第4話

「うわっ、なにこれ。スゲェ!」

システム担当者が、僕の隣の席で急に大声をあげた。

 オバサンがいなくなったあと、元オバサンの席で、彼女が使っていたパソコンをほかの社員が使えるように整備しているのだ。

「どうしたんすか?」

「これ見て。バッチファイルってわかる? これをクリックすると、自動的にサーバ内の必要な情報をとってきたり、ほかのシステムを立ち上げたりできるんだけど、社内のサーバの隅々まで網羅されている上に、独自のシステムも作り上げられていて、それがすごく緻密で効率的にできているんだ」

「独自のシステム? オバサンが作ったのって、ツールだけでじゃないんだ」

「そう。あのオバサン、いったいナニモノ? ほんとスゲェよ!」

なんだかとってもすごそうだが、僕にはさっぱり理解できない。

「いやあ、これはまさしくプロの仕事だね」

しきりに感心しているが、そのすごさを把握できる彼だって、僕には同じようにプロに見えるのだけど。

「そういうのって、勉強したら誰にでもできるんですか?」

システム担当者は僕の方を振り返って、ゆっくり首を振った。

「いや、こんな大掛かりなのは勉強より才能だね。オレなんか一生かかっても無理かも知れないよ」

「エッ! そんなレベルなんですか!?」

オバサン、恐るべし!

「そのシステム、消しちゃうんですか?」

きっと僕には使いこなせないだろうと思いつつ、なんだかふいに、オバサンに偉業が消されていくのが淋しい気がした。

「それがパスワードがかかっていて、削除できないんだよね。まあ、どんな影響があるかわからないから、怖くて消せないけど。それにこのシステム、そんなに容量も食ってないから放っておいても問題ないしね。作りもスマートなワケよ。これもまたスゴイとこ」

彼の言葉に、ホッとしつつ、改めてオバサンのすごさに感心。

 オバサンは、いなくなってからも伝説を作り続けている。


 その後、よく怒鳴られていた同期のKは出社拒否症になり、しばらく休職してから、結局会社を辞めていった。

 僕には『オーラ』はよくわからないが、会社はオバサンが言った通り、さらに殺伐として居心地が悪くなっていった(オバサンがいないせいもあると思うが)。

 さすがに耐えられなくなって、僕も三月いっぱいで会社を辞めた。


 今は専門学校に入り、システム構築やコンピュータ言語の勉強をしている。オバサンのツールを使わせてもらってからその便利さと面白さにハマり、しばらくは独学で学んでいたのだが、やはりちゃんと勉強したほうがよさそうだと、四月から通い始めたのだ。

 幸い、一年間お金を使う間も無くこき使われたおかげで、安月給ながらも結構な蓄えができていた。少しアルバイトすれば学費や生活費も困らない状態で、心置きなく勉強に打ち込んでいる。


 プログラミングをしていると、時々オバサンを思い出し、僕にもオバサンみたいな才能があるだろうか? と考えてみることがある。もし無かったらとても残念だが、それでもやっと見つけたやりたいことを、気が済むまで続けていこうと思う。

 自分の本当に好きなことを学ぶのは、やはり面白い。同じ志を持った仲間にも恵まれ、毎日を楽しく過ごしている。

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