お寿司の話ですし

Tm

アワビおいてませんでした。

 こうこうと輝くパソコンの画面を眺め続けてもう何時間経ったのか。腹から聞こえてくる獰猛な唸りがそろそろ帰れと告げてくる。

 凝った首を捻り回しながら、今夜の晩飯が頭に浮かんだ。


「寿司食いたい」

「いっすね」

「うおっいたんかお前」


 背後で相槌が聞こえ死ぬほどびっくりした。

 振り返ってみると斜め後ろの席で画面に向いたまま作業を続ける後輩がいた。


「いましたよー」

「いたんなら声かけろよ。っつーかなにも音聞こえなかったんだけどもしかしてお前寝てたんじゃねーの」

「バッ寝てませんよ」

「バッってなんだバカかバカっつったんかお前俺先輩だぞ」

「言ってませんよ。バー……最近は寿司バーとか、寿司バルとかあるんですって」

「だからなんだよごまかし方雑か」


 なんだこいつやっぱり寝てたな。適当言いやがって。


「それはそうと寿司いいですねー行きましょうよ」

「おごらねーぞ」

「ハイハイ。そういえば寿司バーってアレやるんですかね。あちらのお客様からです……って寿司をスーッと流すみたいな」

「いや絶対やらないだろ」

「いやでも極上大トロとか流されたらグッときませんかね」

「はあ? いや……うん、どうだろう」


 来るかな。大トロだもんな。


「立て続けにウニです、イクラですって。惚れますかね」

「惚れ……るかなー惚れるんかなー」


 ネタは魅力的だけどなあ。


「ダメ押しにこれが来たらもう抱かれてもいいってのありますか」

「寿司で抱かれるんか。大丈夫かその女」


 いやでもどうだろうな。

 相当腹減ってて自分じゃ食えない豪華なネタとか出されたらグッとくるかもな。


「僕は高級本マグロかなーって思うんですけど」

「いやー……本マグロはむしろつかみだろ。最初に出してインパクト狙うみたいな」

「あー……」


 あ、そうだ。


「「アワビ」」


「……だからもてないんだよお前は」

「……先輩もね」

「行くか、寿司」

「行きましょう」

「アワビおごってやる」

「抱いて」


 こうして俺たちは夜の繁華街へと消えていった。

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