第2話 神使フィリル
俺は頭を抱え必死に思考していた。
(なんだこれ……?)
俺の計画では最強モンスターを生産するつもりが、目の前の魔法陣には見知らぬ女の子が呆然と立っているのだ。
金色の透き通るような長い髪。
背は高くも低くもなく、華奢な細身の体。
その女の子は肌色の服に……って肌色ッ!?
「……?」
不思議そうに首を傾げる女の子。
俺は咄嗟に両手で目を塞ぐと、顔が真っ赤になる感覚に襲われながらも言った。
「えっと……適当に服着てもらえますか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時刻は深夜の4時過ぎ。
一般の人は間違いなく就寝の時間帯にも関わらず、俺の部屋には明かりが灯っていた。
ボロっちい安物テーブルを挟み、目の前には俺が着なくなったヨレヨレのTシャツを着た女の子が座っている。
そんな中、俺は又しても頭を抱えていた。
ボーッとしているこの女の子は、少し前に突如として魔法陣から現れた。
それはつまり、この女の子が配合から生産されたモンスター?ってことなのだろうか。
しかし、俺には一つ疑問があった。
人間とモンスターの意思疎通は決して不可能と、昔から言われているのだ。
それは現在も変わらないはず……。
俺は混乱のあまり思考が働かないため、直接ボーッとしている目の前の女の子に尋ねた。
「キミって……モンスターなの?」
「違いますが?」
(やっぱり意思疎通が可能なのか……)
「じゃあキミは何者なんだ?」
すると女の子は、徐に立ち上がるとエッヘンと胸を貼り言った。
「神使です」
「……」
俺は配合失敗かと思ったのだが、よくよく考えれば、一つ思い当たる節があった。
それは配合真っ最中の時。
俺は軽率なミスから、魔法陣に聖水をぶちまけてしまったのだ。
それもあの聖水は少し特別な物で、神の泉という場所から汲んだレアなアイテムなのだ。
その効果は計り知れず、配合素材にした場合のケースなど知る由もないのだ。
(……神の使いという話も嘘とは限らないか)
俺は確かめるように女の子に尋ねた。
「……本当に?」
「……本当です」
だったら信じようじゃないか。
俺は女の子の真剣な顔に疑問は晴れ、これ以上は疑わず信じようと思った。
しかし俺も直に女の子と関わった覚えなど、学生時代以降はこれっぽちとなかった。
(なんか急に恥ずかしくなってきたぞ……)
俺は妙な気持ちに駆られながらも、ブルブルと首を振り女の子に尋ねた。
「キミ、名前ってあるの?」
すると女の子は、コクコクと頷き言った。
「フィリルです」
「そうか、俺はクランだ」
俺はこれから共にダンジョンへ潜るパートナーとして、フィリルに手を差し出した。
その行為は責任感からだったのかもしれない。
それは俺が配合から生産した以上、形上フィリルの生みの親とも言える存在になったから。
そしてそれ以上に、神使と名乗る以上、ダンジョンでの強さにはかなりの期待が見込める期待感からだった。
「これからよろしくフィリル」
「こちらこそマスター」
そして俺とフィリルは、お互いのことをまだ全然知らない間ながら、固い握手を交わした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
俺とフィリルは力試しを兼ねて、早速ダンジョンへと向かっていた。
目的地は『始まりのダンジョン』
小さな洞穴がダンジョンとなっており、冒険者の登竜門とも言われてる初級ダンジョンだ。
ここをクリア出来ずして、他のダンジョンには潜れないのは俺でも十分に理解していた。
とは言っても、フィリルがパートナーならこんなダンジョンで躓くはずもないのだけれど。
「フィリル、戦闘の腕はどんなもんだ?」
俺はワクワクした気持ちに駆られ、ついダンジョンに潜る前から尋ねてしまった。
するとフィリルは、徐に袖を捲り上げ、細い二の腕の筋肉を見せ付けてきた。
「任せてくださいマスター」
「おぉ、期待してるぞフィリル」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから数分後。
何事もなく俺たちは始まりのダンジョンに到着し、何を準備するわけでもなく早々と潜った。
ダンジョン内は薄暗く、時々ゴブリンと思わしき奇声が響き渡ってきた中──
「キィエエエエエェ!!」
突如として、頭上からゴブリンの集団から不意打ちを狙い襲い掛かってきた。
「おっと」
俺はひょいと後ろに下がり交わした。
俺はお手並み拝見と思い、遠くからフィリルを観察していたのだが……。
(……あれ?)
ゴブリンの集団に群がられ、もみくちゃになるフィリルの姿がそこにはあった。
「マスター……助けてください」
「お前クソ弱いじゃねぇかよっ!!」
配合スキルで最強テイマー目指します 真帆路 @kodatsuki
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