第5話 最後のヤマ
指令内容は当日の朝告げられた。何を隠そう組長からの直々の指令だった。
相手は風俗関係の女、愛人関係をネタにとある有名政治家をゆすっているのだという。ある程度のまとまった金を報酬として、その女を静かに消してほしいとのことだ。
そこで少しAも不思議に思ったはずだ、相手はそんな奴なのか。もっとそれなりにリスクの高いヤマと思っていたAは思わず力が抜けた事だろう。ただ、今回は最初から最後まで自分でやらなければならない、ある意味卒業試験だ、とAは殺し屋から言われた。これが無事済めば、お前を一人前として認める、と。
Aは舞い上がりそうになる気持ちを抑えながら、当日の計画に耳をやった。
Aはまず所定の位置で、待機する。場所は街から車で1時間程度の小高い山の中腹だった。休日にはハイキングなどで人が来ることもあるが、平日の日中はほとんど人もまばらだ。そこにターゲットを別口で呼び出す。ターゲットを展望台の端に立たせ、崖に向かって覗かせた隙に、スナイパーライフルで後ろから撃ち抜く。ターゲットは崖から落ちたと思わせる、そんなシナリオだった。正直その頃のAには大して苦も無いヤマだった、本当ならば。
Aは所定の位置で待機した。やがて、予定通りに、指定された場所にターゲットらしき人物がやってくる。そして、予定どおり展望台の上に上がった。あたりには人はいない。全ては上手くいっている。合図がでた、数秒以内に撃て、ということだ。
なんだ、こんな簡単なことか。簡単なこと、簡単なはずだ。それなのに……。
なぜだろう、手が震え始めた。こんなことは、最近ほとんどなかったのに。
それだけではない、視界が歪み始めた、ぼやけてきているのだ。何だ? この感覚は。
その感覚の意味はすでに知っているはずだった。その答えは簡単だった。
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