第3話 殺し屋A

 その殺し屋は「A」と呼ばれていた。

 Aが生まれた家庭はある意味異様だった。まず父親が分からない。多数の男性と関係を持った母にとって、Aがそのうちの誰の子なのか、正直母にも分からなかったし、特に興味も無い話だった。

 母は風俗の仕事をしながら、生活し、Aを育てた。育てたと言っても、食事はコンビニ弁当、時には一日の食事全てがパンだったこともある。

 Aが年長時の年齢になると、母親は家にも帰らなくなった。時々ドアをあけてはコンビニやファーストフードの食料を家に投げ込んではそのまま立ち去っていたという。

 それでもAはその食材を貪った。時々立ち寄ってくれる母を嬉しく思っていた。ただこの頃になると母はAに暴力をふるうようになった。彼氏と喧嘩でもしたのか、仕事でのストレスだったのか、Aを殴る様になった。

 あんたのせいで……そう言われるAはそれが何の事だが全く分からなかった。

 その日もいつものように機嫌の悪い母は家に帰ると、Aを殴り始めた。何も言わず殴って殴り続ける母からAは家の中を逃げ続けた。部屋の隅に追いやられたAは、いつもの言葉を投げかけられた。

「あんたさえ、あんたさえいなければこんなことにはならなかったのに……」

 そういって拳をあげる母にAは何かが頭の中で切れた。

 気づくとAは母を押し倒し、キッチンにあった包丁を握ると、倒れた母をメッタ刺しにした。後から警察が確認すると、首やら腹やら10カ所以上刺されていたようである。そのまま放置された母がみつかったのは数日後、失血死という形で変わり果てた姿となり、すでに腐敗臭すら生じている状態だった。その時、横にただ呆然と座り込むAの姿も確認されている。これがAの生まれて初めての「殺し」だった。

 

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