなのですか?」

「そうだよ、仲間を募集したこともあったんだけどね……なんか鼻息の荒い男ばっかり集まっちゃってさ」


そう、実はギルドの掲示板にパーティーメンバーを募集したこともあったのだ。しかし、集まって来るのはロリコンばかり。

下卑た笑みを浮かべた小太りなオッサンや、寡黙で屈強な真面目な奴と思いきや鼻息が荒い男、加虐趣味のセクシーお姉さんとetc…。


この街にマトモな冒険者はいないのか。


こんなんじゃ埒が明かないので、募集は一旦止めることにした。自分達で見つけて勧誘する方がマシだよね、うん。


「でしたら、是非私をパーティーに「だが断る」えっ…」


私が言葉を遮り断ったことにより、ウィリアムは石の様に固まり動揺している。


「何故です?クレリックの私が加われば回復に困りませんし、戦闘経験も豊富です。私がいた方が圧倒的に有利なはずですよ!」

「有能かどうかとか、そういう問題じゃないの。うちのパーティーはロリコンお断りなの!変態はさっさとお帰り下さいッ!」


そう言って私はウィリアムを出口の方へとグイグイ押していくが、自分自身が小さいせいで、背の高いウィリアムを押してもびくともしない。

私はムスッと頬を膨らませながら、ウィリアムの顔を見上げる形で覗きこむと、そこにはゾッとするような不気味な笑みを浮かべたウィリアムの顔があった。


「フフ、フフフ……そうですか。貴女の傍にいられないのなら……いっそ拐ってしまおうか」

「え、拐っ……!?」


そう言った途端、ウィリアムは私を抱き上げ出口へと向かう。ちょっと、然り気無くお姫様だっことかやめてくれない?


「おい早まるな!凪ちゃんを返せッ!!」


雅也は焦った様子でウィリアムの前に立ちはだかり、逃げられないように出口を塞ぐ。


「退いて下さい、さもなくばこの馬小屋ごと貴方を塵にしますよ」

「やれるもんならやってみろッ!!」


ええええ……何このベタな展開、二人とも戦闘体勢に入っちゃったよ。詠唱を始めようとするウィリアムを見て、雅也は剣を抜く。

え、これって私大人しくジッとしてなきゃ駄目?「私の為に争わないで二人とも!」なんて言って泣いた方が良い?

……うわ、想像しただけで寒気が。私が悲劇の~とかベタなヒロインやれるわけがない、そんなの私じゃない。

というわけで、このベタな展開を壊させていただこうか。


「後悔しても知りませんよ……“地の砂に眠りし火の「ねぇ」…はい?」

「何勝手に戦闘始めようとしてるの?私が大人しくしているとでも思った?」

「え…」

「必殺ッ!!子供の頭は石頭ストーンヘッドッ!!」

「ごふぅッ!!」


そう言って私は、ウィリアムの顎下に頭突きをかます。突然の出来事に反応できなかったウィリアムは、私を抱き上げていた腕の力を緩めてしまう。

その隙に腕から逃れ地面に着地し、ウィリアムの急所目掛けて、お兄ちゃん直伝金蹴りゴールデンキックを喰らわせた。


「今の内に…雅也行くよ!」

「お、俺の見せどころが…「いいから早くッ!!」はい……」


私は「うわぁ…」と呟いて自分の急所を押さえていた雅也を引っ張り、床で痛みに悶えているウィリアムを放置し二人で逃げた。

……後半へ続く。



To be continued…

―――――――――――――――――

後書き


お久しぶりです、明けましておめでとうございます。更新遅くなってすみません。

今回の話は長くなってしまったので、後半へ続けることにしました。ウィリアムは皆さんが予想していた通り、ヴァンパイアです。変態です。

ヴァンパイアですが敢えて聖職者っぽい名前にしてみました。


ウィリアム

変態ロリコン似非紳士。

ヴァンパイアなのにクレリックという聖職者。

雅也より身長高めでやせ型、銀髪ロングを一つ結び、赤目。耳と犬歯が尖っている。神父のような服装をしているが、いつも貧血気味。好き嫌いしてる上にロリの血を飲む機会があまり無いため。

妹ちゃんのことで一度スイッチが入ると親バカ……いや、馬鹿になります。


クレリックとは?

何処の宗教にも属していない僧侶の就くジョブ。この世界で無宗教なのは珍しいので、かなりマイナーな職業ということになる。

プリースト系と同等の魔法を使えるが、生き返らせる蘇生魔法は使えない。もし生き返らせるなら、同じ種族のヴァンパイアとしてしか不可能。

しかしこれはウィリアムがヴァンパイアだから出来ることで、当たり前だが人間には不可能。リッチーの場合は、ゾンビとしてなら生き返らせることが出来るかもしれない。


このすばは殆どの人がエリス教かアクシズ教だからプリーストが多いし、信徒は神の加護があるから蘇生可能。


次回、ようやくこの回が終わります。

なんとかヴァンパイアを諦めさせるのか!?それとも逃げ続けるのか!?

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この素晴らしいロリコン共に災いを! 月兎。 @rabbitmoon

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