多様な文体で綴られる“面”の小話と、謎めいた面売りの艶姿

本作は「面」をテーマにした、もう少し正確に言えば、その世界の暗闇めいたエピソードを「面売り」なる人物とともに見ていくホラーアンソロジーである。

面とはいわゆる「お面」のことだが、転じて人物の顔などを示す言葉でもある。
実は、この面売りが登場するというだけで、作品それ自体はかなり多様である。
口裂け女の化粧から蟇蛙の呪いに至るまで、ホラーといえばホラー、面が関係しているといえば面が関係しているが、かなり趣の異なったお話が展開される。
中には、小悪党の悪事を、面売りがちょっとした「必殺仕事人」として撃退するものもあるが、学校の怪談めいた少し不思議な話から、かなりグロテスクな表現で読者の背筋を凍らせてくるものもある。

本作を読んでいて思うのは、ジャンルとは文体なのだという素朴な事実だ。
私たちは様々な文体を本作で楽しむことができる。
そして、そういった異なった文体による小話を、言わばまたぐような形で面売りが登場していることに気づくとき、キャラクターが文体差を越境しているという事実にもまた気づくのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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