寿司屋『旨い寿司』
由布 蓮
第1話
その日の魚の仕入れと店主の拘りで有名な寿司屋『旨い寿司』は3日振りに店を開けた。
この日、店主が仕入れたのは、天然鯛、天然鰤、鱸、蛸、鯵、鰯、穴子、太刀魚の8種類。この他にアワビ、サザエ、赤貝、ワカメ等、全て地元産。この日もテーブル席6席を含めて、10席しかない椅子は30分もしない内に全てが予約で埋まった。
開店の午後6時。
店の入口に店主が暖簾を出すと車で来た観光客やグルメ通で直ぐに満席になった。
この日は店がオープンした頃の客も来ており賑わっていた。
根っからの職人気質の店主が、この日に初めて握ったのは夏が旬の鱸だった。握る美しい手さばきは洗練された職人技だった。殆どの客は固唾を飲んで見守っていた。そして出されると驚きの表情を見せた。
「ねぇ、見た感じ芸術的な作品ね」
カウンターに座っていた年配の女性が言うと、口を大きく開けて一口で飲み込むように頬張った。
「この味、昔と全然変わらないよ」
隣に座っていた年配の男性も昔を思い出すように言った。
「この輝いているシャリ、何処の産地なのかしら」
年配の女性が聞いた。
「この米も地元産のヒノヒカリなんです」
口下手な店主は鯛の握りを作りながら話した。
「それに酢も、醤油も、ワサビも、ガリも全て地元産なんですよ」
続けて店主は話した。
「以前は他県から仕入れていたんですが、それも長く続かず、その思い切って地元産を出すと評判でしてね。今では殆どが地元なんですよ」
それは口下手と思えない口振りだった。
そして時間と共に店主の顔は紅潮し、手捌きも最初の頃と違い手早くなった。誰もが一点に注目し聞こえるのはカメラのシャッター音だけだった。
やがて店の時計が午後8時を廻ると、亭主は最後のネタとして握ったのは地元産の天然鰤だった。
「最後は天然鰤です。シャリを残すのも勿体ないので一人当たり三貫ずつ召し上がって下さい」
そう言うと店主は更に手早い速さで寿司を握った。
寿司屋『旨い寿司』 由布 蓮 @genkimono
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