才能銀行に銀行強盗に入ったのはこれで2件目

ちびまるフォイ

この才能なら金庫にあるはず!

銀行のATMにお金をあずけると、なぜか取り出し口にカプセルが出てきた。


『金庫開けの才能』


と書かれた紙が入っている。

よくわからないので、カプセルをATMに入れると、いましがた預けたお金が今度は出て来た。


「ああ、お客様。当銀行ははじめてのご利用ですか?

 才能銀行ではあずけたお客様の金額に応じた才能をお渡ししてるんですよ」


「じゃあさっきのって……」


「はい、カプセルを開ければ才能が手に入ります」


もう一度、お金を預けると今度は別のカプセルが出てきた。同じ金額を預けても毎回同じとは限らないらしい。


『トークの才能』


カプセルを開けると、自然と相手にわかりやすく伝える言葉が浮かんできた。


「すごい! これが才能なのか!」


「はい、またのご利用をお待ちしてます」


「いえ、今すぐもっと利用します! 全財産をあずけます!」


少しも迷いはなかった。

昔からなにやっても平均的な俺がはじめて個性的な人間になれる可能性がここにあるのだから。


『運動神経の才能』

『文章力の才能』

『出世力の才能』

『異性にモテる才能』

『幸運の才能』


……などなど。


大量のカプセルを開封すると、足元にはカプセルの残骸が転がって踏み場所もなくなった。


「ふおおおお!! 俺はまさにスーパーマンだ!!」





それから数日、俺の人生はバラ色へと変貌した。


「すごーーい! どうしてできるの!?」

「才能あるんだね! 知らなかった!」


「ふふふ……そうなんだよそうなんだよ」


手に入れた才能を余すところなく発揮するとすぐに人気者になった。

結局、人間なんて自分より優れた才能を持つ人にあこがれるんだ。


「っと、ごっめーん。この後、テレビの取材があるんだ。

 若き天才クリエーターっていうことでインタビュー受けなくちゃ☆」


「「「 なんて才能豊かなの!! 抱いて! 」」」


もう気分は最高。

何をやってもうまくいくし、才能がなければ金を預ければいい。


テレビ『常熱大陸』の取材が始まると俺は持ち前のトークの才能を発揮した。


「そうですね、まぁ誰しも才能はあると思いますが、俺はたまたまこの才能が秀でて……あれ?」


どういうことだ。

前はするする出たはずの言葉が今は出てこない。

炎上させるようなイヤミっぽい言葉になってしまう。


「他の才能ない人間にはわからない辛さみたいなのもありますが……。

 あれ? その……俺が言いたいのは……」


「ちょっとカメラ止めて!!」


撮影は中断された。自分でもわかってる。

こんなの地上波で流されればただイラつかせるだけだ。


「どうしたの? 前の雑誌取材ではもっと面白おかしく話せたじゃない」


「お、俺にもわからないんですよ……急に才能が……」


「とにかく取材はまた今度にするから。それまでにちゃんとしてくださいね」


テレビクルーが帰ったあと、俺は銀行にいって事情を説明した。

銀行員はさして驚くわけでもなく普通に告げた。


「才能が枯れたんですよ」


「か、枯れたぁ!?」


「才能には期限があるんです。

 期限が過ぎると才能は劣化して、むしろ悪い才能へとなっていくんです。

 トーク力の才能も期限が過ぎたので、口下手の才能になっていたんですよ」


「どうすればいんですか!?」


「もう一度預けて手放すしかないですね」


「はぁ!? だって手放したらもう二度と手に入らないかもしれないじゃないですか!

 同じ金額入れても、同じ才能出るわけじゃないんですよ!?」


「ええ、ですから才能は循環するんです。そうであるべきです。

 誰かひとりが才能でいい思いをするのではなく、みんなに才能がいきわたるように……」


「そんなの納得できるか! 俺は一番になりたいんだ!!」


銀行を出て家に帰っても怒りは収まらなかった。

『気持ちを落ち着ける才能』も劣化しているのがわかった。


才能を預ける必要があるのもわかってる。

でも一度手放してしまった才能が戻ってこない怖さがある。


「いったいどうすればいいんだ……」


頭を抱えていると、一番最初に手に入れた才能を思い出した。



――金庫開けの才能



「あっ!」


閃光のようにアイデアが降って来た。

だんだんと才能が枯れている今、ためらう理由など何一つない。


銀行強盗に入って才能をごっそりいただけばいい。


なにせ才能銀行には『金庫開けの才能』が残っている。

それを使って脱出すれば才能を一気に全部手に入れることができる。


俺は『変装の才能』で完璧な変装を完成させると才能銀行へ戻った。


「ここに『金庫開けの才能』はまだ預けられているか?」


「ええ、まだ誰も引き出してませんが」


「わかった。それじゃ、全員手を上げろ!!」


「ひぃぃぃぃ! またぁ!?」


銀行員は俺の出した銃にびびって全員床につっぷせた。


「抵抗したら撃つ。変な動きを見せても撃つ。わかったな?」


「わかりました、わかりました! 何すればいいんですか!?」


「才能の金庫へと案内しろ」


俺は銀行員を連れて地下の金庫へとやってきた。

金庫の前にはひとりの金庫番が立っていた。


「よし、お前はもういい帰れ」


銀行員を離すと金庫番に銃を突きつけた。


「お前、金庫を開けろ。変な動きしたら撃つからな」


「そ、そんな物騒なもの向けないでくださいよぉ」


金庫番は金庫のカギ穴に器具を差し込んでガチャリと鍵を開けた。


「変な開け方するんだな」


「……本来は防犯用に普通の鍵じゃ開かないようにしてたんです」


「さて、と。才能をいただくとするかな……」



「いまだ!!」


俺が金庫に入った瞬間、金庫番はドアを閉めてしまった。

完全にカプセル金庫に閉じ込められた。


そう思ったら笑いがこみ上げてきた。


「ぷっ。あっははははは!! 作戦通りだ! やっぱり俺の幸運の才能はまだ枯れてなかった!」


ここまで作戦通りいくとは思わなかった。

俺が金庫に閉じ込められるのも作戦のうち。


金庫にある大量の才能カプセルを開ければその中に『金庫開けの才能』があるはずだ。

その才能を使って別の場所から脱出すればいい。


金庫開けの才能がこの中にあるくらいだから、

脱獄の才能や、警察を振り切る才能もどこかにあるだろう。


「さてさて、じっくり才能を探すとするかな!」


俺は才能カプセルの山を物色しはじめた。




※ ※ ※


連れて行かれていた銀行員が受付に戻って来た。


「大丈夫だったか、新人?」


「はい、金庫まで案内させられただけでした」


「しかし災難だよな。銀行員の初出勤日に銀行強盗に2回も入られるなんて」


「でも犯人もバカですよね。犯人ふたりとも金庫に閉じ込めたんですから」

「ホントだよな」


銀行員たちは大いに笑った。

先ほどの男が強盗に来るよりも前に、別の男が強盗に入って金庫に閉じ込めた。


「きっと今頃、金庫の中で強盗どうし、びっくりしてるでしょうね」


どっと銀行内が笑いに包まれた。

笑った拍子に鍵がちゃりんと床に転がった。


「先輩、そのカギはなんですか?」


「金庫の鍵。俺が持ったままだったんだ……ってあれ?」


先輩は気付いた。

金庫の鍵はずっと自分が持っていたことに。


「なぁ新人。お前、どうやって金庫に2人目の犯人を閉じ込めたんだ?

 鍵はずっとここにあったのに」


「ああ、それなら金庫番の人が閉じ込めてくれたんですよ」





「いや、うちの銀行に金庫番なんていないぞ……」




銀行員が気付いたころには、1人目の犯人は金庫番の制服を捨ててどこかへ姿を消していた。


2人目の犯人は今も1人目が持ち去った『金庫開けの才能』を

才能カプセルの山から必死に探していることだろう。

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