新メニュー開発会議

木乃 机

新メニュー開発会議

「では、松本さんお願いします」

「はい!」

 元気のいい返事とともに配られた寿司は、色が緑すぎた。

「……これは?」

「ハンバーガーの炭水化物抜きダイエットにヒントを得て作りました。シャリのかわりにレタスを使っています。名付けて、葉巻です!」

 会場が笑いに包まれる一方、私は頭痛がしてきた。

「やや受けかな」「じわじわくる」

 これは寿司なのかという疑問を抱く野暮は私だけのようだ。

「では、続きまして内村さん」

「はい、今回は自信作ですよっ」

 メビウスの輪状につながった細巻きが出てきた。なんだこれ。

「カリフォルニアロールってあるじゃないですか」

「あるね」

「というわけでこれ、デンプシーロール」

 頭痛がひどくなる。あー巻きものかぶったーとか声が上がる。かぶったってこういうのがまだあるのか。

「大黒巻きです。情熱込めて作りました」

「マロールです! テレポートとかできます」

「印西巻きの原。印旛沼名物カミツキガメたっぷりの逸品です」

「わ、わかった。握りものを作ってきた人はいますか」

「はい!はいはい!」

「岡本さんですか。どうぞ」

「ご覧ください。おかゆ握りです!」

 おかゆ。

 本当におかゆがシャリに乗っている。どうやって握ったんだ。

「なぜこんなの作ろうと?」

「前、寿司ネタだけ取って食べる客とかいうのが炎上したじゃないですか。これならシャリを食わざるを得まいざまーみろというわけです」

 私はこらえきれず泣き出してしまった。

「どうしたんですか社長?」

「どうしたもこうしたも、たしかに自由な発想でやってくれとは言ったが、こんなんだからうちはネットに公式が病気だの出落ち担当だのとレビュー書かれるんだ! どうしてこうもネタしかないんだ!」


 静まり返る中、ひとりおずおずと手を挙げる者がいた。

「お言葉ですが社長」

「……どうした岡本」

「100%シャリで作った私の寿司を前にネタばかりとはどういうことでしょう」

「そのネタじゃない!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新メニュー開発会議 木乃 机 @kino_tsukue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ