異世界召喚発狂寸前メンタルギリギリ日記

日記をつけようと思う。と言ってもそんなにたいしたものじゃなくて、備忘録みたいな自分で読み返すくらいのものだ。その時何を感じたのか忘れないってことが重要なんだから、毎日書くとか形式とか、そういうことは無視する。読みづらいとかいってもこれ書いてるのは自分だし。すぐ上に書いた通り、何を感じたかを忘れないこと、これが重要だ。


◯月×日


今日、おれは異世界に神として召喚された。

何を言ってるのか分からねーと思うがおれも分からなかった。催眠術とか瞬間移動でもない、本物の異世界。しかも、おれが神様! ゲームでありそうだよなこんなの。ただ、おれの召喚されたこの世界はあんまりゲーム向きじゃなかった。


最初だからこの世界についてざっと書いておく。

この世界は十数ヵ国によって成り立っている。過去には戦争もあったが、現在は国々の努力によって平和が保たれていた。そんな中、謎の生命体が現れた。姿は様々だが共通して生物と無生物の中間のような形をしており、知能はあるが意志疎通はできない、破壊の限りを尽くすだけの人類の敵が。人々はやつらを“悪魔”と呼んだ。

各国が結託し対抗を続けていたが事態は徐々に悪化していった。やつらは進化しているのだ。はじめは一般人が素手で倒せる程度だったものが、今は普通の重火器ではかすり傷さえつかず、大きさも個体差はあるが巨大化の傾向がみられる。


重火器すら効かなくなった悪魔に対抗するために産み出されたのが──“神降ろし”だ。


それまでの、理由は不明だが宗教施設や聖遺物などを避けるような素振りに着目し、この世界の神を介してであれば対抗できると推測したそうだ。”悪魔”という呼び名はこれに由来する。


結果は、大成功。全世界の協力によって急速に発達した降霊術は神さえ降ろし、憑依された人間たちは文字どおり神業によって悪魔を殲滅した。

だが、悪魔の進化は未だ止まらず、膠着状態が続いている。そこで、神降ろしはさらに発展される。憑依者を介さずに、この世界へ直接神を呼び寄せたのだ。


で、召喚されたのはおれ。

高校三年生になったばかりの日本人男性。


ぜってーおかしいだろ。なんで神様の召喚で男子高校生呼んでんだよ。

事情を聞いた後ならそう言えるけど、その時は知らない場所で知らない人間が狂喜乱舞しているのを茫然と見ていることしかできなかった。

この世界に召喚されたおれは実際がどうであれ、ともかく神らしい。実験用に拘束されていた低級悪魔はおれが召喚された瞬間消滅し、そのあとの実験で戦わされた中級悪魔はおれが持たされた錫杖(みたいなもの)を振ると砕けて消えた。持つだけで神性が付与されうんぬんかんぬんと、また大喜び。こっちはいきなり身長の倍くらいある変なのと説明なしで戦わされたんですけど?


この辺から予想はしていたが、案の定この世界で悪魔を滅ぼしてくれと土下座する勢いで懇願された。そのためにならなんでも差し上げますとも。その上、元の世界に返すことは私たちにしかできませんがと、遠回しな脅しのオマケつき。


……正直に書く。おれは調子に乗っていた。

異世界に召喚されるなんて特別すぎる体験して、頼りはあなただけだとたくさんの人にチヤホヤされて、倒してほしいと言われた敵は杖の一振りでやっつけられる。楽勝、楽勝。ちゃっちゃと世界救ってやりますか。

…………今思い出すと恥ずかしい限りだ。こんなの小学生のバスケットチームに入った高校生みたいな思考じゃん。周りのレベルが低いのを自分のレベルが高いと錯覚して威張りだすやつ。


調子に乗っていたおれはホイホイとその願いに頷いた。


結論から言うと、おれは契約してしまったのだ。神は契約を破れない。神話でよくある話だが、異世界でも同じだった。こうしておれは、この世界で悪魔を殲滅しない限り元の世界に帰れなくなってしまったのでした。

チャンチャン。















と、今の時点では絶望的な契約も、この時のクソバカ野郎なおれはまだ余裕こいていた。そんなの悪魔とか簡単に倒せるし~~とか考えていた。

問題はそこじゃねえ。そこじゃなかった。

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怖いひと 階屋敷 @kaiyasiki

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