第4話 オリエンテーション①

慌ただしい高校生活初日が終了し、今日はオリエンテーションの日だ。まだ女装に抵抗のあった僕は普通に制服で学校へ向かおうとしたけれども、出発の時間が朝早いからと徹夜で待ち構えていた兄に女装をさせられ、さらに女装お泊まりセットなるものを持たされて家を出ることになった。抵抗していたら確実に遅刻すると思い、兄の提案を受け入れざるを得なかった。


学校に到着すると、バスがもう駐車場に来ており、早く登校した生徒は乗り込んでいるところだった。泊まりがけのオリエンテーションなのだが、やはりみんな女装をしている。早起きしてセッティングしてきたのだと思うと、その情熱にはある意味感心する。荷物を預け、バスに乗ろうとすると、乗降口の前に麻枝さんが立っていた。こんな唐突にエンカウントするなんて!嬉しいような、気まずいような…。僕が固まってしまっていると、麻枝さんのほうから口を開いた。

「…名前…なんていうの…?」

「あぃっ!?えっ…な、名前?」

突然話しかけられたので、すっとんきょうな声を上げてしまった。

「出席…確認、してるから…」

「あ、あぁ…。宮田です、宮田咲也です」

「宮田…くんね…。わかったわ…」

麻枝さんは名簿にチェックを入れた。せっかくだから何か話したいと思ったけれど、中々勇気が出せずにお互い沈黙が続いていた。そこへ、

「おーっす咲!席はもう取っておいてあるぞ!こっちこっち」

すでにバスに乗車していて、僕を見つけたシズにそう声をかけられたので、これ幸いとばかりにそそくさと麻枝さんの前を後にした。流石にヘタレすぎだなぁ、僕。

バスに乗り込むと、一番後ろの5人掛けの座席にシズとショーが陣取っていた。

「咲ちゃんは真ん中ねー」

「えっ何で?」

「そりゃリーダーだからね!」

昨日のことをまだ引っ張るのか…。

「ほう、君がリーダーになったのか。まぁ、悪くはないかな」

左端の席に座っていた涼が頷く。

「我らは厩橋5人衆!アッハッハッハ!」

シズが能天気にそう声を上げる。でも5人衆って1人足りないのでは?

「5人目ならもう決まってるよー。右端にちゅーもーく」

ショーに言われて右へ視線を移すと、所謂ゴスロリというやつだろうか、黒を基調とした服装に身を包んだ、人形みたいに麗しい生徒が座っていた。

「私は誤った方向へと進んだ人類を抹殺するために神が遣わした最後の使者…。コードネームは『Z』」

いきなり訳のわからないことを言い出したので僕は呆気にとられた。電波っていうか、中二病っていうか。

「面白そうな子でしょー?本名は榊原 善人ぜんとって言うんだってー。設定に反していい人そうな名前だよねー」

「いたずらに真名を詠唱するな!あと設定って言うな!」

顔を赤くして反論する。なるほどだからZか。確かに人類を抹殺する使命を持っている人には思えないような名前だ。

「小学生のころ人助けして表彰されたらしいよ」

やっぱりその名の通り善人だったようだ。

「偉いねー。じゃあゼットンと呼ばせともらおー」

何がじゃあなのかさっぱりだけど、ショーは渾名を思いついたらしい。

「そんな呼ばれ方、嫌だわ!」

「いいじゃんゼットン。その設定似合ってそうだし、強いし。あのウルトラマンを倒したんだぞ」

当然榊原さんは嫌がったが、シズはショーの案に賛成のようだ。

「まあ、やられ方はかなりあっけないがね」

涼、それは余計な一言だよ。

「その…悪い奴らじゃないんで、どうか仲良くしてあげてくれないかな?僕も君と友達になりたいな」

僕がそう言うと、彼は不適な笑みを浮かべて、

「いずれ争う日が来るというのに愚かね…。長い時を共に過ごすと辛くなるのはそちらだというのに。将来殺される相手を友としようの?私には使命がある。命乞いをしようとしても無駄よ、私は情に流されないもの。それでもいいというのなら、好きにするがいいわ」

色々物騒なことを言っているけど、どうやら一応友達にはなってくれるらしい。かくして厩橋5人衆とやらは結成されたのである。

「そういえば、君たちは彼とどうして知り合いになったの?」

「シズの探し物に付き合ってもらったんだよー」

…やっぱり善人だ。


そうこうしているうちに、同じ組生徒は全員揃ったようで、出席確認をしていた麻枝さんと、それに続いて三島先生が乗車してきた。

「うーっすおはよう。トイレに行きたきゃ今のうち行っておくんだな」

先生はバスを見渡して今一度生徒を確認する。やがて僕らの座る一番後ろの座席に目を向け、見定めるようにジロジロ見ながら言った。

「ほー。どんな奴らが後ろに陣取るかと思ったら、やっぱりお前たちか。宮田、大橋、高木、火野、榊原だな。お前らのことはよーく覚えておこう。一番後ろに座る奴らは悪ガキ集団だと相場が決まっている」

言われてみればそんな気もするけど、僕は悪ガキじゃない。風評被害だ。

「それに宮田と大橋、それに高木は初日から生徒会長にカチコミを仕掛けたって聞いたぞ。あいつに喧嘩売るなんて、面白れー奴らだ」

昨日の一件はすでに先生にまで届いていたらしい。他のクラスメイトたちもこちらを見ながらひそひそと話し始めている。あぁ、僕のイメージがどんどん望まぬ方向へ行ってしまう!

「大橋と高木の噂は前々から聞いていたが、宮田は正直意外だったな。あの2人を引き連れてるってーことは、最も注意すべき奴かもしれんな」

うぅ…早く誤解を解かないとマズい。これから先高校生活を送るうえで支障が出てしまう。

「ふふ…早くも教師に評価されたようだね。やるじゃないか」

「いきなり大将の首を狙ったというの?見かけによらず凶暴ね」

リーダーが困っているのに、仲間たちは言いたい放題だ。

「まああんまり騒ぎは起こさないでくれよ。あっそうだ。部屋割り考えてなかったから、バスの座席順にしよう」

先生の適当っぷりがまた発揮されたが、この5人は同じ部屋ということになった。初対面でもないし少しばかり交流もしているので楽だが、メンバーがメンバーだけに不安もある。あまりはしゃぎ過ぎないで欲しいけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それいけ!厩橋高校 @bunkou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ