< 感謝の返済がまだですよーーーーー
ちびまるフォイ
真の感謝を探して…春。
「佐藤さーーん! いるんでしょーー! 開けてくださーーい」
ドンドンドン。
朝から家のドアがたたかれて目を覚ます。
「佐藤さーーーーん」
「……なんですか?」
「返済してください」
玄関を開けるとガラの悪そうな男が立っているのを見て眠気が吹っ飛んだ。
「へ、へんさい?」
「仕事をミスして部下がフォローしたでしょう?
その感謝の返済がまだされてないんですわ」
「……は」
「返済してもらわなきゃ困るんですよ。
この国は持ちつ持たれつ。感謝はちゃんと返してもらわないと」
全然納得できないが、逆らうとぼこぼこにされそうなので金を渡した。
その翌日、ふたたび家のドアがたたかれた。
――ドンドンドン。
「佐藤さーーーん。まだ感謝が返済されてませんよーーーーー」
「な、なんですか!? またですか?」
「昨日、バレンタインデーの義理チョコをもらったでしょ?
その返済がまだ受け取ってませんよ」
「でも、大袋のチョコで……」
「返済しないんですかぁ?」
「しますよ!! すればいいんでしょ!!」
バレンタインデーのチロルチョコの感謝を払った。
これでもう感謝はないだろう。
翌日、目を覚ますと玄関にはまた借金取りの男が立っていた。
どんどんどんどん。
「佐藤さん。感謝の返済がまだですよーーー」
「今度は何ですか!? もう全部返済しましたよ!?」
「昨日、ハンカチ拾ってもらったでしょ? その返済してくださいよぉ」
「えええええ!?」
こんな調子で毎朝たたき起こされる日々が続いて、すっかりノイローゼになった。
朝が来ると感謝返済の恐怖で飛び上がる。
「もう限界だ! こんな生活!」
家を飛び出してビジネスホテルなどをはしごする日々が続く。
「チェックアウト時にはアメを配っております」
「いりません! そういう返済が必要なお礼いりません!!」
いつ感謝取りが来るかわからない。
誰からも感謝の借りを作るわけにはいかない。
いつしかホテルに泊まる金もなくなって公園のベンチで過ごしていた。
うとうとしていると、そっとコートをかけられて目が覚めた。
「な、なにしてるんですか!?」
「なにって、コートを貸してあげたんじゃよ。
春になったとはいえまだ寒いからのぅ。風邪をひいてしまう」
「いりません! 返済しなきゃいけなくなる!
いくらですか!? この感謝に見合う金を払います!」
ホームレスの男は焦る俺の顔を見て笑った。
「ハハハハ、そんなこと求めてないよ。
この感謝ぶんの返済なんていりませんよ」
「でも……」
「あなたは何か誤解してるみたいですね。
人の感謝が見返りを求めるものだけじゃないんですよ」
ホームレスの言葉に目が覚めた。
いつも感謝の返済を求められていたので、人の感謝が見返りありきだと思い込んでいた。
誰からも見返りを求めないやさしさだってあるんだ。
「……ありがとうございます」
「わしへの返済はその言葉だけで十分じゃよ」
「俺、目が覚めました。見返りを求めるばかりじゃないんだってわかりました!」
俺は久しぶりに家に帰った。
もう誰かからほどこされる感謝をおびえることもない。
ホームレスの人の好意のように見返りゼロの、真のやさしさだってあるんだ。
1か月後、ふたたび家のドアが叩かれた。
「佐藤さん、ホームレスの人からもらった感謝の利子の返済してくださーーい」
「あのホームレス、利子狙いだったのかよ!!!」
もう誰の感謝も信じられない。
< 感謝の返済がまだですよーーーーー ちびまるフォイ @firestorage
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