配合スキルで最強テイマー目指します
真帆路
第1話 男の名はクラン
始まりは5年前のある日。
世界に何の前触れもなく、突如として各地にダンジョンが出現した。
その頃の冒険者という職業は、ニートだのクズだのと批判され、その道1本で生き抜くことが非常に困難とされていた。
そんな中、一人の冒険者がダンジョン内で秘宝を片手に生還したことがきっかけに、冒険者は一攫千金を狙える夢の職業となった。
それからというもの、冒険者という職業の人口は爆発的に増加する一方だった。
この世界には『スキル』と呼ばれる、誰もが差はあれど秘める特別な力が存在する。
念じることで、一定範囲内の空間を思うがままに操作する『超能力』スキル。
あらゆる概念を超越し、自由自在に炎や氷といった現象を発生させる『魔法』スキル。
他にも無数のスキルが存在し、冒険者は己のスキルを武器にダンジョンへと潜った。
ある者は運動能力強化の『バフ』スキルを駆使し、またある者はモンスターを扱う『テイマー』として、着実にダンジョンを攻略していった。
しかしダンジョン内にも無数のモンスターが隠れ潜み、戦闘の末、無念の死を遂げる冒険者も少なからずいた。
そんなある時、当時『最強』と謳われていたベテラン冒険者集団が、皆それぞれ体中に深い傷を負いながらあるダンジョンから瀕死状態で生還した。
体はガクガクと止むことなく震え、皆口を開けば「あそこは危険だ」の一点張りだった。
それから生還者の事情を聞くにつれ、ある明確な事実が判明することとなった。
そのダンジョンは薄暗い森の奥深くにポツリと鎮座する、白を基調とした立派な城だった。
その城内には無数の凶悪なモンスターのみが潜み、他のダンジョンとは比べ物にならない難易度となっていた。
その城は後々『漆黒の死城』と呼ばれ、冒険者も「攻略は不可能だろう」と口を揃える最難関ダンジョンに指定されることとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから時は過ぎ5年が経ったある日。
俺・クランは自室の床に、一切の迷いなく油性ペンを走らせていた。
「大家さんには死ぬまで黙秘を貫こう……」
俺は額の汗を拭いボソリと呟いた。
床には既に完成に差し掛かった魔法陣が、それはそれは大きく描かれていた。
(やっと……やっと俺の計画が最終段階に!)
俺は14歳という若い頃に、自分のスキルの恐ろしさに気が付き、5年という長い年月をかけてある計画を進めていた。
俺のスキルは『配合』という、珍しくも無ければ平凡でもない中といったものだった。
『配合』スキルは、一般的に物と物を組み合わせ新たな物を生み出す生産型スキル。
しかし俺の『配合』スキルは一般の配合とは根本から異なり、モンスター同士を組み合わせ新たなモンスターを生み出すことが可能だった。
その行為は確実に禁忌であろう。
モンスターと言えど、命宿る生物を配合にかける行為など、言語道断というものだ。
しかし──ッ!
14歳の頃の俺は、寧ろこの特別なスキルを有効的に活用してやろうと悪キャラ並の発想力を働かせ考えた。
モンスター同士を配合。
その行為の裏を読めば、最強モンスターを生み出せれば俺一人でダンジョンを無双できると考えたのだ。
それからというもの、俺はこの考えを『最強モンスターで金儲け計画』と名付け、来る日に向け準備を進め始めた。
そしてだ──ッ!
19歳となった俺の目の前には、5年の月日を経て集めた数々の素材モンスターが檻に捕られている。
「準備は調ったぞおぉっ!!」
俺は自室で一人で喜びの雄叫びを上げた。
それから間もなく、下からドスンという物音が鳴り響くと、部屋越しですら耳を劈く怒声が木霊した。
「うるさいぞ何時だと思ってるんだッ!」
「す、すみません!」
俺はどれどれと目を凝らし時計を見ると、時刻は深夜の3時を回っていた。
(やっべ、下の人には悪いけどまあいっか!)
俺は興奮のあまり悪気もなく適当に開き直ると、魔法陣を描く作業の続きに取り掛かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「完成したぞ……!」
再び作業に取り掛かってから数十分。
魔法陣は無事描き上がり、準備は万端となった。
(俺の計画がこの時を持って現実に……ッ!)
俺は念入りに魔法陣を確認した。
魔法陣に一寸でも狂いがある場合、配合は成功しにくく最悪のケースだとスライムが生まれてしまう。
俺の5年間の努力が、そこら辺にいるスライムに変わるのなんてのは絶対に許さない。
結局、魔法陣に問題は見当たらず、『配合』スキルを使用すれば計画完遂の段階となった。
(頼むから……最強のモンスターを頼むよっ!)
俺の計算に狂いがなければ、生まれてくるモンスターは間違いなく最強クラスのモンスターだろう。
「準備は整った……これより最終段階に入る!」
俺はバッと両手を広げると、ボロボロの天井を仰ぎながら高々と宣言した時。
「うるせぇぞ!殺すぞクソガキがッ!!」
「黙っとけ下郎がッ!」
俺は下の人の露な怒りを気にせず、魔法陣に手をかざすと、思いの丈を放つように配合スキルを使った。
その刹那、魔法陣は強烈な光を発生させ、真っ暗な部屋を包み込んだ。
「うっ……眩しい!」
俺は突然の光に後退りした際、手元に何かが勢いよく触れたのが伝わった。
(まさか、あのビンではないだろうな……?)
嫌な予感に駆られ、冷や汗をかく中。
──パリンッ!
ガラスの割れる甲高い音が、何かをまき散らす音と共に部屋に木霊した。
「ちょ、それはマズイでしょっ!」
俺の机には『聖水』を置きっ放しにしていた。
それは生まれたモンスターが暴れた際に、対処出来るようにと思い予め置いていた物だった。
それが配合真っ最中の魔法陣に入ったということは、聖水も配合素材として扱われることを意味していた。
俺は直ちに手探りで聖水を拭こうとした。
しかし時既に遅く、配合は強力な光が治まると同時に終了したようだった。
(……まぁ、何とかなるっしょ!)
俺は若干の不安に駆られながらも、徐に目を開け魔法陣を見ると──
「あなたがマスター?」
「……は?」
魔法陣の中心には、裸の女の子が立っていた。
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