月見肉まん
たがみ
肉まんとスーパームーン
「きれいだなあ。」
感動してそう言葉をもらすキミ。月の光に反射して煌く瞳に見惚れながら、僕は頼まれていた肉まんを彼女に手渡した。
「スーパームーンって名前じゃなかったら、僕も感動してたよ。」
少し意地悪にそう言ってやるが、彼女は気にした様子もなく、ただただ月に見惚れていた。
「名前なんてあってないようなものだよ。私たちは人間のことを人間というけど、アメリカの人たちはピーポーって言うじゃない。」
私もスーパームーンはちょっとダサいと思うけどね。
困ったような、でもいたずらっこのような無邪気な笑みを浮かべてそう言うと、彼女は少し冷めてしまった肉まんを頬張る。
冷めてしまったのは表面の生地だけのようで、大きな口で頬張っただけに熱さで悶えごくりと飲み込む。すると今度はいっきに飲み込みすぎたらしく、空いた右手でお茶を求めてきた。
忙しいやつだなあと思わず笑ってしまう。それでも彼女は真剣なようで、涙目になりながらもう一口。
生地に染み込んだ肉汁が口の中でとけていく。もともと液体なのだから、それは違う表現なのかもしれないけれど、彼女の表情を見る限りではそれが正解だと思える。
そんな彼女に続いて、僕も肉まんをひとかじり。
質素でいて、それでも美味しいと思える生地の中に、とけてまじる肉の汁。なんとも言い表しようのないうまみ。喉を通って胃に落ちていく肉。俗にいう、頬が落ちそうなくらいだ。
寒さがしみる夜の公園で肉まんを貪る。
僕はこれ以上なんて存在しないような幸福の絶頂に立っている。そういっても過言ではないと、今ならはっきり言えるだろう。
「いやあ、幸せだなあ。」
先に食べ終えてしまったらしく、手には包んでいた紙だけが残る。
「スーパームーンよりも幸福感じちゃった気がするよ。」
にへらと笑う彼女の向こう。青白く、それでもどこか温かみのあるその明かりは、紛れもないスーパームーンによる月明りなのだった。
月見肉まん たがみ @leflet_f
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます