第9小節ー笑い声

朝目覚めてリビングに降りると、鈴迦ちゃんが一人でご飯を食べていた。

俺の分はラップをかけられている。

「……おはよう。」

「おはよう。」

「今日は、奏兄いないよ。」

「そうなの?」

「今日は、ピアノの調律しに行くからって……。」

「奏人さんピアノの調律師なの?」

「うん……。」

何かを言い淀んでいる。

「……えっと。」

鈴迦ちゃんが話すのを待ったほうがいいかな。

「……お皿、洗って、くれますか?」

「うん。」

シンクに向かって3人分の皿を洗っていく。

今朝のはサラダとパンだし、泡薄っすらでいいな。

そうだった、周りに何があるかまだよくわからないんだよな。

「ゴミを捨てに行くなら俺もついてくよ。どこにあるかわからないままだと困るだろうし。」

「……うん。」

長い髪の隙間から微笑んでるのが見えた。

「……嬉しいな。」

「うん?」

「私、喋るのに時間かかるから……待ってくれない人が多くて……。」

「ああ。」

それで喜んでいたんだ。

「待ってるほうが鈴迦ちゃんの声をいっぱい聞けるからさ。」

それに、クビになったあの会社の取引先には伝えようとすることすら辞め、俺に心を読めとばかりに接してきた人もいたからな。

「……ふふ。」

鈴迦ちゃんが肩を……というか、全身を震わせて笑いを少し漏らしながらも堪えている。

話すのは小さい声だけど、笑い声はそれより少し大きくなるようだ。

「……弦さん、天然たらし?」

意外な事を言われた。

薄っすらと多分笑いのせいでピンクに染まった彼女の腕。

「そこまで笑わなくてもいいじゃないか。さて、そろそろ洗い終わるから連れて行って。」

「……うん。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

b-lack 天堕 おとは @tendaotoha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ