one more 人生
ソー笹内
第1夜
昭和35年私は東京で生まれた。
私には姉と父があった。
母は私が幼い頃に亡くなったというがまったく記憶にない。
私は少年時代はやんちゃで父にはとても迷惑をかけた。
社会人になれば、東京の優秀な会社に就職した。
自分で言うのもなんだが、私はとても親孝行な人間だった。
私が38の時に父が病死した。
姉は結婚し、実家を出た。
独り身になった私に優しくしてくれたのが私の妻だ。
妻との出会いは運命的だった。
私が酒に酔い、駅前で眠っているのを死んでいるのと勘違いして救急車を呼んだのが出会いだ。
そんな妻とも、今年で結婚して10年以上が経った、早いものだ。
そんな人生の回想をしているとなにかモヤモヤしたものが頭を痛めつける。
鮮明には思い出せないのだが、なにか大事なことだった。
父とのこと。
姉とのこと。
母とのこと。
嫁とのこと。
友とのこと。
他人のこと。
もしかしたら好きな有名人のことかもしれない。
そんなことを考えながら私は眠りについたのだ。
その夜、私はある夢を見た。
夢というものは非常に複雑で意味不明なものが多い。
だが、そのほとんどが自分の経験したことや、自分の見たこと感じたことが夢になることが多い。
案の定今夜の夢は眠る前に考えていた私の人生の夢だった。
だが、なにかいつもの夢とは違うなにか現実に近い感覚がするのだ。
夢の中はかなり鮮明で周りには昔自分が住んでいた家の近くにあった商店街にいた。
少年時代よく通った肉屋「コロッケ☆モロッケ」
ネーミングセンスはいまいちだったが味は一流だったような、なかったような。
この夢には人は出てこない、と思っていたが私の前を女の人が通りかかった。
顔は見えなかったが、その正体が母であるということははっきりわかった。
なぜかというと母の服に「明仁の母」(明仁は私の名前)との刺繍が施されているのである。
どんだけわかりやすいんだよ。と私は似合わないいまどきの若者口調で軽くつっこんだ。
そんな母は私の方をじっと見つめている。
私は自分の母に向かって「会いたかったよ」と喋りかけてみた。
すると母は不気味な男のような声で「わたしも」と答えた。
ゾッとした。なぜ怖かったのかはわからない。
その答えが返ってきてほんの少し経って私は目覚めた。
時刻はまだ2時半だった。
私は深呼吸をし、また布団の中に入った。
「何だったんだろう」
そう心の中で呟いて眠りについた。
one more 人生 ソー笹内 @SORANIMAUAHO
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