【サンプル】マザーグースマザー

　家事や育児に追われる彩花のもとに母方の叔母から届いた小包は、四歳の彩花を捨てた母、久美子の育児日記だった。
「許せって言うんですか。今更、私に、あの人を」
　母の日記を捨てようとする彩花を、夫が諌める。
「子供を愛さない親は居ない」
「お母さんにも何か大変な事情があったはず」
　自分が代わりに読んで説明すると言い始めた夫に「心の準備をするから」と言ってそれを断り、彩花は日記を押し入れへしまいこむ。

　新しい恋人ができたと言って夫の昭夫が家を出ていき、娘の彩花と二人で取り残された久美子は、娘を「父の居ない子」にしてしまった後悔から、自分が一人で両親の役割を全うしようと意気込む。
　寂しい思いはさせたくない。
　ひもじい思いもさせたくない。
　ましてや、父親の居ない子などと馬鹿にされるような…続きを読む