寿司にマヨネーズ
星村哲生
寿司にマヨネーズ
「はあ……もういい?」
彼女はそれを持った手を上下に振った。
「あっ……もう出していい?」
無言で頷くと赤い出し口から放物線を描いて白い液体が
ぴゅっ ぴゅるるるる
「う……」
僕は思わず顔をしかめる。
「はあ……いっぱい出た……。
あ、まだ少し残ってる。飲んじゃうね
もう、このちょっと垂れたのが一番おいしいんだから」
彼女は額にかかった前髪を耳にかけた。桜色のぽってりした唇を丸くすぼめる。
赤い出し口に唇を当てる。
ちゅっ、ちゅるるるるる。ちゅーーっ
「ぷ はあ。やっぱりこういうのは全部飲まないと」
「……なあ、もう食べないか?」
「そうね、もう食べる。今日もいっぱいもらっちゃった。ありがとう。お疲れさま」
ちゅっ
そう言うと彼女は持っていたものに軽くキスする。
彼女との出会いはゼミでの飲み会だった。わりあいに裕福な僕に対して、彼女は苦学生だった。
そんなこんなはさておき、僕と彼女は交際を始めた。
容姿だけじゃなく、気立て、気遣いができる彼女にどんどん好きになっていく自分がいたのもまた確かだ。
でも……たったひとつ理解できない事があった。
彼女は……とてつもないマヨラーだった。
スーパーで、見切り品のお寿司を何パックか買って彼女の家、ワンルームマンションに行った。
こじんまりしつつも女の子らしい部屋。
晩酌をしよう、そう言った彼女は買ってきた焼酎をこくこくと飲む。
そして、蓋を開けた30%引きのお寿司パックの上に――
マヨネーズをかけだした。
真っ白に染まったパック寿司。それを美味しそうに頬張る彼女。
「うん、やっぱりお寿司にはマヨネーズだね」
「いや、見切り品の寿司なら、酢飯を用意して、ちらしずしの方がいいだろ? なんでマヨネーズなんだよ」
「好きなものはしょうがないでしょ」
食べ終わった彼女。とろんとした眼で僕を見てきた。
「ねえ……もう……」
僕は、無言でうなずいた。
このあと、むちゃくちゃ熟睡した。
寿司にマヨネーズ 星村哲生 @globalvillage
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- nao読み専です。土日祝日にまとめて読んでいます。 他サイトのアカウントを削除しました。 2025年1月25日 楠 なお(佐藤 楓&黒猫)
- 稲邊 富実代私は、内科の医師です。 40名の入院患者様を受け持ち、全身全霊で診させていただいて居ります。 毎晩、夜中に病棟から電話がかかってきます。 夜中に病棟から呼ばれて行くこともしばしばです。 患者様のために、悲しみや苦しみの、或いは喜びの、涙を流す毎日です。 患者様のために一喜一憂し、私の心は山の頂から奈落の底まで行ったり来たりする毎日です。 この愛を、目の前の患者様だけではない、広く国民に捧げたい・・・そう願って国政を志しましたが、道は開けません。 私は、イザベラ・デステ侯妃を知って、政治に、そして国を守るということに初めて開眼したのです。 この作品「プリマドンナ・デルモンド」を私は、1986年8月、医学部5年生の夏休み1か月で、不眠不休で、死に物狂いで書き上げました。 翌月1986年9月11日の夏目雅子さんの一周忌に間に合わせたい一心で。 夏目雅子さんは稀な手相の持主で、同じ手相を自分が持っていることを知った高校1年生の私は、東京の大学に入って医学を学びながら夏目雅子さんの専属作家になろうと決意しました。 しかし、その夢を果たせぬまま、私が医学部4年生の時、夏目雅子さんは白血病のため27歳の若さで帰らぬ人となられました。 夏目雅子さんに主演していただきたくて構想を練っていたのに、永遠に間に合わなくなってしまった作品「プリマドンナ・デルモンド」・・・でも、せめて一周忌に間に合わせたくて、不眠不休で書き上げた1986年夏の光景が鮮明に胸に甦ります。 あの時、献身的に協力してくれた母も、もういません。 翌年医学部を卒業し、研修医になってからは過酷な医師の仕事に追われ、出版社に持ち込むことも無いまま、数十年が経ってしましました。 「選挙なんて無理。」 と諦めていた私は、国政への思いを封印し続けて生きて参りました。 でも、コロナ禍に 「医師としての知識や経験、見解を広く国民に役立てたい。」 という思いが高じ、国政を目ざす様になりました。 しかし、候補者公募を受けても受けてもことごとく書類選考で門残払いにされ、知名度を挙げなければ無理だと言われ、その時、思い出したのがこの作品だったのです。 でも・・・数十年ぶりに読み返してみて、あの時の熱い思いが一気に胸に押し寄せ、涙にむせんでいるうちに、選挙に出るため知名度を挙げたくて藁をもすがる思いでこの作品にすがろうとし気持ちは消え失せました。 夏目雅子さんのために書き始めたのに、知れば知るほどイザベラ侯妃の素晴らしさに魅せられ、 「この人を埋もれさせたくない。 一人でも多くの方に、イザベラ侯妃を知ってほしい。」 という思いに突き動かされた1986年医学部5年生の夏の純粋な思いで胸がいっぱいになりました。 当時は無かったインターネット、そして小説投稿サイト・・・その御蔭で、忘れていたこの作品にもう一度出会うことが出来ました。 忘れていた自分に。 忘れていた使命に。 そして、忘れていた幸せに。
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