第3話 祖母の庭

三月。祖母の庭は、色鮮やかなガーベラで彩られていた。オレンジやレッドロック、ピンクが眩しくて、目が潰れてしまいそうだ。


ビルがないので空が広く見える。

雲がゆっくり流れていくのを、祖母に入れてもらったレモンバームのハーブティを飲みながらぼんやりと眺める。


「クランベリージュースを混ぜておいたわ。あなた最近よく風邪を引くんですって。ママが電話で心配していたわ。クランベリーは、身体の抵抗力を高めてくれるのよ。」


季節の変わり目だからか、このところ調子が良くない。すぐ喉を腫らすし、気分もなんだか憂鬱で、朝布団から身を起こすのも億劫に感じる。


「おばあちゃま、私なんだかとても疲れてるみたい。何もかも面倒に感じてしまうのよ。」


「貴方、少し考えすぎるきらいがあるから。私みたいに、ぽうっと、好きな事だけしていたらいいのよ。」


おばあちゃまはいつもマイペースだ。


「ああ、何かいい事ないかしら。」



「あら、幸せは降ってきたりしないわ。ねえ、貴方何をしている時が一番幸せ?」


「私、好きな人がいるのよ。」


「まあ、それは素敵ね。」


「好きな人とハグしたり、手を繋いて歩いてる時が一番幸せかしら。」


「そう。じゃあ今から会いに行ってらっしゃいな。」


「今から?」


「今からよ。あなた、人生はあっという間に終わってしまうのよ。線ではなく、点の連続。刹那の連続なのよ。」


彼女にそう言われると、たまらなく会いたくなって、私はもう心地いい揺り椅子から立ち上がっていた。


赤いガーベラが風にふかれて、私を見送るようにゆらゆら揺れている。


花言葉は、何だったかしら。




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