赤い口紅

麦食くま

第1話

会社員のA子が、親友のB子と一緒にお昼ご飯を食べていると、

いつも派手な格好をしているC子が近づいて来た。

「あ、C子。会社今日までだよね」C子は大きくうなづくと

「そう、こことも今日まで。今まで二人ともありがとうね」

C子は付き合っている彼氏の仕事が海外勤務になるということで、

結婚を視野に入れながらついていくことになり、

今日付けで会社を退職することになっていた。

「C子うれしそうね」A子の一言にまんざらでもないC子。

「まだ結婚は決まっていないけど、『ついて行く』といったら

彼もうれしそうだったから。そのうちね」

というと、C子はポケットから何か紙袋を2つを取り出した。

「これ、彼の会社のものだけど、せっかくだから2人にあげる」

というと、何かが入っている小さな紙袋を差し出した。


「何これ?」普段おとなしいB子が静かにつぶやく。

「それは家に帰ってから空けて見て。特にB子にはいいと思うわ」

そういうと、C子はその場を後にした。

「A子なんだろう」少し心配そうなB子にA子は

あえて明るそうな表情を見せながら。

「心配ないわよ。C子が最後にくれたプレゼント。

さてどんなものか家に帰ってからのお楽しみね」

その日、家に帰ったA子は早速C子からもらった紙袋を開けてみた。

すると、それは口紅であった。


「へえ、C子の彼氏は化粧品メーカーに勤めているんだ」

見ると、鮮明な赤色で、何か引き寄せられるような雰囲気を

かもし出している。

あった。「きれいね。ちょっとつけてみようかな」と思ったA子は

早速口紅を唇に近づけるが、その時、何か説明のできない

不思議な違和感を感じ取り、

どうもそこから先気分が乗らない。

「うーん今日はどうもそんな気じゃないなあ。

とりあえず、今度の休みまで取っておこうかな」

と言うとA子はその口紅を机の引き出しのに中に終いこんだ。

翌日、いつものように出勤すると、

いつもおとなしいB子がやけに明るく元気がいい。

「A子おはよう。どう」A子が見るとB子の唇が赤く染まっていた。


「それC子のプレゼントね」B子はうれしく笑い

「私あまり化粧はしないけど、せっかくだから早速つけてみたすると、

なんとなく気分が高揚して、すごく楽しい気分になったの」

あまりの変わりように驚きながらも、C子のプレゼントを前に

元気なB子を見るとA子も自分のことのようにうれしくなった。

それから、毎日B子はC子からもらった赤い口紅をつけてきた。

そのためか日々メイクも濃くなっていき、

着ている服装も自然と派手になっていく

「B子なんか変わったね」少し違和感を感じるA子であったが、

「そう、なんとなく毎日が楽しくて仕方がないの。もっと早く化粧して

おしゃれをすることを知っていればよかった」と

一人うれしそうにはしゃぐB子であった。

しかし、かつてのB子同様、どちらかといえば派手なものが好きではない

地味目のA子にとっては、徐々にB子との距離を強く感じていた。

B子もA子よりほかの同僚や男性社員と仲良くなっていき、

職場でも顔を合わせる機会が少しずつ遠のいていた。

それから、10日ほどしたある日。久しぶりにB子と会うA子

しかし、以前と比べて顔色が良くないのがわかる。

「B子どうしたの?顔色よくないわね」

「え、そんなことないよ」といいながら鏡を見るB子。

「ああ、口紅がはげてるからだわ」というと

すぐに取り出して赤い口紅をつけるB子「これでよし」

「B子、それもう半分近くも使ってるの?」

「そうよ、もうこれをいつもつけてないと、私だめなの。

だから眠っているときもつけてるわ」と言い出す。

B子の行動が明らかにおかしいと思ったA子は、

口紅をつけるのをやめるように忠告するが、B子は聞く耳を持たない。

それ以降、気になったA子はB子の様子をひそかに観察し始める。

B子は見た目元気であるが明らかに顔のハリがなくなり、

厚いメイクでごまかしているが、目の下に隈ができているような気がしている。

たまりかねたA子は、B子に深い悩みがあるのかもしれないと思い、

ある3連休前の金曜日の夕方の退社時に、B子に声をかける

「B子明日から3連休の休みだし、

せっかくだから一緒にショッピングでもしない」

とB子を誘ってみた。

「いいよ、A子。最近は家に篭っているのが好きだから、

ちょっと疲れているのよね」

「でも、B子本当に顔色よくないし何か悩みがないか心配で仕方がないの」

と、b子にやや強く迫るA子であったが、B子は首を横に振る。

「A子ありがとう。でも悩み事なんかないよ。ただ今は一人で居たいだけ。

ゴメンネ」

というとそのまま一人で早々と退出していった。

連休が明けた火曜日。B子は欠勤をしているという。

体調が優れないということであった。

「やっぱりおかしい。何か気になる。口紅をつけるようになってからだわ。

失恋したのかな」

A子はB子の家に電話をするが、B子からは応答がなかった。

B子の欠勤は一週間続き、会社の上司も心配になりA子に様子を見に行って

ほしいと依頼する。

A子は、いったん家に帰ってからB子の家に行くことにして、

家に帰って何気なくテレビをつけると

ニュースが流れ、その映像に衝撃が走った。

なんとC子が容疑者として逮捕されていた。

ニュースの内容は、C子が代理店として扱っている口紅の中に麻薬成分が含まれていたというのであった。

C子の彼というのは暴力団関係者で、やはり逮捕されたという

結果的にC子は麻薬密売人のようなことをしていたというのであった。

「まさか、あの口紅」A子はしまっておいた口紅を取り出す。

赤い口紅を見ても何の変哲もないが、

口に近づけるとやはり強い違和感を感じた。

「ええ!B子、麻薬中毒!!」A子はあわててB子の住んでいる

マンションに向かう。

B子を呼ぶが反応がない。マンションの管理人に事情を説明して、

B子の部屋の鍵を開けてもらう。

A子が中に入ると薄暗い部屋、奥には完全に衰弱していて

廃人同然の姿のB子が壁にもたれかけたまま倒れこんでいた。


「キャー」思わず大声を出すA子。管理人が警察に通報する。

B子はすでに心肺が停止していたらしく、

解剖すると3日間何も食べていなかったらしい。

しかし、B子の口だけはあの口紅の赤い色が異常に目立っていたが、

唇はただれており、やや黒ずんでいるような血が滴り落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤い口紅 麦食くま @kuma_kuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ