第4話 焔の眼 つつき

 川崎市内

焼け跡現場は警察により規制線が張られていた。規制線の外で野次馬達が集まっている。

 警官や刑事と混じって数人の消防士が焼け跡を検分していた。

 「ただの火事じゃないな」

 羽生は周囲を見回す。

 「殺人現場だけど犯人は魔術師じゃないわ」

 田代はシートをめくった。

 「火災原因は漏電でも放火でもないな」

 五十里は黒こげの柱を見ながら口を開く。

 「魔法陣もなしか」

 高浜が黒こげのテーブルをめくる。

 柴田、柳楽、時雨は周囲を見回した。

 「四軒の家を同時に焼くのはかなり高レベルの能力ね」

 和泉は隣りの家や倉庫に視線をうつした。

 「そうだな」

 エリックはうなづく。

 「ここをいれて十件目か。東京消防庁の地下金庫から「焔の眼」が奪われて三日。発生場所が海に近づいている」

 五十里はタブレットPCを出して地図を出した。そこには都内の家屋火災が南下して品川から川崎に移動している。このまま行くと東京湾に出る。

 「海に出てしまえば燃えるものは船か島になる」

 高浜は言った。


 翌日。

 横浜中消防局の車庫に入ってくる柳楽、時雨、五十里、下司。

 車両整備をしていた高浜と柴田は振り向く。

 「初島にある消防団から連絡があって、隣の音無島からの連絡が途絶えたとあるの」

 下司が口を開いた。

 「妙な物を見たらしい。音無島にたくさんの火の玉が見えたとある」

 写真を見せる五十里はタブレットPCを見せた。そこにはたくさんの火の玉らしきものが映っている。全体的にぼやけていてよくわからない。

 「音無島は定期便に乗らないといけれないが漁港から連絡がないそうよ」

 下司が首をかしげる。

 「三神さん達に頼んで一緒に様子を見よう」 高浜はうなづいた。


 二時間後。音無島

 初島からは三十キロ離れている。その島に接近する巡視船「やしま」「かいもん」「つるぎ」「あそ」「こうや」の五隻。

 「・・おかしいな漁港や魔術師協会出張所から連絡がないわ」

 大浦がつぶやく。

 いくら送信しても誰もいないようだ。普通ならそんなわけがなく誰かがいる。

 漁港に接岸する五隻。

 上陸する消防士達。

 元のミュータントに戻る三神達。

 「誰もいない?」

 漁協の入る建物をのぞく高浜。

 「なんの色もないなんてありえない」

 五十里が怪しむ。

 普通なら赤やオレンジとかあるのだ。それがいっさいない。

 「ここは人口五〇人で漁業が中心よ。出張所も空っぽなんてね」

 監視カメラに視線を向ける大浦。

 室内で録画したままになっている監視カメラをのぞく高浜達。

 「あいつだ!!」

 声をそろえる高浜と柴田。

 「水谷と八木ですね」

 時雨があっと声を上げる。

 「画面がやけに明るいけどなんだろう?」

 朝倉が首をかしげる。

 すると青い火の玉が複数よぎり、青い炎の形をした人間が歩き去る。

 「焔の眼だ。八木と水谷は住民を焔の下僕にしたんだ。一回下僕になると元に戻すのは不可能だ」

 高浜は後ろ頭をかいた。

 三神の電子脳にささやき声と映像が入ってくる。それは黒こげ漁船と貨物船がこの島にやってくる映像だ。

 「三神。どこに行く?」

 朝倉が声を上げた。

 漁港に出ると接舷する多数の漁船と貨物船が見えた。どれも黒こげなのだ。熱風と火の玉が降りてくる。

 「ブリザド」

 大浦と三島は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて熱風が冷風に変わり、火の玉が凍った。

 火トカゲと炎の人型がたくさん飛び出す。そのどれもが青い炎でできている。

 下司は早撃ちガンマンのような銃さばきで火トカゲを撃っていく。彼女の銃もたたの銃ではなく魔術武器である。出てくる弾は氷の弾である。命中すると凍る。

 五十里は斧で飛びかかってくる火トカゲをなぎ払っていく。

 炎の人型の間隙を駆け抜ける高浜。

 日本刀で斬られた人型は次々凍り砕ける。

 沢本は日本刀を振り下ろす。せつな衝撃波で炎の人型と火トカゲの群れが突き上げられ凍った。

 漁船から巨大なダイオウグソクムシが飛び出す。それも二十匹で眼が複数ついていて体長が十メートル。触手が何本もあった。

 そしてピンク色の背びれがいくつも地面の下を動き回っている。

 「グソクムシもどきとビーチシャークだ」

 朝倉が叫んだ。

 時雨は装甲車に変身。走り回りながら車体の機関砲を連射。屋根の砲台でグソクムシもどきを撃つ。

 柴田は片腕を長剣に変えた。それは水の雫がたくさんついている。その剣で炎の車や人型を次々に斬っていく。

 三神は動いた。その動きは魔物にも高浜達にも見えなかった。青い残影がビーチシャークやグソクムシもどきの体をえぐり、火トカゲを踏みつけた。彼はスピードを落として振り向くと死骸が転がっている。

 時雨は自走榴弾砲に変身して漁船を撃つ。青い光線は命中する凍り、砕け散った。

 しばらくすると船も敵も現われなくなった。

 「終ったの?」

 柴田が聞いた。

 「まだ終ってない」

 三神は背中ごしに否定する。自分のセンサーは敵がいる事を示している。

唐突に熱風が吹いた。

岸壁に這い上がってくる人間もどきの群れ

が襲いかかり高浜達は呪文を唱えた。

熱風が三神と柴田の周囲に吹き荒れ、八木と水谷が現われた。

メキメキ・・・ビキビキ・・

三神の手が鉤爪に変わり体から金属のウロコが生えて鎧化する。鋭い痛みに顔をしかめ腕を押さえる。

「痛みを感じるのね。私もよ」

柴田がささやく。

「たぶん普通のマシンミュータントより俺のは鋭すぎるんだ」

三神が推測する。

「あなたはその鋭いアンテナで声を聞いた。私も声と映像を聞いた」

柴田は身構えた。

「俺と君は似ているのかもしれない」

三神は結論を言う。

「佐久間というイージス艦も似たような所がある」

柴田は推測する。

水谷と八木は腕輪を操作すると動いた。

三神が動いた。水谷は長剣で三神の片腕の剣を受け止める。交差した剣の向こうで水谷が笑みを浮かべる。

三神は水谷の剣を弾き、背中から六対の鎖を出すと動いた。気がつくと水谷の腕が地面に落ち、胸や腹部にえぐられた傷があった。

水谷はニヤニヤ笑いながら腕をくっつける。

「おもしろいではないか。でも遊んでいるヒマはない」

水谷が片腕の装置を操作した。

三神はとっさに上体をそらした。そのそばを水谷の剣がかする。彼はすんでの所で剣をかわしながら飛び退いた。水谷の姿が消えた。せつな、わき腹に鋭い痛みが走る。

三神は舌打ちして、制御補聴器、ベルト、腕輪を外した。

とたんに頭をハンマーでたたかれるような痛みとナイフでえぐられるような激痛が全身を襲う。万力で心臓を締められるような痛み、脳裏に海に鮮血がしたたる映像がよぎる。

死んだヤン・ハカと同じ動きをしている。たぶん彼の装置は奴らからもらったのかもしれない。

三神はとっさに掌底を弾いた。

そばに現われた水谷がよろけたがすぐ姿が消える。

間違いない。サブ・サン達が使っている装置を使っている。時間と空間を操作している。

三神は水谷の鉤爪や剣をかわした。彼の鋭い蹴りを受け払う。

低い羽音が聞こえた。せつな水谷の剣が胸を貫く。

「ぐはっ!!」

三神は胸を押さえた。

水谷の姿が現われた。

三神は片膝をついた。全身に鋭い痛みを感じた。見ると胸だけでなく小さな傷や大きな傷がたくさん口を開けていた。水谷は剣を引き抜いて三神に馬乗りになった。


柴田の膝蹴り。

八木がひっくり返るがすぐ跳ね起きる。

柴田の速射パンチ。八木はすべてかわして鉤爪でえぐった。

柴田はくぐくもった声を上げる。服が破け皮鎧が見えた。でも引っかかれても傷がつかない。

八木が動いた。柴田は彼の蹴りを受け払う。低い羽音のような音が聞こえた。気がつくと柴田の胸や腹部、わき腹にえぐれた傷があった。金属ウロコがいくつか落ちた。

柴田は口からしたたる青い潤滑油をぬぐう。

 八木と柴田は遠巻きににじり寄ると同時に動いた。何度も交差して飛び退き柴田は片腕の機関砲を連射。青い光線の間隙を縫うようにかわす。

 柴田はとっさに上体をそらした。せつな鋭い痛みが走り胸やわき腹にえぐられた傷口が開いている。

 八木は彼女の部品を引っこ抜いた。

 くぐくもった声を上げる柴田。

 ドクドク・・・メキメキ!!

 柴田は鋭い痛みに胸を押さえた。金属の心臓が早鐘を打ち青白く光り部品を作り出しているのがわかる。電子脳になんの部品が作られて充填されるのか表示される。

 私は機械じゃない。

 ・・・護れ・・・戦え・・・

 またあの声が聞こえる。その声は移植された片腕の主である。片腕の主は自分を生きた機械にどんどん変えていく。

 「ジュエリーアイランドのタワーでの戦いはヤン・ハカが死んで崩れたがかまわないさ。君と三神はおもしろい実験体だ」

 八木は笑う。

 「実験体じゃない。おまえとちがう」

 反論する柴田。

 あの事件で片腕を失い気がついたら病院で金属生命体の腕が移植されていた。三神は事件に首を突っ込みすぎて拷問されてゴミ捨て場に記憶喪失で捨てられていた。

 「俺も実験体なんだよ」

 八木が動いた。彼の鋭い蹴りやパンチを受け払う柴田。彼女の腕に水滴がまとわりつき水の帯となってプロテクターのように覆って速射パンチ。

 八木はそのパンチをかわし、片腕の機関砲を連射。赤い光線が柴田の体を次々えぐる。

 柴田は片膝をつく。胸や腹部から部品が飛び出し、ケーブルが飛び出しているのが見えて鼓動する金属の心臓が見えた。

 馬乗りになる八木。彼は柴田に抱きつく。背中から伸びる触手が柴田の体に突き刺さる。

 目を剥く柴田。

 「君は僕の物だ。なんで拒否する」

 なめまわすような視線で八木は笑う。

 「おまえなんか消してやる」

 キッとにらむ柴田。

 かつては付き合ってデートはしたが今はそんな気はない。

 「君の頭の中を俺でいっぱいにするよ」

 キスをする八木。

 「おまえの物じゃない!!」

 柴田の両手から水がまとわりつきそれが八木を包んだ。八木の触手や腕、足、触手をバラバラにちぎった。

 



 馬乗りにされた三神は片腕の剣を水谷の胸に突き刺す。

 口から青い潤滑油を吐く水谷。彼の背中から六対の触手が三神の胸やわき腹、背中に突き刺さる。

 「ぐふっ!!」

 三神は口から緑色の潤滑油を噴き出す。

 水谷の触手から自分の燃料タンク、エネルギータンク、予備電源からエネルギーを吸い取られていくのを感じた。せつな、心臓を焼きゴテで押し当てられるような痛みに変わる。

 「ぐああぁぁ・・・」

 くぐくもった声を上げる三神。

 バキバキ・・・メリメリ!!

 三神の鎧化した体が激しく軋んだ。腕から湾曲した刃が飛び出し、背中から金属のトゲがいくつも飛び出し、電子脳に体内で造られた武器が選択される。

 「もっと面白い事をやれよ巡視船」

 水谷は舌なめずりする。

 「俺は巡視船じゃない。ミュータントだ」

 激痛に身をよじり、軋み音とともに両肩から小さな発射口がいくつも顔をのぞかえる。

 ・・戦え・・・護れ・・・

 自分と融合した船の声が聞こえた。時おり聞こえる。自分をどんどん兵器に変えていく。

 胴体が激しく軋み歪み、自分では抑えきれない。両肩、わき腹から銃口のようなものが顔を出して青白く光る銃弾が連射される。

 水谷の姿がブレたように見えた。

 「戦闘兵器。もっとやってみろ」

 水谷は笑いながら三神のエネルギーや潤滑油を吸い取り、触手を巻きつけた。

 三神はくぐくもった声を上げる。心臓の早鐘を打つ鼓動音が聞こえた。

 ・・・護れ・・・戦え・・・

 あの声が聞こえた。自分では抑えられない。

 「おまえなんかにやられてたまるか!!」

 三神の両胸、腹部、背中、両腕、膝から金属ドリルが飛び出し触手を引きちぎった。

 三神の両目が燃えるような青色に輝き、髪が逆立ち動いた。

 一瞬にして水谷はバラバラになった。

 三神が振り向いたが背中や胸、腹部、膝、両腕のドリルは出たまま。せつな、ふさがっていた傷口という傷口が開いて緑色の潤滑油が噴き出し目を剥いて倒れた。


 

 一時間後。

 病室に柴田と三神が寝ていた。

 その様子を監視カメラの画像を通して会議室で沢本達は見ている。

 部屋に入ってくる翔太、椎野、稲垣。

 画面に軋み歪む柴田の体と三神の両胸や腹部、腕、膝、背中から金属のドリルが飛び出ているのが見えた。

 「いろいろ聞きたいわ。まず三神に起きているのはなんなの?あの金属ドリルは?黄金色に輝く鉤爪は?」

 矢継ぎ早に疑問をぶつける三島と大浦。

 「柴田から出ている刃はなんだ?」

 高浜は聞いた。

 「二人に起きているのは移植された金属生命体がやった事よ」

 佐久間がわりこんだ。

 「三神の場合は自分の能力が変異したものだけど彼は拉致されて拷問されている。その時に金属生命体の補助タンクを移植された。それが戦っていくうちに進化した」

 オルビスは重い口を開く。

 「彼の場合はそれが不安定でコントロールができない」

 リンガムはホワイトボードに図案を書いていく。

 「私の場合は予備タンクなの。入れたのはシャロン。彼女は私を拉致して眠らされた間に背中に入れてきた。気がついたらすでに融合していた」

 どこか遠い目をする佐久間。

 「人体実験の末に金属生命体の補助タンクを入れるってなんだよ」

 朝倉が食ってかかる。

 「四年前、シャロンとカラムは追われていた。彼らは逃げながら足跡を残して刺客に殺された」

 佐久間は図面を見せた。それはMRI画像で普通のマシンミュータントにはない補助タンクがあった。

 「つまり、君も巻き込まれたのか」

 高浜は納得する。

 「三神と柴田に起きている事は「融合の苦痛」特に彼の場合は戦えば戦うほど、深い傷を負えば追うほど進化する。僕の種族はコアに深い損傷を追ってもすぐには死なない。動けなくなるだけ。それが彼にも起きている」

 オルビスは困惑する。

 「そんな・・・」

 翔太は視線を画面に移した。


 誰かが自分を拘束ロープで縛っている。

 またあの夢だ。決まってアクドグナガルと助手達が出てくる。助手の中にジョコンダがいるのが見えた。

 「君は何を嗅ぎまわっている。カラムとシャロンと一緒に」

 アクドグナガルはのぞきこむ。

 「巻き込んだのはおまえだろ」

 三神は食ってかかる。

 アクドグナガルはヘッドギアを彼にかぶせ機器のスイッチを入れる。細いドリルが三神の両方のこめかみに食い込む。

 三神はもがきのけぞり叫び声を上げた。

 「記憶を消していくんだ。特に我々に関係するものをだ。それ以外はどうでもいい」

 アクドグナガルは指示を出す。

 三神の腕が機関砲に変わりもう片方は長剣に変わる。二の腕から丸ノコギリが飛び出し、体から金属のウロコが飛び出し鎧化する。胸当ての厚みが増して医療用拘束チョッキが軋んだ。

 配水管が詰まるような呼吸音が響き、わき腹の割れ目から銃口がのぞく。

 「おもしろくなってきた」

 アクドグナガルは胸当てを触る。感触は硬質ゴムのよう。肉が割れ金属が軋み、何かが這い回るように盛り上がる。

 「成功とほど遠いですか?」

 助手が聞いた。

 「純血種の宇宙漂流民のようにならないな」

 うーんとうなるアクドグナガル。彼はプラグを三神の背中に差し込んだ。


 

 この心臓と体は嫌・・・。誰かこの心臓を取って。

 柴田は荒地を歩きながらナイフで自分の胸をさした。赤い血が流れる。

 ホッとする柴田。

 人間に戻れたんだ・・・

 次の瞬間、傷口から飛び出すケーブル。軋みながらサイバネティックスーツに変わり、皮鎧が歪みながら厚みを増す。

 ドクドク・・・メキメキ・・・

 柴田は皮鎧を鉤爪で引っかく。

 「嫌ああぁぁ!!」

 鋭い痛み、焼かれるような激痛に身をよじりのけぞり、心臓が青く輝いた。体内のケーブルや配管が激しくのたくり蠕動運動をしているのがわかる。また造り替えている。自分ではどうにもならない。

 ・・・戦え・・護れ・・・

 「嫌・・・戦闘兵器なんて・・」

 柴田はもがき、身をよじる。わき腹や腹部の穴から銃口や発射機が見えた。

 誰かが体を触っている。拘束チョッキを着用されているのか息苦しい。鎧化した胴体が歪み厚みを増して、拘束チョッキを突き破ろうとしているがそんなものは敗れなかった。

 

 

 誰かがプラグやケーブルを差し込んでいる。

 三神は肩で息をしながらもがく。サイバネティックスーツや鎧化した体の装甲が厚みをまして拘束装置を破ろうとしているのがわかる。医療用拘束チョッキはそんなでは破れない。ケーブルや配管が飛び出しそのチョッキの下で這い回っている。とにかく背中が焼けるように熱い。

 フラッシュバックのように映像が連続でよぎる。金属のウロコが生えて鎧化していく体。体内も内臓が生きた機械に変わり、血管や神経がケーブルや配管に変わっていく。あの融合の苦痛の悪夢だ。

 自分の体の生きた機械は戦えば戦うほど順応して造り替え続ける。自分ではどうにもならない。

 戦え・・・護れ・・・命をつなげろ・・・

 融合した船の声が聞こえる。なんで戦う事が命を繫げる事につながるのが矛盾している。

 誰かそばでしゃべっている。アクドグナガルじゃないようだ。



 「三神のそばにこの綿毛が一〇個落ちていたの」

 大浦は瓶詰めの紅色の綿毛を見せる。

 「よく回収する時間があったな」

 感心する朝倉。

 「時空の亀裂が発生しているんだね」

 翔太がのぞきこむ。

 「ヤン・ハカと戦った時は綿毛はなかった」

 五十里が思い出す。

 「それはヤン・ハカやバル・ジウがそれを打ち消す装置を持っていた。彼らは科学力でこの世界に時空宇宙船でやってきてそれ専用の携帯装置を使って存在する。この世界では彼らは生きて行けない。大気組成や環境も合わないし住む世界がちがうからね」

 オルビスは図を描いて説明する。

 「何が言いたい」

 沢本が詰め寄る。

 「三神にあまり韋駄天走りをさせてはダメって事。回数を決めないと時空の揺らぎが発生する。それと柴田もだよ。水を芸術的に操れると言う事は時空に歪みが生じているし、佐久間のテレパスも数百人を一気に操れて遠隔操作で吹雪を起こせると言う事も時空に異変が生じる」

 オルビスは数式を書きながら説明する。

 「三神、柴田、佐久間以外にも時空に異変を来たしてしまう人がいる。柳楽の重力とミャオのバリアやアニータ。ルース、ミンシンもそうね。彼らのおかげでサブ・サンや他の時空侵入者のタイムラインが消えている。消えてしまえば帰るしかない」

 リンガムは写真を出した。

 「サブ・サンは大胆な行動は起こせない。自分達のタイムラインがほとんどなくなっているからね。他に時空侵略者がいて知らぬフリするしかない」

 オルビスが説明する。

 「しかしどうする?三神達のおかげで奴らのタイムラインは次々消えた。でもサブ・サンが帰っても他の奴らがやってくる。時空の亀裂や揺らぎを塞がなきゃどうにもならない」

 困った顔の朝倉。

 「でも時空の異変を防ぐフィールドを張ることでそれは押さえられる」

 オルビスはバックから円板を出すとスイッチを入れる。丸い小さなバリアが飛び出す。

 「バル・ジウやヤン・ハカ、カメレオンの装置を回収したの」

 アーランが入ってきた。

 「ジョコンダや米軍が来る前にね」

 笑みを浮かべるオルビスとリンガム。

 「これは?」

 沢本達がのぞきこむ。

 「時空バリア装置。バル・ジウやヤン・ハカが科学力を駆使して戦っても綿毛が発生しないのはこれのおかげ」

 アーランはハンドモニターを操作する。

 「この中で三神達が技を発動しても綿毛や亀裂は発生はしない」

 オルビスは指摘する。

 「すげえな・・」

 感心する間村と沢本。

 「水谷は死んだけど八木は死んでいない」

 下司がふと思い出す。

 「それは「焔の眼」のせいだろう。あれは焔の怪物に変えるだけでなく邪神クジャラスボラスと一体になる遺物なんだがあれは一部でほとんどのパーツは先人達が破壊したんだ」

 高浜は資料を見せた。

 「邪神クトゥグアほどの威力はないか。なら私達でも倒せる」

 佐久間がはっきり言う。

 「でもその力は邪神クトゥグァに匹敵する程の青い焔を自在に操り、焔の下僕を無限に作り出し、周囲を火の海に変える。八木は死んでいないし死体もない。海に出たという事は残りは船しかない」

 高浜は黒く焦げた地面の写真を出した。

 「クジャラスボラスはエネルギーを求めて獲物をひたすら食べる。なら大きなエネルギーなら姿を現して引き寄せられる」

 大浦はひらめいた。

 「でもそんなエネルギーはどこに?」

 翔太がわりこむ。

 「僕やリンガム。サラトガみたいな空母のエネルギーならやってくる」

 オルビスが答える。

 「じゃあサラトガとエセックスとあの金魚のウンコに釣りエサになってもらうしかないわね」

 三島は釣竿と魚の絵を描く。

 「そうか袋小路に追い込んで時空バリアを使って閉じ込める」

 ポンと手をたたく翔太。

 「でもどこに追い込む?」

 椎野と稲垣が聞いた。

 「大きなエネルギーが渦巻く大都市に引き寄せられる傾向があるから東京湾の出入口に仕掛ける」

 アーランは地図を指揮棒でさす。

 「なら海保は怪しい船を捜す」

 沢本は口をはさむ。

 「俺達も手伝う」

 間村は手招きした。



 翌日。在日米軍横須賀基地

 ロビーに不機嫌な顔でクリス、アイリス、レジー、レイスがいた。

 腕を組む間村、室戸、霧島、佐久間。

 「なんでこいつらをいれるんだろ。検問の意味ないじゃん」

 「役に立たないじゃん」

 文句を言うレジーとレイス。

 「検問の兵士を操るのは簡単だった。三秒で意識を操れた。だから呼んだ」

 しゃあしゃあと言う佐久間。

 「ジョコンダ議員はハワイよ」

 アイリスが牽制する。

 「ジョコンダには用事はないし、米軍に期待もしていない」

 室戸が言う。

 「火災調査団と海上保安庁と俺達はある敵を追っている。怪物は焔の魔物で大きなエネルギーが好物」

 霧島がホワイトボードに概要を書く。

 「何が言いたい?」

 クリスが聞いた。

 「簡単だ。釣りエサになれって言っている」

 しゃらっと言う間村。

 「少しは役に立ってよ」

 佐久間が口をはさむ。

 「冗談だろ?」

 クリス達が声をそろえる。

 「冗談で言わないさ。南太平洋の事件で翔太達を追いかけて地図を奪おうとしたし、傍受しようとしたから当然」

 「南太平洋の国連討伐隊の作戦なんてカメレオンの電波妨害がひどくて傍受できなかったし、エシュロンは故障して作戦内容は聞けなかった」

 不満そうに言うクリス。

 「それはよかった」

 間村がしれっと言う。

 「また家族か親戚が借金を作ったんだろ?いい金貸し紹介するよ。一週間で三割で居酒屋なんだ。枝豆一粒一万円。在日米軍の許可証を持っているから出張もできる」

 室戸はニヤニヤ笑う。

 「そこの金魚のウンコ二人はギャンブル依存症だしまだ借金があるんだろ」

 霧島は笑みを浮かべる。

 「簡単よ。エサになるか金貸しにするかよ」

 詰め寄る佐久間。

 「俺達にメリットが何もない」

 不満を言うレジーとレイス。

 「当たり前でしょ。いつも邪魔ばかりするからちっとは囮の気持ちになってよ」

 当然のように言う佐久間。

 「そんな作戦受けられるか!!」

 目を吊り上げるクリス。

 「じゃあ金貸しを紹介する」

 「そんな業者は出入り禁止にできる」

 「クリスさんお金は返しましょう」

 いきなり割り込んでくる業者。

 「誰?」

 クリスとアイリスが声をそろえる。

 「間村さんから紹介されました金貸しのそら豆です」

 許可証を見せる業者。

 「正真正銘の許可証よ」

 アイリスが驚く。

 「わかったからこいつをなんとかしろ」

 クリスは嫌な顔でうなづいた。


 翌日。

 ナイフでえぐられるような痛みに身をよじる三神。

 自分には生身の部分はない。すべて生きた機械だ。損傷やダメージは痛みや苦しみとして送信される。肺や心臓を刺すような痛み。

 鼓動音が聞こえ軋み音が聞こえた。

 唐突に胴体が軋み歪んで三神は目を開けた。

 分厚い医療用拘束チョッキが目に入り、胸から二本のプラグを引き抜くのが見えた。

 「気がついたのね」

 平賀はのぞきこむ。

 「ここは?」

 「横須賀海軍病院よ」

 「私も気がついたばかりなの。三日間も寝ていたみたいなの」

 隣りのベットから柴田の声が聞こえた。

 身を起こす三神。

 「水谷と八木は?」

 三神があっと思い出す。

 「水谷は倒したけど八木は死んでない」

 シドは器具をかたづけながら答える。

 「え?」

 「二人とも覚えてないの?」

 シドと平賀が声をそろえる。

 「水谷と戦ったのは覚えている。途中から覚えてない」

 「八木と戦ったけどその先は覚えてない」

 三神と柴田は首を振った。

 「あなた方は二人を倒した。八木は焔の眼を持っている。あれは邪神クジャラスボラスの一部。他の部分は先人達が破壊。一部で絶大な威力があって焔の邪神になれて下僕や魔物を作り出せて周囲を火の海にできる」

 資料を見せるシド。

 「今、間村さん達が八木を捜索している。作戦は簡単。釣りエサはサラトガ達で東京湾の出入口のワナに誘い込む」

 概要を説明する平賀。

 「ずいぶん乱暴な作戦だな」

 三神は腕を組んだ。

 「でも八木はなんとかしたい。行きましょ」

 柴田は言った。


 夕方。

 相模湾沖から百キロの海域を航行する空母

「サラトガ」強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」

 「なんで俺達がこのクソ作戦に参加しなければいけないのだろう」

 「作戦が簡単すぎる」

 不満を言うレジーとレイス。

 「金貸しがしょっちゅう来るよりはマシ」

 たんか切るアイリス。

 「それは俺も同じ。作戦の説明がざっくりしすぎる」

 不満を言うサラトガ。

 作戦の内容がここら辺の海域をうろつくだけでOKというのはないだろう。

 「バカに風が熱くない?」

 レジーとレイスが疑問をぶつけた。

 「熱風で七十度なんてありない」

 温度計を見るアイリス。

 「おかしすぎだろ」

 サラトガが言い返す。

 唐突に周辺の海水が沸騰しはじめた。

 「なんだ?」

 焔まみれの巨大クジラが浮上した。全長五〇〇メートルでアーチ型の門をその体に覆っている。

 「出たぁぁ!!」

 レジーとレイスが叫んだ。

 「こいつを東京湾出入口まで誘うぞ。ミサイル発射!!」

 サラトガは声を荒げた。

 四隻は対艦ミサイルを発射。正確にミサイルはクジラに命中した。

 四隻はエンジン全開でクジラから離れた。

 「コラァ!!間村、佐久間!!」

 アイリスが無線ごしに声を荒げる。

 「何かしら?」

 「何だよ」

 間村と佐久間が無線ごしに返事をする。

 「バカ野郎!!化物じゃねえか!!」

 食ってかかるサラトガ。

 「ついにヒットしたんだ。大成功」

 他人事のように言う間村と室戸。

 クジラは焔を吐いて、門の砲台から青色の焔の砲弾を発射。

 それを四隻はジグザグにかわした。


 その頃。東京湾出入口

 四隻の台船が展開していた。そのうちの一隻にハバルタグがリング状の建造物を置いていた。操縦するのはアーランである。

 助手席でリンガムは作業の振り分けと機器のチェックをしていた。

 「こちら二号作業船。準備完了」

 「三号と四号船も完了」

 オルビスと芥川が報告する。

 アーランは操縦桿を握る。一号台船のそばに小島がある。直径二十メートルの岩礁だらけの島だ。

 「目標タンカーを吸い込み接近」

 リンガムが報告した。


 

 両目から光線を発射する魔クジラ。

 すぐそばを極太の光線がかすり、火柱と爆発音が響いた。

 ハバルタグの操縦席にいるアーランとリンガムにも見えた。二人は冷静にタッチパネルを操作した。

 巨大な焔タンカーに追いかけられる米軍のくだんの四隻が見えた。船体は傷だらけだがエンジン全開で走っていた。四隻は台船のそばを走り去った。

 「時空バリア起動」

 アーランはスイッチを押した。

 リング状のタワーから稲妻状のレーダーが出てあと三つのリング状のタワーをつないで半透明のバリアが張られた。焔タンカーはそのまま轟音とともに激突した。

 しかしそんなでは敗れなかった。タンカーは二対の錨で壁をたたくがビクともしない。

 その海域に接近する五隻の巡視船。沢本、三神、朝倉、三島、大浦である。

 空を舞うハンター達。

 テレポートする五隻。

 「やしま」の船橋ウイングから出てくる消防士達。高浜、柴田、柳楽、時雨、五十里、下司。

 間村、室戸、霧島、佐久間が変身する護衛艦がテレポートしてくる。

 九時の方向にテレポートするオルビスとリンガム、芥川。三人は上陸艇の甲板に設置されている巨大砲台の操作台にいる。

 「ビックガン。発射」

 オルビスは叫んだ。

 青白い極太光線がタンカーの船体を穿った。

 オルビス、リンガム、芥川はそれぞれが融合する船に変身。甲板から格納された砲台を出して発射。火柱が連続で上がり爆発した。

 ハンター達がそれぞれが持ちうる最大の攻撃魔術をぶつけた。

 沢本は二対の錨を交差した。衝撃波により火の海蛇や火トカゲが砕け散る。

 貝原と三神は機関砲を連射。

 火の玉を撃墜する。

 三島と大浦、室戸、間村、霧島は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて白色の球体が出現して船内に飛び込んだ。とたんに閃光とともに爆発。複数の爆発と衝撃波で船体が木端微塵に吹き飛ぶ。

 濃密な煙がたちこめる。

 魔クジラがぬうっと現われ、炎の触手デなぎ払った。

 間村、室戸、霧島は散開してかわす。

 飛翔音が響いて戦闘機編隊がミサイルを発射。ミュータント達はテレポートした。正確に目標に命中した。

 魔クジラは口から青い焔を吐いた。衝撃波でハンター達のほとんどが吹き飛ばされる。

 両目から青い炎をともなった光線がなぎ払うように発射され、火柱と突き上げるような衝撃波に間村達が弾き飛ぶ。

 魔クジラが顔をオルビス達に向ける。

 高浜と五十里と下司がジャンプした。浮遊の呪文はかけたからそのまま空を舞う。

 接近してきた上陸艇に飛び乗る時雨と柳楽。

 時雨は自走榴弾砲に変身。方向から青白い弾が魔クジラに命中。

 柳楽の二の腕がパンパンに膨れ腕はバズーカー砲に変形。黒い球体をともなった光線を連射した。

 三神が動いた。魔クジラの複数の触手がちぎれた。

 魔クジラは口から炎を吐き、目から光線をなぎ払うように発射。衝撃波とともに弾き飛ばされる沢本達。

 台船に接舷して元のミュータントに戻る三神。彼は柴田を助け起こす。

 元のミュータントに戻る佐久間。

 「制御装置を全部外して。ありったけの力をぶつける」

 佐久間は補聴器、ベルト、腕輪を外す。

 「俺のは制御不能だ」

 三神はふっきれた顔で言う。

 「私もよ」

 柴田がうなづく。

 「僕とアーランは作業タグで内部に侵入して内部の増幅装置を破壊する」

 台船に接近する小型タグ。操縦席にアーランと翔太がいる。

 「我々も助勢する」

 台船にテレポートしてくるミャオ、モルシ、ゲータ、ミリガン、キタナの五人。

 「え?」

 「南太平洋の火災調査団も加勢する」

 パラオ語で言うミリガン。

 ミャオ達は制御装置を全部外した。

 片腕をバズーカー砲に変形させる佐久間。

 「ありったけの水分を集める」

 佐久間は声を低めた。

 柴田は片腕を放水銃に変形。精神を海水に振り向けた。海水が銃口に集まっていく。

 佐久間の片腕の砲口にも氷の塊が集まる。

 ミャオは青い球体が形成。

 キタナは氷、モルシは雷、ミリガンは風、

ゲータは青い炎である。

 すぐ頭上を魔クジラの触手がかする。

 三神はジャンプして触手に飛び乗り、黄金色に輝く鉤爪で魔クジラの魚眼を引っかき、細い触手を切断した。

 眼をかばうしぐさをする魔クジラ

 邪神とはいえどの生命体も眼は弱点だ。八木はこの内部にいる。

 三神が動いた。その動きは魔クジラにも見えなかった。眼をえぐり、視神経を切り裂いて飛び出し触手から頭に飛び乗る。

 魔クジラの口に飛び込む作業タグ。口から食道に入り、そこから内部に侵入した。

 「絶対零度の白鯨」

 佐久間は氷の塊に精神を振り向けた。とにかくこの邪神にかみつけるほど巨大な奴をイメージした。吹雪が吹き荒れ氷の塊は巨大白鯨に変形してその鋭い牙で噛みつく。

 「氷鯱」

 キタナの氷の塊も白鯱と化して巨大化して噛みつく

 「竜巻に炎と雷を入れて」

 ミリガンは両手を高く掲げながら指示を出した。

 モルシとゲータは雷の塊と炎の塊を入れた。

 巨大竜巻は魔クジラを包んだ。

 翔太は時空コンパスを出して方向を指示する。そのまま行くとタービンがあった。

 アーランはスイッチを入れてレーザー砲を発射した。

 三神が動いた。そのまま駆け下り海上を走り抜けた。青い残影となって台船に飛び乗る。

 柴田の放水銃から飛び出した海水の塊は巨大サメとなって魔クジラの体に噛みつく。

 ミャオが作り出した青白い塊が魔クジラの口に飛び込み胃袋で破裂した。

 魔クジラはよろけ煙が噴き出して縮小。衝撃波とともに爆発。しかし時空バリアにより爆発も爆風も来ない。

 胸を押さえよろけて片膝をつく佐久間達。

 柴田は口から青い潤滑油を吐いた。

 海中から炎のクラゲが飛び出す。巨大クラゲは太い触手を突き上げた。衝撃波でオルビスやリンガム、芥川が吹き飛ぶ。

 複数の触手の先端から光線を連射。

 三神は触手に飛び乗り動いた。その動きは魔クラゲには見えなかった。触手から触手に駆け回り頭部を切り裂いて侵入して内部の脳や内臓のような物のそばを駆け抜ける。青い残影が頭部の傷から飛び出した。

 内部で爆発の連続音が響く。

 クラゲはよろけ小島に激突した。クラゲは排水口から作業タグを吐き出した。

 三神はとっさによけた。そのすぐ横を八木の斧がかする。

 柴田の飛び蹴り。

 八木がひっくり返る。彼は腕の装置のスイッチを入れた。低い羽音が聞こえた。

 佐久間達の胸や腹部、肩を短剣でえぐり、三神はその短剣を片腕の剣で何度も受け払う。

 再び低い羽音がした。せつな、三神の胸を貫いた。

 八木は八対の触手を出して三神の背中やわき腹を突き刺し剣を抜いた。触手から三神のエネルギーや潤滑油を吸い取っていく。

 「ぐあぁぁ!!」

 眼を剥いてのけぞる三神。

 メキメキ!!

 体内から金属がこすれるような軋み音が響いた。腕が機関砲に変わり銃剣が何本も飛び出し、背中から何本も金属のトゲが飛び出す。

 柴田の首をつかみ上げ四対の触手を胸やわき腹に突き刺し吸い取り始める。

 「柴田。君は僕の物だ」

 柴田に無理矢理キスする八木。

 目を剥く柴田。激しく軋む胴体。

 心臓や肺を万力で締められるような痛みにのけぞる。

 八木の背中から胸に突き出す刃。見ると佐久間の片腕の剣が貫いている。傷口から凍っていく。

 八木の背中からもう二対の触手が飛び出て佐久間の胸を貫いた。

 佐久間はその触手をつかんだ。

 八木は二人を捨てると振り向いて佐久間に抱きつきキスをする。

 「君もキレイだよ」

 「キモい男!!」

 突き放す佐久間。

 「君も気に入ったよ」

 八木は再びキスをして抱擁する。

 「ぐはっ!!」

 佐久間はのけぞった。体を刃という刃が貫いた。

 「護衛艦「あしがら」痛い?苦しむ君も好きでたまらない」

 ほおずりする八木。

 のけぞる佐久間の体にたくさんの刃を突き刺したまま八木はキスをする。

 バキバキ!!メリメリ!!

 目を剥く佐久間。キスと同時にエネルギーが吸い取られていく。電子脳に船の状態と自分の体の損傷が表示される。吸い取られ心臓を万力で締められるような激痛にのけぞる。

 柴田は片腕の剣で八木の首を突き刺した。噴き出る青色の潤滑油。八木は叫び声を上げて突き飛ばす。

 三神は口から緑の潤滑油を噴き出す。

 電子脳に体の各部の状態が表示される。全部赤色で全損。傷口から機械油と潤滑油が流れ続け地面に広がり続けている。

 ・・・まだ敵がいる。動けこの体・・・

 身を起こす三神。全部の傷口から歯車や部品が落ち、腹部やわき腹からケーブルや配管、ポンプや弁が垂れ下がる。

 「ぐっ!!」

 心臓が早鐘を打ち、背中が急激に熱くなる。補助タンクが拍動してコアが青色に輝くのが傷口から見えた。胸を押さえ目を剥く三神。

 金属骨格そのものが歪んでいる。また何かを造り出している。心臓の鼓動音と軋む音の連続音が自分の耳に嫌でも入ってくる。

 敵はまだ前にいる。決着がついていない。

 三神はくぐくもった声を上げた。

 佐久間は口から潤滑油を吐いた。

 敵は健在だ。排除しなければいけない。

 佐久間は身を起こした。傷口から部品や歯車が落ちた。

 肉が割れ、骨が軋む音が響き、背中から五本のねじれたトゲが生え、髪が逆立ち、両目は燃えるような紫色に輝き、紫色のオーラも体全体から放っている。

 八木は柴田に馬乗りになり抱きつく。

 柴田の六角形の金属板が輝き、水色の淡い光を体全体から放つ。そして体全体が透けるように向こう側の壁が見えた。柴田の髪が逆立ち両目が青色に光を放つ。

 低い羽音が聞こえた。

 三神はとっさにかわした。せつな鋭い痛みが走り腹部を押さえる。見ると全身に大小のたくさんの傷が開いている。

 八木の触手が三神に巻きついた。

 脳裏に拷問された映像がよぎる。

 三神の胸や腹部、背中、わき腹、膝、両腕から金属ドリルが飛び出し、引きちぎった。そして両目が青色に輝き、髪が逆立ち、全身が黄金色に輝き動いた。

 低い羽音と黄金色の残影が何度も交差する。閃光が何度も起きて風が吹き荒れ、陽炎があちこちに現われるがすぐに消滅する。

 しばらくすると閃光とともにバラバラの八木の体が地面にたたきつけられ三神も着地。彼は振り向いた。

 黄金色のオーラが消えたが金属ドリルは体から何本も飛び出したまま、背中のトゲやわき腹の割れ目から丸ノコギリが見えている。

 アーランは翔太を助け起こす。

 翔太は時空武器を杖に変えた。

 バラバラだった八木の体がくっついて青い炎を噴き出す。そして大きくなる。十メートルの巨人になった。

 三神だった者が吼えた。

 八木だった青い焔の巨人がこぶしをふりあげたたきつけ、かかとおとし。

 アーランは翔太を抱えて空を舞った。

 島の地面が陥没した。

 三神が動いた。黄金色の残影となって焔の巨人のそばに着地。閃光とともに巨人の体がバラバラになる。

 佐久間は片腕から氷塊の白鯨、柴田の腕から水サメが飛び出してバラバラの巨人の体に噛みついて飲み込む。

 焔の塊が台船に落ちた。八木が跳ね起きる。

 三神が動いた。黄金色の残影がそばに現われたせつな、八木がバラバラになりその手には赤い水晶玉と心臓が握られていた。

 八木が振り向き頭を抱えると閃光とともに爆発。時空バリアにヒビが入りガラスが割れるような音がして砕け散った。

 三神は虚ろな目で見回した。とたんに傷口という傷口がいっせいに開いて緑色の潤滑油や機械油が噴き出し、体内機器から火花と煙が出て部品が飛び散り倒れた。

 柴田や佐久間は虚ろな目でにらむと傷口という傷口から潤滑油と機械油を噴き出し火花と煙を出して倒れた。

 翔太を抱えたアーランは着地する。

 翔太は時空武器をハンマーに変えると八木の心臓と赤い水晶玉をたたき割った。


 

 「・・・壊滅は防ぐ事ができたが佐久間、柴田、三神はあの状態か」

 医務室に入るなり高浜はつぶやいた。

 間村と沢本は振り向いた。

 翔太とアーランが入ってくる。

 医療カプセルの培養液に三神、柴田、佐久間の三人が入れられている。体は傷だらけで傷口はパックリ開いたまま、片足や片腕がなく体の一部が欠損していた。

 「あの三人の姿はなんだ?」

 間村はタブレットPCを見せた。そこには両目が燃えるような青い目。逆立つ髪、透けるような光る体の三人が映る。

 「三次元に身を置きながら五次元でも存在できる進化した姿ね。ただ肉体を持ったまま急激になったからエネルギーの損耗が激しく命の危機にある」

 アーランはホワイトボードに図案を書いて説明する。

 「つまり邪神クトゥルーや高度精神生命体のエイリアンと戦えると言う事だよ」

 翔太が指摘する。

 「オルビス、リンガム、芥川、ミャオ、モルシ、ゲータ、ミリガン、キタナも同様の事ができるけど損耗率が極めて激しい。死と隣り合わせと言う事ね」

 アーランは指摘する。

 「何が言いたい?」

 間村が目を吊り上げる。

 「佐久間や三神、柴田に限界を越えてまで力を使わせてはいけない」

 翔太がはっきり言う。

 「時空バリアでは時空の亀裂を防ぐ事が出来たけど限界がきて壊れた。三人が限界を越えてまで力を使えばサブ・サンや他の時空侵略者の時空フィールドやバリアを破壊できるけど時空異変まで起きてしまう」

 アーランが説明する。

 「他の時空侵略者を引き寄せやすくなる」

 翔太が指摘する。

 「諸刃の剣と言う事か」

 納得する沢本。

 「そうなるね。邪神や高度精神生命体と戦うためには彼らが限界を超えて戦うしかない」

 アーランが言う。

 「それで体やコア、心臓はもつのか?」

 高浜が疑問をぶつけた。

 「もたない。異星人の中には進化して四次元や五次元に移行している種族もいる。それらと対等に戦うには次元移行装置を使って同じ次元に移行して戦うしかない」

 アーランは数式と図案を描いて説明する。

 「同じ土俵に立てば戦えるのか次元移行装置はあるのか?」

 間村が身を乗り出す。

 「造らないとない。でも柳楽と柴田は第二東名事件で増幅装置を最大MAXにしてあの姿になった。作戦としても使える」

 アーランは冷静に言う。

 「それは捨て駒の決死部隊として使えると言う事か。俺の部下をそんな作戦に使わせないぞ」

 高浜が声を荒げる。

 「それって神風特攻隊と同じじゃん」

 翔太が詰め寄る。

 「カメレオンやジョコンダと同じだな。似た者同士は同じか」

 間村は目を吊り上げる。

 「時と場合によってその作戦もありだと言っているだけ。めったにやらない」

 アーランは目を吊り上げて出て行った。



 何時間経っただろうか?

 金属が軋み嫌な音が自分の体から聞こえる。自分の体に生身の部分はない。護衛艦「あしがら」と融合してすべて生きた機械に変わっている。自分は戦闘兵器と変わらない。こんな体もコアも嫌である。

 ナイフでえぐられるような鋭い痛みに思わず誰かを蹴り飛ばした。

 地面に転がる金髪女。

 「痛い!!」

 「あらシャロンじゃない」

 佐久間は見下ろした。

 跳ね起きるシャロン。

 「ねえかくまって」

 話を切り出すシャロン。

 「なんで?」

 「追われているからに決まっている」

 「やだ」

 「すごいヤバイ奴ら。あんたも特命チームに入るなら覚悟した方がいいけど」

 周囲を見回すシャロン。

 「だからって拉致するの?」 

 腕を組む佐久間。

 「拉致しないと説明できないから」

 「あんたはバカ?」

 「やり方はよくないけどそうしないと逃げられないし、これを預かって」

 ジュラルミンケースからホルマリン漬けの物を見せた。

 「どこかの研究所から盗んだ?」

 顔が引いている佐久間。

 「だからこれを預かって」

 せがむシャロン。

 「嫌よ。そんな不気味な物」

 「マシンミュータントだってこの補助タンクはあるし金属生命体にもある。奴らは実験を繰り返していた」

 「でも嫌」

 「スリブル」

 「な・・・」

 シャロンは呪文を唱えた。強い眠気に誘われ佐久間は倒れた。

 気がついたのは四時間後だ。気がつくとシャロンもいなくなっていた。

 シャロンは数日後にサンフランシスコ湾で死体になって上がったのをニュースで知った。

 その時はなんともなかったが最近になって機能してなかった予備タンクが活動し始めた。原因は尖閣諸島の戦いで特命チームが結成されてからだ。力を使えば使うほど活発になる。シャロンが自分を眠らせて体内に入れた物は金属生命体の予備タンクだった。自分にも柴田や三神、ミャオ達と同じ事が起きている。できればこんな船と切り離したい。

 メキメキ!!ギシギシ!!

 心臓を焼きゴテを押しつけられるような激痛にのけぞり、軋みながら金属ドリルや刃が体のあっちこっちから飛び出しているのが見えた。金属鎧に全身を覆われ両胸やわき腹、腹部、両腕、膝から複数の金属ドリルと丸ノコギリが飛び出し、背中からは鎌の刃が十本も出ている。

 ドクドク・・・

 早鐘の心臓音が聞こえた。

 この体は嫌。どんどん自分を戦闘兵器に変えていく。

 身をよじりのけぞる佐久間。

 隣りのストレッチャーでも暴れている男女がいる。よく見ると三神と柴田である。

 三神と柴田のわき腹や胸、腹部、背中に複数のドリルとトゲや刃が飛び出て傷口からは蠕動運動するケーブルや配管、ひどく歪む金属骨が見えた。

 二人の眼は血走り、口から牙が生え肉が割れ、軋み音や心臓の鼓動音が聞こえ、叫び声が不協和音となって響く。

 自分にもあの二人にもどうやら融合の苦痛が起きているようだ。普通のマシンミュータントは複数回も融合の苦痛は起きないがオルビスの種族は寿命で死ぬまで戦闘や攻撃を受けたり、乗り物を交換する度に融合の苦痛が起きる。文字通り生涯その痛みや苦しみにずっと悩む事になるのだ。

 唐突に頭をハンマーでたたかれるような激痛に身をよじった。せつなズン!と突き上げるような痛みに焼かれるような痛みが走り何がなんだかわからなくなった。



 誰かが皮鎧を触っている。センサーを通してわかる。それに何かを挿入している。鋭い痛みに目を開ける柴田。

 自分の体に医療用チョッキが着用されていてケーブルが各部に接続されている。

 「気がついた?」

 ふいに声をかけられ振り向くと同じような医療用チョッキを着用した三神と佐久間がいた。

 佐久間と三神の医療用チョッキからプラグ。を引き抜く平賀とシド。

 「ここは?」

 柴田は聞いた。

 「横須賀海軍病院。三人とも三週間寝ていた。どこまで覚えているの?」

 平賀は聞いた。

 「時空バリアの内部で邪神クジャラスボラスと一体化した八木と戦った。タンカーからクジラに戻ってクラゲに縮小して八木と戦った。途中で限界ギリギリまで能力を使って水の巨大ザメを出した。クラゲから元の姿に戻った八木に何回もキスされてそっから覚えていない」

 柴田はおぼろげながら思い出す。

 「私も八木にキスされたり抱きつかれてエネルギーを取られてから記憶がない」

 「俺の場合は何回も八木にエネルギーを吸い取られ、何回も刺されて大量出血した。そこから記憶がない」

 腕を組み首をかしげる佐久間と三神。

 「君達は限界の限度を越えて能力を出した結果、暴走しながら八木と戦っていた。記憶がなくなるのは限界がきて電子脳や神経がショートしたからだ。火事場のクソ力を出し続けた結果、全損した」

 シドはTVモニターのスイッチを入れる。そこにもがき苦しむ三人の姿が映し出されている。

 顔が引いている佐久間、三神、柴田。

 とても自分達とは思えない怪物達が苦しみもがいている。目が血走り、口から牙が生えて全身から複数の金属ドリルやトゲ、丸ノコギリが飛び出し、体全体はひどく歪んでいる。

 「暴走すると敵が死ぬまで戦いをやめない。敵が死ぬと休眠状態になって全身が大破するほどの損傷で停止する。でも死なないのは融合の苦痛を何回も起こして死なないように順応していくからなの。だからあなた方は三回も五回もコアや心臓が止まった。でもその度に金属生命体の補助タンクや予備タンクが起動して復活させる」

 「オルビスやリンガムの種族が不死身といわれる由縁はこの融合の苦痛にあるの。でも彼らにも寿命はあるし、老化もある。寿命で死ぬまで永遠に苦しみと痛みに悩む」

 「君達もオルビス、ミャオ達もこれに近い。敵の攻撃で深手を負い、限界を超える事で暴走する。深手を負わなくても増幅装置を最大MAXにする事でも暴走する。第二東名の襲撃事件で柴田と柳楽がその作戦を敢行して実証している。そんな事はめったにないが今後はあるかもしれないが作戦は成り立つ」

 困った顔でシドや平賀は画面で起きている事を説明した。

 「そんな乱暴な作戦があるか!!」

 一喝する三神。

 「そんなんじゃいくつコアがあっても足りない。乱暴するぎる作戦は多くの犠牲者が出るわ!!」

 声を荒げる佐久間。

 「私も柳楽も第二東名の事件で増幅装置をMAXまでやって心臓が止まった。あんなの二度とごめんよ!!」

 目を吊り上げる柴田。

 「多くの犠牲がともなう場合はミャオ達やあなた方も暴走させた上で投入する作戦を提案する事もいとわない。その時は遂行してもらうと思うけど、そんな事は起きないとは限らないと言っただけよ」

 冷静に言う平賀。

 「君らはあの姿になる事で四次元や五次元といった多次元で戦えて邪神クトゥルーや高度精神生命体のエイリアンとも対等に戦える。普通は次元移行装置を使って移行しないと戦えないが君らは戦える。そこに敵がいる限り攻撃をやめずに戦い続ける」

 メガネをずり上げるシド。

 「ただ暴走すると時空の亀裂や時空異変が起こりやすくなるし、暴走しなくてもあなた方は強い能力を持っている。アーランに時空バリアを作ってもらった上でそこに投入する」

 平賀は数式や化学式をボードに書きながら説明した。

 「俺達は実験動物じゃないぞ。暴走させられる身になれよ」

 胸ぐらをつかむ三神。

 「三週間ぶりに目覚めたら暴走する事をいとわない作戦の提案とはね。ジョコンダと変わらないわね」

 佐久間は突き放す。

 「もう少しまともな制御装置や作戦を考えなさいよ」

 食ってかかる柴田。

 「俺達はパトロールに戻ろう」

 三神は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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火災調査団スクワッド ペンネーム梨圭 @natukaze12

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