寿司にマヨネーズ

星村哲生

寿司にマヨネーズ

「はあ……もういい?」


 彼女はそれを持った手を上下に振った。


「あっ……もう出していい?」


 無言で頷くと赤い出し口から放物線を描いて白い液体がほとばしった。


 ぴゅっ ぴゅるるるる


「う……」


 僕は思わず顔をしかめる。


「はあ……いっぱい出た……。

 あ、まだ少し残ってる。飲んじゃうね

 もう、このちょっと垂れたのが一番おいしいんだから」


 彼女は額にかかった前髪を耳にかけた。桜色のぽってりした唇を丸くすぼめる。

 赤い出し口に唇を当てる。


 ちゅっ、ちゅるるるるる。ちゅーーっ


「ぷ はあ。やっぱりこういうのは全部飲まないと」


「……なあ、もう食べないか?」


「そうね、もう食べる。今日もいっぱいもらっちゃった。ありがとう。お疲れさま」


 ちゅっ


 そう言うと彼女は持っていたものに軽くキスする。

 彼女との出会いはゼミでの飲み会だった。わりあいに裕福な僕に対して、彼女は苦学生だった。

 そんなこんなはさておき、僕と彼女は交際を始めた。

 容姿だけじゃなく、気立て、気遣いができる彼女にどんどん好きになっていく自分がいたのもまた確かだ。

 でも……たったひとつ理解できない事があった。




 彼女は……とてつもないマヨラーだった。




 スーパーで、見切り品のお寿司を何パックか買って彼女の家、ワンルームマンションに行った。

 こじんまりしつつも女の子らしい部屋。

 晩酌をしよう、そう言った彼女は買ってきた焼酎をこくこくと飲む。

 そして、蓋を開けた30%引きのお寿司パックの上に――

 マヨネーズをかけだした。

 真っ白に染まったパック寿司。それを美味しそうに頬張る彼女。


「うん、やっぱりお寿司にはマヨネーズだね」


「いや、見切り品の寿司なら、酢飯を用意して、ちらしずしの方がいいだろ? なんでマヨネーズなんだよ」


「好きなものはしょうがないでしょ」


 食べ終わった彼女。とろんとした眼で僕を見てきた。


「ねえ……もう……」


 僕は、無言でうなずいた。




 このあと、むちゃくちゃ熟睡した。

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