第4話 幼少期〜青年期

 数年の施設入所の後、社会に出たAを迎え入れたのは、暖かい家庭ではなく、裏社会だった。

 そこはAが今まで経験したことのない「絆」で溢れていた。街を歩いても、周りが恐れをなして逃げて行く。その経験に快感を覚えるのだった。

 元々器用だったAはその裏社会で、次第に頭角を表し幹部にも一目を置かれる存在となっていった。

 

 Aが一番憧れを抱いていた、とある人物がいた。

 

 その人物はここぞという時に、組長に呼ばれ、密かに指令を受ける。するとその指令を受けた目的の相手は数日後、海で水死体で見つかったり、山の中で変死体で見つかったりする、つまりその人物は組織の雇った「殺し屋」だった。

 やがてAの器用さは「殺し屋」の目に留まることになり、少しずつ共に行動するようになった。時には、仕事をAにやらせたりすることも見られるようになった。こうしてAは少しずつ、組織の中で存在感を増すようになってきたのだった。

 ちょうど二十歳そこらになっていたその頃のAには、付き合っていた女がいた。

 古くさいアパートの一室で、Aとその彼女の二人はそれなりに幸せに暮らしていたと思う。ある時Aはこんな話を女にした。

「もしかしたら、今度の大きなヤマを自分にやらせてもらえるかもしれない、それがうまくいったら、少し休みをもらうつもりだ。どこか好きなところ行って来ていいって言われている」

 女はまじまじとその話を聞いていた。

「その時は一緒に行こう、な?」

 女はさぞかし嬉しそうにその話を聞いた事だろう。そしてそっと、女はAに小さな人形のついたブレスレットを差し出した。

「これは?」

 問いかけるAに女は恥ずかしそうに答えた。

「これ、『スケープゴート』。あなたが撃たれても、身代わりに守ってもらえるように」

 Aは静かに受け取った。

「それから、もう一つ。こっちは、」

 スケープゴートはもう一つあった。

「こっちは私と、この子のため」

 Aはそこで知った。今そこにいるのは2人ではなく、3人であったことに。どんな表情をしていいのか、きっとわからなかっただろう、何しろ初めてに体験なのだから。悪い気はしなかったと、Aは言っていた。だがより一層Aは身が引き締まる思いをしたにちがいない、この女の為にも死ぬわけにはいかない。何としても、大きなヤマを成功させてみせる、と。

 

 その先に、まさか過酷な運命が待っている事も知らずに。

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