眼鏡紳士同盟

鳥辺野九

眼鏡紳士同盟




「あなたの前に一人の女性がいます。とても愛らしい、少女と言っていいうら若き女性です」


 とある裏通りに渦巻く薄暗闇の奥底に、今にも消えてしまいそうな儚げな明かりが灯った看板があった。


「彼女はベッドに横たわっています。温かな血の通った柔肌はしっとりと淡い色合いに染まり、あなたへ潤んだ視線を投げかけています」


 その看板が差す矢印の方を見やると、ひっそりと地下へと続く階段がある。階段の下には、かすかなノイズを放ち点滅する切れかかった蛍光灯と磨かれた綺麗な扉。


「彼女が身に付けているものは、脚をぴったりと包んだ白いハイソックスと、顔の輪郭に馴染んだ一本の黒い眼鏡のみ」


 ぴかぴかと瞬く蛍光灯の光を反射させる真鍮のドアノブを捻り、重たい扉を押し開けるとそこは狭いバーだ。店の名は『紳士同盟』。白髪がよく似合う老紳士のバーテンダーが出迎えてくれる。


「あなたと彼女は、お互いにその手を差し伸べます」


 十二年物のスコッチウイスキーをロックで、氷を二つと指定して注文すると、バーテンダーはかなり個人的な質問をしてくる。


「さあ、あなたはハイソックスと眼鏡と、どちらから脱がせますか?」


 鬼首晶おにこうべあきらはバーテンダーの目を見つめたままグラスを回し、琥珀色した液体に浸された二つの氷をからんと鳴らした。


「眼鏡はすでに女の一部だ。眼鏡を脱がすだなんて愚かしいにも程がある」


「合格です」


 白髪のバーテンダーが店の奥へ手をかざす。鬼首はグラスの縁に唇を当ててウイスキーを舐めるように嗜みながらその先の変化を待った。


 やがて、店の奥に見える飾り気のない扉がかちりと小さな音を立てた。


「どうぞ、さらなる地下へ」


 白髪のバーテンダーが鬼首にさらに下りるよう促した。


 鬼首はグラスを置き、カウンターを離れ、奥の扉のドアノブに手をかけてから思い出したように振り返って言う。


「あえて言うなら……」


 バーテンダーはグラスを拭きながら鬼首の次の言葉を静かに待つ。


「フレームは顔の輪郭よりも少し大きい方がいい」


 鬼首は地下への扉に向き直り、バーテンダーにぎりぎり聞こえるような小声で囁いた。


「その方がそそる」


「左様で。心得ておきましょう」


 バーテンダーの低い声の余韻を耳にしながら薄暗い階段を下りる。階段に敷かれた絨毯が鬼首の足音を吸収し、一段降りるごとに静寂の度合いが色濃くなっていく。


 そして鬼首は階段下の扉の前に立った。ついさっきも同じ様な場面に出くわしたな、と思いつつ鬼首は扉を開けようと右手を伸ばす。しかし、扉にドアノブらしきものは見当たらない。


 さて、この扉はどうやって開けるのか。鬼首が宙空をさまよわせていた右手を戻すと、それを待っていたかのようにかすかに圧縮された空気が漏れ出す音が聞こえ、開かずの扉はゆっくりとスライドし、その奥から柔らかな光が溢れ出してきた。


「お入りください。オニコウベ様」


 眼鏡だ。


 まず鬼首の視界に飛び込んできたのは眼鏡だった。鬼首を出迎えた女性バーテンダーは蝶タイとベストをツヤのある黒で揃え、同じく黒の天地幅の狭いブロウ型眼鏡を身に付けていた。


 もはや日本では絶滅したとされる眼鏡装着者が目の前に立っている。その事実だけで、鬼首は熱いため息が漏れるのを堪えきれなかった。


 眉毛に沿うように流れる黒髪、LED蛍光灯の光を吸い込んだような白い肌、眉毛と前髪を強調するような黒いフレームと、モノトーンを基調とした女性バーテンダーはブロウ型眼鏡のブリッジに細い人差し指を添えて、軽くフレームを持ち上げて上目遣いに鬼首に言う。


「いかがなさいました? 部屋の暖気が、逃げてしまいます」


「いや、いい眼鏡だな、と思ってな」


 鬼首は女性バーテンダーの眼鏡を見つめたまま告げた。恥ずかしげに俯いた眼鏡のバーテンダーは一歩後ろに下がり、鬼首の歩むべき道を指し示した。


「ありがとうございます。さあ、どうぞお入りください。眼鏡が、待っています」


 健康増進及び健康確保と維持に関する法律、通称『健康法』が制定されたのは、日本人の平均寿命が九十歳を越えた年だった。日本国民は政府が定める健康の条件をすべからく満たすべしとされ、不健康である事は法律違反、すなわち罪であると認識された。


 その政府が定める健康の条件には視力に関する項目もあり、そこには視力が1.0を下回る者は例外なく視力矯正手術、あるいは遺伝子療法、また人工多能性幹細胞を利用した網膜再生手術等を受ける事を義務付る記述があった。


 眼鏡を装着する事。それは重大な健康法違反であり、逮捕、強制手術の対象となる事を意味する。


 そのため、ほぼ強制的にすべての日本国民の視力は一定基準まで回復され、眼鏡は慈悲を受ける事もなく駆逐されてしまった。


 ここは眼鏡が失われた世界だ。鬼首は心の中で己自身にささやいた。だが、この地下には眼鏡のすべてがあるじゃないか。


 扉の先、優しく光が降り注ぐささやかな通路を歩くと、女性バーテンダーは右手の壁へ手をかざした。鬼首がささやいた通り、そこには眼鏡のすべてがあった。


「オニコウベ様。お好きな眼鏡をお選びください」


 タマゴを思わせる柔らかい楕円形のオーバル、シャープなシルエットに知的さを窺わせるスクエア、そしてフレーム上部にのみリムがある視野が開放的なハーフリムが壁に掛けてある。その下にはクラシカルなスタイルのウエリントンの逆台形のフレームと、丸みを帯びた逆三角形型のボストン型、女性バーテンダーが身に付けているのと同型のブロウと、レトロ感のあるフレームが並んでいた。


 セルフレームの陳列の奥にはスタイリッシュなメタルフレームが光を反射させていた。それとリムがないレンズを支えるテンプルがシャープなリムレスと、リムが下部だけにあるいわゆる逆ナイロール型のアンダーリムがそれぞれスッキリとしたデザイン性を主張している。


 さらに個性では負けない、とレンズが真円の丸眼鏡、ロイドメガネと呼ばれるラウンド型、アーモンドのような目尻が上がった楕円形のフォックス型がさらに控えており、レンズ部が六角形を成しているヘキサゴンが異彩を放ち、涙滴型のティアドロップが堂々としんがりを務めていた。


「俺も眼鏡をつけるのか?」


 さほど長くもない通路の壁には世界中のありとあらゆるデザインの眼鏡が掛けられていた。レンズの形状からカラーリングまで多種多様の眼鏡群で、どれもこれも、思わず目移りしてしまう品揃えだ。


「ええ。お客様にも眼鏡を装着していただきます。眼鏡を身に付けた時点で、お客様と私達は同格です。眼鏡には眼鏡を。そこに差別も区別もありません」


 鬼首は壁に並んだ眼鏡の中で、通路に足を踏み入れてからずっと気になっていた一本へ速やかに手を伸ばした。ツヤのある黒の、やや吊り上がったアーモンド型のフォックスだ。女性バーテンダーはそれを見届けると静かに頭を下げた。眼鏡を装着するところを見つめるのは眼鏡マナーに反する行為だ。


 ふと、女性バーテンダーは間近に鬼首の気配を感じ取った。さっと顔を上げると、鬼首が女性バーテンダーの眼鏡に手を触れようとする、まさにその瞬間だった。


 それでも女性バーテンダーは身じろぎ一つせずに、鬼首に眼鏡を脱がされるまま、初対面の男の手に身を委ねた。


「眼鏡を脱がされるなんて、まるで下着を剥ぎ取られるに等しいです」


 そっと目を伏せて、女性バーテンダーは小声で言った。


「こっちの眼鏡の方が君によく似合うはずだ」


 鬼首はフォックス型眼鏡を女性バーテンダーに掛けてやり、そして脱がせたブロウ型眼鏡を自分に装着した。フォックス型はフレームの幅が広く、女性バーテンダーの顔の輪郭よりも少しはみ出るようで、その吊り上がったフレームエンドが女性バーテンダーの眉の形の良さを際立たせていた。


「初めて出逢った人とメガネスワッピングをするだなんて、相当お好きなんですね」


 フォックス型のテンプルに細い指を添えて、女性バーテンダーはうつむいたまま頬を染めた。


「眼鏡がそうさせたんだ」


 鬼首はブロウ型のブリッジを中指で押し上げて言った。


「恐れ入ります」


 そして鬼首は女性バーテンダーに連れられて眼鏡通路の先、眼鏡紳士たちが眼鏡を求めて集う眼鏡談話室へと通された。


「どうぞこちらのテーブルへ。ご指名のタイプはございますか?」


 革張りのソファに身体を沈ませながら、鬼首は澱みなくバーテンダーに告げる。


「セルフレームのスクエアで。天地幅は狭く、エッジの効いたレンズがいい。それと、フレームエンドが……」


「顔の輪郭よりも少し大きめのサイズ、でよろしいですか?」


 女性バーテンダーが鬼首の言葉を継ぐ。


「解っているじゃないか」


「ご随意に」


 黒いフォックス型の眼鏡は静かな仕草で頭を下げてその場を去った。一人残された鬼首はソファに深く身体を預け、ブロウ型の眼鏡に指を添えて談話室の様子を窺った。


 どいつもこいつも、いい歳して、幸せそうに顔を歪めてやがる。


 エントランスバーである一階の間口の狭さからは想像出来ない程に、落ち着いた色調の店内にはゆったりとしたスペースが広がっていた。テーブル間の仕切りの背が低いせいか、隣の紳士との距離感が少しだけ気になるが、客一人一人に眼鏡をじっくりと愛でるに十分な空間が与えられるようだ。


 鬼首のテーブルの二つ向こう側、随分と恰幅の良い眼鏡紳士が若い眼鏡フロアレディと語らい合っていた。時に彼女の露わになった肩に触れ、時に彼女のウエリントン型の眼鏡に手を添えて、自分の娘と歳もさほど変わらないであろう眼鏡に夢中になっている。


 人はいつから眼鏡を単なる視力矯正装置としか見なくなったのだろう。


 それは人がヒトである事をやめた時からか。


 健康法が制定され、人は健康であれ、そして不健康は罪である、と人の生き物としての生への価値観は恐ろしい程に変容を遂げた。


 自らが勝手に定めた規格と言う硬い枠へ、歪で柔らかな肉体を力づくで押し込める。そうやって型に嵌め、はみ出た余分な肉は容赦なくざっくりと切り落とす。そこに慈悲も愛もなく、金型が吐き出すのは均一化された生きた標本だ。それでも形が整わない規格外品は廃棄されるのみだ。


 おまえらはどちらなんだろうな。金型にはまった規格品か、それとも廃棄された規格外品か。


 恰幅の良い眼鏡紳士のたるんだ膝の上にうら若き眼鏡フロアレディが跨っていた。お互いにギリギリの距離を保ち、眼鏡紳士のメタルフレームを、眼鏡フロアレディのセルフレームを、つつっと指でなぞり合っている。


 俺はどちら側なんだろうか。型に押し込める側か、あるいは型からはみ出て切り落とされる余分な肉か。


 俺はただ眼鏡に寛容でありたいだけだ。


「ハーイ、何難しい顔してるのさ」


 鬼首の思考は鈴の鳴るような硬質な声に突然遮断された。視線を上げると、緩めたネクタイがかろうじてワイシャツがはだけるのを押さえているような眼鏡フロアレディが、スコッチウイスキーのグラスを両手にスクエア型セルフレームと弾ける笑顔で鬼首を見下ろしていた。


「どう? 私でいい?」


 恰幅の良い眼鏡紳士の相手をしている眼鏡フロアレディよりもさらに若そうな眼鏡は鬼首の返事も待たずにテーブルへグラスを二つ置き、紅色のチェック柄のミニスカートを翻して彼の隣に飛び込むように座った。


「おじさまの眼鏡、バーテンさんのでしょ? スワップするの見てたよ」


「似合うか?」


 鬼首はブリッジに指を二本添えて眼鏡フロアレディに向き直った。細いセルフレームのスクエア型で、青みがかった黒のフレームエンドが小さな顔からはみ出ているフロアレディは唇をすぼめて小首を傾げて見せた。パーマをかけたくりくりとした黒髪がさわっと揺れる。


「全然。そんなお堅い眼鏡かけてたら学校の先生みたい。せっかくあごひげと眉毛がワイルドでいい感じのおじさまなのに」


「だろうな。あのバーテンはフォックスがよく似合う目をしてると思っただけだ。ブロウは目を寡黙にさせる」


「おじさまは眼鏡センスをお持ちのようで」


 あの眼鏡バーテンダーはどこにいる? ぐるり、鬼首は店内に視線を巡らせた。いた。カウンターで誰か眼鏡紳士の酒を作っているようだ。あっちの方がよかったな。でも仕方がない。さっさと目的を果たしてしまおうか。


「誰を探してんのよ」


 スクエアの眼鏡が鬼首のネクタイをくいっと引っ張って軽く拗ねたフリをする。ブロウ型眼鏡をこちらに振り向かせて、ゆっくりと焦らすようにはだけたワイシャツの胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。


「カリンよ。歌に輪っかで歌輪。私ともメガネスワッピングする?」


 歌輪がスクエアフレームのテンプルをか細い指で摘んで鼻の頭まで下げて、鬼首のブロウ型眼鏡を上目遣いに見つめる。


「いいや、そのスクエアがいい。スクエアを指名すれば、君が来ると思ってたよ」


「私の事を知ってるの? ネットで調べた? 何だったら指名してくれればよかったのに。私のお給料アップのためにさ」


「どうだっていいだろ、そんなの。さあ、もっとよく見せてくれ」


「何を見たいの?」


 歌輪がグラスを手に取り、ソファにしなだれかかった。ワイシャツがはだけるのを止めているネクタイがはらりと緩む。


「眼鏡越しの君の眼鏡だ」


「重症ね」


「自覚しているさ」


 歌輪はゆったりとした仕草で膝を開き、鬼首に跨がった。垂れ下がったネクタイが鬼首のブロウ型にかずかに触れる。地獄の天蓋から垂れた蜘蛛の糸のようなその布切れを、鬼首は己の手首に絡め取った。一回転、二回転、手首が無骨に回り、それに引かれて歌輪の首が徐々に鬼首の首に近付いていく。


 二人の顔の高さが合うまで歌輪の頭が降りてきて、歌輪の瞳と鬼首の目玉が至近距離で重なり合う。ブロウ型眼鏡とスクエアセルフレームとが触れる寸前、ネクタイを巻き取る鬼首の手首が止まる。


「レンズ・トゥ・レンズね」


 鬼首のブロウのレンズと歌輪のスクエアのレンズとがかちりと音を立てて触れ合う。鬼首のレンズに映る歌輪のレンズ越しの瞳に眼鏡の向こうの鬼首の目が映り込み、その虚像の鬼首の眼鏡には眼鏡の中の歌輪が覗いている。合わせ眼鏡の多重世界に取り残された鬼首と歌輪は眼鏡を重ね続ける。


「……タレコミ通りだ」


「……何よ?」


「おまえ、コンタクターだな」


 鬼首が眼鏡の向こう側、さらに眼鏡の奥にある歌輪の瞳を見つめながら言った。ハッと息を飲み、鬼首の胸板に寝そべるようにもたれかかっていた身体を跳ね起こす歌輪。しかし歌輪の緩んだネクタイを絡め取っていた鬼首の腕がそれを阻む。


「イタッ、離してよ!」


「健康増進及び健康確保と維持に関する法律第十八条第四項、違法コンタクタレンズ使用の罪で君を拘束する」


「あんた、何者なのさ!」


 犬が吠えるように眉間に皺を寄せて眼鏡を振り乱して歌輪が叫んだ。鬼首はのしかかる歌輪をソファへ押し倒し、ざわつく店内に一喝した。


「公安局保健部特別捜査官だ。全員その場を動くな!」


 鬼首は歌輪の眼鏡を強く見つめながらさらに続けた。


「みなさん、ご安心を。今回は眼鏡の不法所持の件ではなく、違法なコンタクトレンズの使用者、コンタクターの捜査です。この捜査が終わりましたら、引き続き眼鏡をお楽しみください」




 女性捜査官が歌輪を護送車へ押し込もうとするが、歌輪は腕を突っ張って後部ハッチの縁を掴み、精一杯首を伸ばして車外へ甲高い声を張り上げた。


「ちょっと! ねえ、おじさん! 眼鏡のおじさんっ!」


 護送車のすぐ側に立っていた鬼首が同僚の女性捜査官に目配せして、歯を見せて唸る歌輪に顔を近付けた。


「特別捜査官、鬼首だ。眼鏡呼ばわりするんじゃない」


「何さ、おじさん、相当な眼鏡属性持ちのくせに、公安保健部だなんて」


「それとこれとは別の話だ。それとな、コンタクターが気安く眼鏡を語るんじゃない」


「ふんっ、いい事教えてあげるよ、おじさん」


 歌輪が鬼首の耳元で囁く。


「私はまだ十七なの。強制治療は受けずにすぐに釈放されるわ」


「……それがどうした?」


 眉毛一つ動かさずに無表情で返す鬼首。スクエアフレームの眼鏡をかけたままの歌輪はにっこりと微笑んで、鬼首の頬にキスをするまで接近して、さらに小声で告げる。


「出たらすぐにおじさんのとこに行くよ。あんたの目の前で眼鏡をかち割ってあげる」


「その時は丸みのあるボストンを着けて来てくれ。あれは人の可愛らしさを強調するからな」


 鬼首は歌輪の眼鏡を脱がせ、歌輪にだけ聞こえるように低い声で呟いた。


 そしてドブにはまって溺れ死んだ薄汚い野良犬を見るような目をした歌輪を護送車に押し込み、後部ハッチをゆっくりと閉めた。ハッチを二回叩いてドライバーに知らせる。


「行ってくれ」


 後部ハッチの窓から鬼首を睨む歌輪の顔が遠ざかって行く。走り去る公安局の護送車を見送った女性捜査官が鬼首を一瞥して言う。


「鬼首さん。眼鏡、掛けたままですよ」


「ああ、忘れていた」


 鬼首は同僚に気付かれないよう、歌輪が着けていたスクエアフレームをスーツのポケットに隠し、それからうやうやしく自分のブロウ型眼鏡を外した。


「公安局保健部特別捜査官として、眼鏡をかけるだなんて重大な規則違反ではありませんか?」


「捜査上、そうする必要があったんだ。仕方のない事だ」


 ふと、同僚の女性捜査官がこのブロウ型眼鏡を身に付けている姿を想像して、鬼首は静かに興奮した。


「かけてみるか?」


「結構です」


 そうか。残念だ。鬼首は心の中で呟いた。今夜は眼鏡が過ぎた夜だな。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眼鏡紳士同盟 鳥辺野九 @toribeno9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ