アリスの一夜目

 一番目に夢に迷い込んだのは、勇ましくも、孤独を愛する寂しいアリスでした...。





 私の名前は、仁科琉花(にしなるか)。高校2年生で、フェンシング部の部長を務めている。そして、自分で言うのもなんだが、友達は一人も居ない。いや、要らないのだ。




私は人間が嫌いだ。人間と云うモノは、同じモノでありながら憎しみ忌み嫌う。それでいて、時には優しく振る舞い、愛し愛される。そして、人間同士で殺し殺されて逝く。


私は人間以上に酷く醜い生き物は知らない。確かに、他にも殺しあう生き物は居るだろう。でもそれは、自分の鬱憤を晴らすためではない。生きるためには、食料というものが必要不可欠である。他の生き物はそのために喰らう。ただ、ただ食欲を満たしたいのだ。それは人間だって同じだ。でも、人間は食べることを目的として人を殺めているだろうか。答えは、否だ。では、なぜ殺しあうのか。それは、人間には”感情”というものがあるからだ。人間は感情があるから、醜く死んだり、醜く殺されたり、醜く殺したりするのだ。


 「七つの大罪」というものが在る。

これは、「七つの死に至る罪」のこと。そして、その罪は、人間の”感情”のこと。


      傲慢・暴食・色欲・憤怒・怠惰・嫉妬・強欲




  



 

 そして、ある夢を見た。世界に自分、独りだけだった。いや、一人の方が正しいかも知れない。それは、私が望んだ、ただひとつだけの世界だったから。青空を羽ばたく鳥も、艶やかに舞う蝶も、醜く争う愚かな人間達もいなかった。それはそれは、とても素晴らしい世界。

 辺りを見渡していると、少女にも老婆にも聞こえる、とても不思議な声が耳から入っていき、頭の中でこだまする。


『嫌なものは、斬り捨てちゃえばいいんだよぉ。

  そうすれば、望む世界になるからぁ。此処みたいな世界に...ねぇ。』

 

 そんな声と言葉を聴いたら、全身に鳥肌がたった。

 それは、悪寒などではなかったし、恐怖のものでもなかった。

 私は知っていた。その鳥肌が何を表しているのか。

 それを考えると、今度は恐怖で鳥肌がたってきた、、、自分が怖かった。。。

 


 夢から覚めた私は、あの言葉を信じ、実行していた。

 中学へ入学してから琉花は、最低限のコミュニケーションしかとらなくなった。

 友達も一人も作らず、誰とも関わらず...

 そして、強くなりたいと願った。もしも人の命を切り捨てる日が来てもいいようにと。。

 中学では、剣道部に入った。剣道はやったことが無かったけれど、私は精一杯練習し、たった1年で、県大会で優勝出来るまでになった。それでも、毎日の素振りは欠かさず、更にハードな筋トレをするようになった。一人の世界を作りたいが為に...

 でも、きっと一番変わったのは、考え方だ。

 あの言葉が言っていたように、「友達」も斬り捨てた。

              「感情」も斬り捨てた。

               何もかもを斬り捨てるようになった。

 

 それで、今の私が居る。

 高校に進学してからは、フェンシング部に入った。剣道部が無かったからだ。それでも、1年で県大会ベスト8に入る位までの強さになった。

 そんな時、不思議な夢を見た。


 眼に映った情景は、現実と変わらないものだった。だが、夢だと断言できる物を、私は持っていた。それは、現実味のない重さの鉄の塊...そう...《劔》だった。それも、かなりの大きさだ。

 そして、聴き覚えのある、あの声がまた聞こえてきた。


『此処は、貴方の世界なんだよぉ。だからぁ、貴方の好きなようにしていいんだよぉ。

   例えばぁ、

       「あるもの」...うぅん、「在る者」を斬ったりしてもいいんだよぉ。

     意味.........ワカルデショウ…?』


 その言葉を聴いた途端、私の身体は、その言葉を待ってたかのように...動いた。

 私の思考回路が巡るよりも早く...速く...

 

 街に居る人達を、斬り殺す...斬り捨てる...斬り殺す...斬り捨てる...

 なぜか、気持ちが良かった。

 ヒトヲ斬るのが快感だった。

キリコロス...キリコロス...キリステル...キリステル...

 

「はぁ...はぁ...はぁ...」

 ようやく身体が止まり、思考が追いついたところで、ふと我に返ると、鼻と脳に血生臭い匂いが充満する。その瞬間、急に吐き気に襲われ、立ち眩みがする。必死に込み上がってくる胃液を飲み込み、耐える。

 ようやく、落ち着き辺りを見渡すと、血で真っ赤だった。その頃には、血生臭かった臭いが、快感を憶える良い匂いに思えてきた。

 私は、人を斬り捨てて、真っ赤な道を敷いていたようだった。

 そして、急激に疲れがでてくる。私は、本能に抗えず、そのまま眠りについた...。









 「ジリリリリ...ジリリリリ...」

 そんな、極普通な目覚まし時計の音で目覚める。

 そう、あれは夢だったのだ。でも、私は思う。「あんな世界があったらな」と。

 ベッドから降りようとして、手をつく。

「痛っ!ん...?」

 少し動かしただけで、腕がズキズキと痛む。

 でも、私は信じる。あれは夢だったと。

「琉花!起きなさい。朝よ。」

 お母さんの声が聞こえる。あれが現実だったとしたら、確実にこんな朝は来ない。

 やはり、あれは夢で、この筋肉痛は、日ごろの疲れからか、寝ているときに同じように動いていたからだろう。私はそう思い込むことに決め、夢のことも忘れようとした。



けれど、あんな夢、忘れられるわけが無い... 怖い夢だったから...

                      酷い世界だったから...

                      悲しい悲劇だったから... 














                      良い夢だったから...

                      楽しい世界だったから... 

   


       ワタノ   ノゾンダ   セカイ ダッタカラ...?

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不思議な夢のアリス Titan# @Piitan

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