15.里奈の嘘

 空の上を飛行機が飛んでいく。

 関空から飛び立ったそれは、南に向かって消えていった。


「ちょうどあれに乗ってるんやろうなぁ、里奈……」


 教室の窓から空を見上げて呟くと、後ろの田村が「お?」と不思議そうな声を上げた。


「そういやお前、山本里奈の見送りに行かへんかったんやな」

「あぁ、俺を見てまうとドキドキ動悸が激しくなって病気が悪化するから、出来れば来んといて欲しいと言われてしまったんや」


 ついでに里奈は俺にもう一つお願いをしていった。

 それは、希望者のみが参加する夏休みの補習授業に参加することだった。

 曰く、俺には賢く生きて良い大学に入って良い会社に就職して欲しいからこそ、こういうところもしっかり真面目にやって欲しいとのことだ。

 残された時間の中で里奈がそう望むのなら、俺は進んでそれを実現するのみだ。


 そういうわけで、こうして夏休み初日の補習授業に参加しているわけだが、俺の話を聞いていた田村が、憐れみの目を俺に向けてきた。


「なぁ、聡。一応聞くけど、山本里奈の『不治の病』のこと、本気で真に受けとるんか?」

「は?」


 この男はまた一体何を言い出すのだ。

 頭がおかしくなってしまったのだろうか。


「いやいや、でも確かに、お前みたいな脳内の作りの奴が山本里奈を手放すくらいやから、本気で信じたんやろうな。聡、お前案外、純粋なんな」

「は、だからどういうことや」

「無事出発したら言うように頼まれてたんやけど、山本里奈の『不治の病』は嘘や」

「は……?」


 嘘……だと?

 里奈があと二、三年で死ぬかも知れない程に病気が悪化しているアレは、全て嘘だったと言うことなのか……?


「いや、でも待て。俺がその話したとき、お前、『実は俺も前から聞いとったんやけど』発言してたやんか! あれは何やねん!!」

「あれはそう口裏合わすように言われたからな、乗ったったんや」

「はああ!?」


 田村はしたり顔で顎を親指と人差し指の間に乗せる。

 その顔をひどく殴りたくて仕方がない。


「要するにオーストラリアに行きたいがために俺を謀ったということか!!」

「謀るってまた大げさな。お前が山本里奈にべったりやったからやろ?」

「許せん、許せん……。ほんまに許されへん……! 俺も今からオーストラリアや!!」

「あ、おい、聡!!」


 ひとっ走りで関空に向かうべく、急いで教室を飛び出した。

 しかし、交通費どころかパスポートも持たない俺に飛行機に乗ることは叶わず、仕方がないので太平洋を泳いでオーストラリアに向かうことにした。だが忌々しいことに海上保安官に拾われ失敗。

 まんまと海の向こうに里奈をやってしまった俺は、改めて里奈を監禁するべく準備をし、里奈の帰国を待つのだった。


 里奈め、よくもこの俺を騙したな。

 だか俺も優しいからな、今だけは許してやるとしよう。せいぜい二ヶ月のオーストラリアを楽しむがいい。

 だが、帰ったらもう二度とお前に自由はないからな。

 もう逃してやるものか。一生閉じ込めてやる!


 ふっふっふ。覚悟しておくことだ。



<おわり>

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