第5話

 授業の課題でプログラミングをしていると、時々オバサンを思い出す。学べば学ぶほど、オバサンのすごさがわかってくる。

 僕はどこまでやれるだろう? オバサンみたいな才能があるだろうか? もし無かったらとても残念だが、それでもやっと見つけたやりたいことを、気が済むまで続けていこうと思う。

 自分の本当に好きなことを学ぶのは、やはり面白い。同じ志を持った仲間にも恵まれ、毎日を楽しく過ごしている。


 ある日、学校の友達と入った居酒屋で、偶然M社にいたオジサンを見かけた。オジサンは一人でカウンター席に座り、背中を丸めて飲んでいた。

 声をかけようか迷っていると、

「おーい、鈴木、ここあいてるぞー」

友達が僕を呼ぶ声につられて、オジサンが振り返り、目が合った。

「あ、ご無沙汰してます」

「おお、きみは、確か新人くん」

そういえば、このオジサンは僕をずっとそう呼んでたな、と少し懐かしく思う。

「M社の皆さんはお元気ですか?」

「ああ? みんなが元気かなんて、ちょっと知らないなー。M社はつぶれちゃったからねー」

「ええっ!?」

オジサンは肩をすくめて、とっくりをブラブラさせながら言う。

「キミが辞めてすぐの頃かなあ、会社のサーバが全部クラッシュしちゃってね。流通系からなにからすっかりパーで、商品が卸せなくなっちゃったもんだから、お客さんたちカンカンでさ。なんとか復旧した頃には、取引先全部に逃げられちゃってたってワケ」

驚きのあまり、言葉も出なかった。あれから一年も経っていないのに。

「あれっ、新人くん、もしかして、辞めるときなんかした?」

「ええっ、なにもしてないですよ! サーバをクラッシュさせるとか、そんな知識もないし」

「そうだよねー。まだ新人だったもんねー」

僕がしたことといえば、オバサンから譲り受けたファイルを削除したことくらいだ。オバサンに言われた通り、流通系サーバに保存してあったやつを……


(え? まさか、それが?)


「オレなんかいまだに職探し中でさー。もう参ってんの」

そうつぶやくオジサンの寂しそうな笑顔に会釈し、友達のいるテーブルへと歩きながら、疑惑が徐々に確信へと変わっていった。

 辞めるときはファイルをすべて消すように、と念を押していたオバサン。鳥肌が立ってきた。


(そっかぁ。オバサン、やるなぁ)


 オジサンは気の毒だし、社長や専務のその後も気にかかる。でも僕は、無性にオバサンに会いたくなった。


 オバサンは、今どこでなにをしているんだろう。僕がオバサンを目指しているって言ったら、どんな顔をするかな。



               (了)

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オバサンが僕にくれたもの @tsuki-yomi

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