第18話「白鳥家」
まずい。
実にまずい。
ついになゆたと白鳥が堂々の体面を果たしてしまった。
この際、執拗な白鳥のストーキング行為に関してはもうどうでもいい。
白鳥の誤解を一刻も早く解かなくては。
「今まで黙っててごめん、白鳥...。こいつは正真正銘<座敷童>だ...。俺は今確かに、この座敷童と暮らしを共にしてる...。だからといって...」
「わかってる。でも私は私の使命を果たすだけ」
白鳥が戦闘態勢とも取れる構えをする。
陰陽師的な魔術でも発動できるのだろうか。
「のぞむところよ!」
すかさず自分もファイティングポーズを取るなゆた。
おいおい、面倒なことを起こさないでくれ。
「ちょ、ちょっと待てって!何にしろここではまずいだろ!どっか場所を変えて話し合わないか...」
「そうね...。天田くんの言う通り...。ここでは人目に付きやすいわ...。どこか別の場所へ移動しましょう」
(やれやれ...)
なんとかこの場をしのぐことができた。
が、その後俺たちが言われるがまま白鳥に案内されて辿り着いたのは見たこともないような大豪邸であった。
一体ここは。
「ここよ」
「ここよって...。ここは一体どこなんだよ白鳥...」
「私の家よ」
「家!?」
驚いた。
親は石油王か何かか。
この辺では滅多にお目にかかれない目の前の大豪邸が白鳥のご実家とは。
漫画みたいに柵の向こうにどこまでも広がる庭園が目を引く。
「驚いたな...。こんな豪邸に住んでたなんて...」
「私もこんな家に居座りたかった...」
なゆたがこっそり心の声を漏らしたような気もするが、そんなことを気にしない。
今はただ目の前の豪邸に目を奪われるばかりだった。
「入って」
「お、おう」
白鳥が入り口のモニターになにかを語りかけると、大きな入り口が自動で開いて俺たちを招き入れた。
「白鳥、誰かを家に呼んだことは...?」
「ないわ、あなたたちが初めてよ」
どうやら本邦初公開?らしい。
確かに白鳥が誰かを家に招き入れているような話も聞かないしな。
広すぎる庭園を抜け、やっと家の入口にたどり着いた。
これまた大きな二つ扉だ。
白鳥が先導を切って入り口を開け、俺たちを中に案内する。
「おじゃましまーす...」
俺の声が広すぎる入り口に反響する。
すると、
「おぉ、レイナ。やっと帰ってきたか」
出迎えたのは上品な趣のある袴姿の夫婦だった。
「お父様、お母様。ただいま戻りました」
どうあやらレイナのご両親らしい。
想像していた通りの上品な雰囲気のご両親だ。
「おかえりなさい。ストーキング行為の方は終わったの?」
おい、お前のお母様は今はっきり<ストーキング行為>と言わなかったか。
「お母様、ストーキングではありません。れっきとした尾行です」
一緒だ。
ストーキングと、尾行一緒だ。
イコールだ。
ストーキングは親公認なのか。どうなってるこの家族。
「お隣の子はお友達かな?」
「はい、初めまして。白鳥さんと同じクラスの天田翔と言います。こっちは...」
俺は言葉に詰まった。
隣にいるなゆたを何て紹介したらいい。
「いや、大丈夫だ。分かっている...。その子を私たちに合わせるために連れてきたのだろう?レイナ」
さすがレイナのご両親。あらかた、なゆたのことは見当がついているらし。
「はい、お父様」
「まぁ、いい取り合えず来なさい。お茶を出そう」
「はい」
「失礼します...」
土足方式だ。英国の御屋敷に来たような気分だ。
なゆたはふてくされたような顔をしながら俺についてくる。
案内されて入った居間もいかにもお金持ちの空間といった感じで、一つ何千万としそうな壺や絵画が並んでいる。
俺となゆたはその中央にある高級そうなテーブルを囲うソファに案内された。
席に着くなり、レイナの母親が紅茶を人数分用意してくれた。
するとさっそく白鳥の父親が口を開いた。
「その子、座敷童だね」
ドキッとした。
そんなことまで一目で分かるのか白鳥父よ。
「分かるんですか...?」
「あぁ、一目でわかった」
「なかなかやるわね。そうよ、私は座敷童。名前はなゆた」
誇らしげに自らを名乗るなゆた。
「ほう、そうか...。珍しいな、異界のものが個人の名前を持つというのは聞いたことがない...。こっちに来てから付けた名前か...?」
「そうよ。翔が付けてくれたの」
一瞬白鳥の体がピクッと反応したように見えた。
「天田くん、この世のものと久しくしないようにと言ったわよね。ましてや名前まで付けるなんて...」
「い、いやこれには事情があって...」
「なによ、翔が私につけてくれた名前に文句があるの?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなさい...」
白鳥の父親がその場をなだめる。
「お父様、この者の存在は完全なる悪です。天田くんに被害が及ぶのも時間の問題です。一刻も早く退散させましょう」
「まぁまぁ、そう早まるな天田くんの意見も聞こうじゃないか」
いよいよ俺の体にも緊張感が走る。
一体この霊能力一家は俺たちをどうするつもりなのだろうか。
この場で何らかの力を使ってなゆたを駆除?でもするつもりなのだろうか。
今までにないくらいの緊張感が俺の体を襲う。
「天田くん、君は一緒に暮らしていて正直なところ、この座敷童をどう思っているんだね」
「それは...」
「それは...?」
全員の注目が俺に集まる。
「なゆたがこの世の存在でないことは十分に分かっています...。それに、わがままだし、自分勝手だし、人の扱いは雑だし、正直こいつの性格の悪さには頭がきます...」
「翔...」
「ほう...。そうか」
なゆたがこちらに顔を向けた後、うつむくのが見えた。
悪いな、なゆた。でも続けさせてもらう。
「でも正直...、こいつとの生活は悪くありません。何か不幸なことが起きたとかそんなことはもちろん無いですし、むしろ楽しいくらいです。俺はずっと一人っ子だったから、なんだか妹ができたみたいな感じで、なんていうか...、こいつがいると賑やかで、退屈しないし...、こう見えて結構...、か、かわいいとことか...あるし、」
自分でも言ってて恥ずかしい。
隣にいるなゆたの顔は当然見れない。
「それに、こいつには生まれた時から両親がいません。なんていうか、俺が...その、家族みたいになれたらなって思うし..、それに、いずれにせよこいつは1年で出ていく約束になってます...。なんていうか、その1年間だけ、目をつむってもらえませんか...」
言った。言い切った。
正直自分でもびっくりするような本音が出た気がする。
「そうか...君の意見は良く分かった...」
レイナの父親は深くうなずいた。
次に来る言葉が怖かった。
だが、次にどんな事を言われたとしても。
俺は揺るぎのない覚悟を決めていた。
夜中に起きたらツンデレな座敷わらしが俺の冷蔵庫をあさってた話する? がらんどう @DEG0729
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