第2話 破魔の刃

――――― 長い沈黙があたりを支配した。男と少女の姿はなくあるのは瓦礫の山だった。


だが瓦礫の山がゴソゴソと動くと少女が先に起き上がった。

「ぷはっ!」

少女は声に出しながら息を吸っては耳をピクピクッと動かした。そしてあたりの砂埃にゲホッと咳をすると嫌がって首のスカーフで口を覆った。

「あの男は…!?どこへいった!?ここは…!?」

そういってあたりを見渡す、そして天井があった場所を見上げるとさっきの部屋入り口を思える場所が自分より高いところにあるのを理解した


「床も抜けたのか…よく生きてた…なっ…イッ…」

しかし身体は思うように動かず痛みが全身を支配していた。今この状況であの男に襲われたらひとたまりもないだろう、しかし身体が言うことを聞いてくれないことに舌打ちを打った。

「そ、そうだ、こういうとこのためのポーションが…!」

そういってウェストポーチに手をかけ、鞄の中を開けるも…薬品はさっきの衝撃で瓶ごと砕けてしまっており、ポーションは台無しになってしまっていた。

「クソッ…!これじゃあ満足に回復もできない…!」

その時だった自分の真横の瓦礫が動き出した。 その瞬間少女に絶望が走る。

「いってえ…よく死なかったぜ…ん…?」

そこから出てきたのはやはりあの男だった。自分と違ってまだ余裕がありそうだった。そしてこの至近距離で目が合ってしまったのである。少女は悔しそうににらみつけては奥歯を噛みしめぎりっと歯ぎしりを鳴らした。

「ッチ!煮るなり焼くなり好きにしろッ!」

「ま、待て、落ち着けって!」

少女の目つきに思わず何も持っていない手を見せ、戦闘の意志がないことを男はアピールした。

「なんだ?なら私を犯すか?それとも奴隷買いにでも売り飛ばすか?」

「しない!しないから落ち着けよ!」

はぁっ・・・と男はため息をついたそして自分のカバンから二本のポーションを取りだし、一つを彼女に手渡した。

「…何のつもりだ」

その睨む瞳は警戒心に満ちており目先を揺り上げたその黒曜石のような黒い瞳は男を映し出していた。

「毒なんか入ってねえよ、怪我してるんだし落ち着いて話すには傷だらけよりもある程度動けたほうがいいだろ?」

そう男が述べると少女はしばらく男の目を見続けた。だが男は目をそらさない。そしてそのポーションを奪うような手つきで乱暴に受け取ると一気に飲み干した。すると体の傷が徐々に癒され痛みも少し引き、体が軽くなっていくのを感じた。

それを見ると男もまた自分も飲み干すのであった。そしてあたりを見回して呟いた。

「なんで抜けたんだろうなぁ… 戦った勢いじゃないよな。だとすると…んー…さっき刃物が刺さった壁に何かスイッチでもあったんだろうか… それで動こうとしたけど老朽化が進み過ぎてむしろ神殿が壊れてしまったと…」

男はたんたんとそれを述べると少女は先ほどの石碑に書いてあったことを思い出すように顎をしゃくった

「なるほど、風の意志を閉じ込めるとはそういうことか… あの時強い風が吹いて刺さったナイフの場所にスイッチがあり扉が閉じて風はドーム内にとどまった…そういうことか…」

それは独り言のつもりだったが男にも聞こえていた。

「なるほど、風の意志を閉じ込めると神殿が動くって書いてあったのか…」

しまったといわないばかりに少女は口を開くももう遅かった。

「 …ポーションのお礼だ、教えてやる。 私が読んだのはこういう文章だ。〝風の調べ… 欠片… 意志を閉じこめ… さすれば 与えられん… 〟 とな 」

「なるほど、つまりだ… 何かが与えられるってことだよな…?」 

男の言葉に少女はうんと頷いた。それを聞くと男は立ち上がった。そして向かい合う少女の後ろにあるものを見て口元を歪めた。

「ああ、まだこの神殿、続きがあるみたいだぜ?」

そういって男が指さす先を少女も目を当てる、と、そこには古代の文字が刻まれた黒い鋼鉄でできた分厚く一際大きい扉であった。

「動けるか?」

「ああ…って何のつもりだ?私はお前を…」

それ以上の言葉は男が自分の唇に人差し指を当てて沈黙を知らせた。そして土埃を払い自分の足元に埋まっていた剣と少女の二本のダガーを拾い上げると腰に剣を納めてから少女にダガーを返して見せた。少女は不思議そうにぽかんと男を見つめていた。

「情報のお礼だ。それにお前も知りたいんだろ?この扉の先の物がさ。お互いに協力―」

「一時休戦だッ、何れ決着をつけてやるっ」

少女は調子を取り戻したかのように述べては腰にダガーを納めると男のほうへと向き直ったそして述べた。

「私はキールだ。お前の名前は?」

相手の名前を聞くも自分の名を聞かれると少し間をおいてから自分の名前を思い出しかのように男は述べた

「―フレイ フレイだ。ここは共同戦線と行こうキール」

「ああ、よろしく頼む」

キールにとってそれは些細なことだったそしてゆっくりと足を扉の前へと進める。扉の前に立つとその扉に触れて文字を見る。

「 この形式は…、えっと…これは…」

フレイは扉を前にすると熱心に古びた手記と扉の文字を照らし合わせ解読に励んでみせるが

「 〝偉大なる風の意志を納めし風の結晶は7つに砕け空を渡る流星となりて、かの地へと馳せる。やがて砕けし風より風は生まれ、世界は風に包まれた。 しかしそれ故風の意志は乱れ混じり乱気と成りて、災いを生む〟 」

少女は一気に扉に書かれている文字を読み上げ、そしてフレイのほうへと目をやった

そして薄く微笑んで見せた。一方のフレイは呆気にとられ人形の様に固まってしまっていたそして呆然と言葉が口からこぼれるのであった


「驚いた…これが読めるのか…!? この文字は古代の文字だぞ!? 」

フレイの反応キールは目を伏せ、どこか照れくさそうに述べた

「昔からだ、気が付いた読めるようになっていた…。私も何故読めるかまでは知らん… がはっきりとわかるし伝わるんだ…」

そう言ってキールはその扉に触れるその目はその力ゆえに様々な厄介ごとに苛まれた過去を語るようだった

「ここに書いてあるのはただの伝承だ。」

「そして…こう書いてる場合は高い確率でそれが…風の意志を閉じ込めた7つの欠片の一つが収められている…。」

それを聞くと確信を持ったかのようにキールはうんと頷いて見せるそして疑問に思う、この男はなぜ自分がこんな事が出来るのに関与してこないのか?と

「なあ、フレイ、この扉の向こうへ行く前に一つ聞かせてくれ」

「なんだ?」

それは彼女が人に疑問を抱いた数少ないコト。 

「なぜここに来たんだ?お前はまるでここに最初からこれがあるって確信してきたようだ。それに、なんで旅をするんだ?この遺跡や神殿を解き明かしてお前の一体何になる?」

その問いに対してフレイは息をのむそして乾いた唇をかんでからゆっくりと述べる。

「俺は…記憶がないんだ…ここに来る少し前の記憶がね。思い出そうとすると灼けた文字を読むように、見ようとすると太陽の光に溶ける様に輪郭しか見いだせない。 だけど、俺はたぶんここに書いてあるものが必要なんだ。 そう思う、俺にはいきたい場所があってそこに行くためにはどうしてもこれが必要なんだ。そうすればきっと俺の記憶も戻ると思ってな」

そして自分の知識を示すように一冊のボロボロの手記を叩いて示す。それには至る所に様々な神殿や遺跡に関することが書いてあり。そして一つの事が書いてあった

〝天空に聳えし絶対の孤塔ジグラドの塔〟 

フレイはそれに目を移すと指でそれを刺す

「たぶん俺はここに行きたいんだ」

そう述べるた。それはキールだけではない世界中の人間が知っている伝説の一つにして…

「ジグラドの塔…まさか…正気か…?」

そう言ってキールは天を仰ぐそしてそれに合わせてフレイも同じ様に天を仰いだそしてその目線の先にあるのは

それはまるで天から糸を垂らしたかのような一筋の線…。遥か雲を貫いて天へと伸びる一つの塔であった。

天空の古塔と呼ばれたその存在感。世界のどこへいても見えると謳われた未開の地に聳える塔。それこそジグラドの塔であった。

フレイはその双眸で捉えると目を細めた。その彼の横顔をキールはぼんやりと見ていた。

「…、なるほど、フレイ。君の夢は本物みたいだな…嘘じゃないんだな… 」

俯きながらキールは風にかき消されそうな声で述べる。

そして改めて扉へと向きなうとその鉄の扉を力強く押して見せた。

ゴゴッと重圧感のある音を立ててゆっくりと扉は開く…


すると部屋の向こうから風が吹き抜けた。フレイとキールはその双眸でこの部屋の奥で淡く輝く緑色の輝きを見た。

そして彼らが部屋に入ると 当たりに刻まれた古代のルーン文字が反応し魔法仕掛けの部屋が動き出した。

自然と松明に火がともされ2人に道を示すようにボッボッと音を立てるようにその両脇を照らしていく


「驚いた…、こんな場所は初めてだ… 」

キールは呆然と呟くがフレイの反応はない。それどころかフレイは空気が重くなっていくのを感じていた。

そうこれだけのはずがないと


彼等はゆっくりと歩を進めて行くと鉄の扉は自動的に道を閉ざした。そして魔法仕掛けの松明は輪を書くように広がるとまるで闘技場のリングを想像させるようだった


「これは…?」

キールが問い掛けるより早くフレイは剣を抜いた。キールには本能的に身体が動いた様に見えた。

すると当たりに散らばっていた岩石がぐらぐらと揺れ始めると一際大きい岩に集合し始める


「来るぞっ!」

フレイの言葉にキールは剣を引き抜く…

岩は大きい人形に形成されていき…

4mはあろうかという巨大なゴーレムになった

ドスンッと鈍く重い音を立てて地面に落ちたゴーレムをフレイは冷静に静かに見つめていた


「ゴーレムッ!神殿を守るガーディアンと言ったところか! 」

キールはそう言って低く腰を構えた。それと同時に理解する。自分のダガーによる攻撃では損傷は与えにくいと


「キール。何か道具は持ってるか? 」

フレイの言葉にキールはうんと頷き火薬の入った筒、俗に言う爆弾を2つフレイに見せた。

「なるほど… よし、一つを使うぞ!俺が誘導する! 」

そう言ってフレイは腰を落として地面を大きく蹴っ飛ばしたするとゴーレムは身体を大きく揺らしながらフレイに目をやるとその拳を思い切り叩きつける

激しい爆音とともに砂埃が舞うしかしフレイは居らず振り下ろされた腕を踏み台にして思い切りその頭部に剣を叩きつけた。

ガキンッと甲高い金属音を上げて剣は弾かれてしまう。フレイは短く舌打ちをうつと後方へと飛び退いた。

そして片手を突き出し


「 地に眠りし星の命よ。集え! 」

フレイの突き出された掌が赤く輝くと小さな火球が勢い良く飛び出しゴーレムの頭部に直撃すると勢い良く爆ぜる

爆煙が引く…しかしゴーレムには傷一つついていなかった

しかしゴーレムは完全にフレイに狙いを絞りその拳を振り上げてたたき落とす。

フレイはその腕を剣で受け流すと膾に切り付け。そのまま足の下をすり抜け…


「キール!」

キールの名を叫ぶとキールは爆弾を思い切りゴーレムの足元に向けて投げ付けた

ボンッと爆弾が破裂すると同時に煙が逆巻き砕けた破片がフレイ達に降りかかる


「クッ・・・これでもダメか!」

キールがぼやいた。しかし確実にダメージは出ており足の一部が砕けていた。

しかし支障がないようにしか思えないほどだった。

フレイは考え、そして敵を観察する。あのゴーレムはおそらく古代のルーンが刻まれた岩が動力源になっておりそのルーンを傷をつけさえすれば…確実に勝利を得られると。

故に回想する…あいつの守りが一体どこが厚いのかと。 防衛本能で動かされてるガーディアンであるゴーレムなら自分が停止することを一番嫌がり”不自然に”防御を取るはずだ。と


「 光彩よ集束せよ!放て!刃とかせ! 」

フレイは片手を突き出して再び魔法を詠唱する。ゴーレムめがけて電流の刃が眩い光と空気を切り裂く音を立てながら真っ直ぐに飛んでゆくそして直撃…否、突如として電流は消えたのだ。

正確には吸収された、というのが正しかった。電流の刃はゆがんだ次元に押し込められてしまったのだ

「なっ・・・!?」

突然の事でフレイは理解出来なかった。フレイの放った電流の刃はゴーレムに当たる前消えてしまった。そしてゴーレムが体を大きく広げるとフレイの放った電流の刃はフレイにめがけて跳ね返ってきたのである。真っ直ぐフレイに飛んでゆく雷の刃

「避けきれ…」

フレイがあきらめかけたその時フレイと電流の間に人影が入り込んだ。そしてその人影は何かを高く掲げると地面にたたきつける様に思い切り振り下ろした。

バシュンッ! と電流はフレイ達を避ける様に空中に四散した。フレイが恐る恐ると目を開けるとそこに立っていたのは

「大丈夫か?フレイ」

「キール!?」

キールの周りにはまだ電流が残っているのかビリビリと…地面が鳴る音を立てていた。そしてキールはゆっくりと振り下ろした体勢から体を治した。そしてその手に握られていたのはなんと彼女のダガーの一振りだった。

「電流を切り裂いたのか…!?ダガーでか!?」

その驚いた様子を見るとキールは得意げに微笑んで見せたそしてその短剣を見せる様に顔の前に構えて見せた

「この剣の力だ。この程度の魔法なら切り裂けるらしい、スゴイだろ?」

キールはさぞも当然そうに述べるとマントを脱ぎ捨て、とんとんと身体を跳ねさせた。

「私は魔法が使えない…でも、魔法ならぶっ壊せる!」

そういってキールは剣を構える。フレイは額に手を当てて唇を少し歪めてふっと笑った。

「 炎よ!我が剣に宿れ! 」

フレイが高々と剣を掲げると剣から炎が勢いよく燃え上がった。魔法剣だ。フレイはその火属性のついた剣をゴーレムに向けた。狙いは…先ほどと同じく、いや少しずらして人間でいう胸のあたりを指していた。

「次で決めるぞ。キール。なるほど…わからないわけだ。防御する必要がないものな…! キール!弱点は胸だ! 俺がヤツの核をむき出しにする!お前はあの魔法障壁を切り裂いて。とどめを刺してくれ!」

「わかった!」

キールは拳を作ると自分の掌に打ち付けて応と答えた。そしてフレイが先に動き出す。しかしキールには理解できる。この動きは囮だと

フレイが射程距離内に入るとゴーレムはその剛腕を振り上げフレイに向けて振り下ろす

風を切り裂き地面が爆ぜ、砂埃が舞い上がる。 しかしフレイは怯まずに足を進める。左右に俊敏に避けながら懐に潜り込もうとする。

「―ッ!」

ゴーレムは過剰に嫌がって見せた。そして懐に飛び込んできたフレイにむけて思い切り拳を叩きつけ…

「 凍える地に眠る精霊の息吹よッ! 」

フレイは氷の呪文を唱え思い切り腕を振り上げる―。 瞬間、空気中の水分が凍り付きフレイを覆うような氷の盾が整形され始め、その刹那ゴーレムの拳が氷の盾にぶつかりガシャンッ!と大きな音を立てながら拉げ、砕け散る。氷の結晶は宙を舞いながらその一瞬スローモーションにも思える時間の中でフレイは薄く微笑んだ。

「 この瞬間を待っていたんだッ!」 

氷が砕けた直後、完全にフリーになったキールが懐に飛び込み、そのダガーを


「 穿て!破魔の刃よ! 」

その刃を突き刺してたその瞬間紫電の閃光が走った。そしてそのまま下へと切り裂いた。いくつもの魔法陣が切り裂かれ、ゴーレムを守っていた魔法障壁が切り裂かれるのをはっきりと確認した。そしてゴーレムがキールを敵視しその剛腕で振り払おうとする。それを予期していたキールは後ろに飛び退きそれを回避する。

「フレイ!」

「解ってるさ…! 行くぞ! 岩をも砕く烈火の一撃を! フレイムベイン!!」 

フレイは下から上へと斬りあげるように剣を振るうが、否それは剣撃ではない、その剣はドカンッ!!と大きく爆炎を上げた先ほどのキールの爆弾とは比にならないレベルの物だった。そして魔法障壁のないとはいえ物理攻撃を防ぐには十分に頑丈な岩石でできたゴーレムのボディに叩き付けられた剣は砕けて四散し代わりにそのボディを大きくえぐりルーンが刻まれた真核をむき出しにするだけではなくその巨体を大きくのけぞらせるほどの威力だった

しかし終わらない。爆煙が逆巻き切り裂きながらその中からキールが現れる。キールは身を掲げ目ながらその二本の剣を掲げて

「覚悟しろ!岩人形!引導をくれてやる!はああああっ!飛翔刃、竜牙連撃刃!」

追撃の姿勢を取り雄叫びを上げながらその二本の剣を胸に刻まれたルーン目掛け下から上へ岩ごと抉るように一撃、そのままゴーレムの胸元にバランスを取って降り立て、間髪入れず刃を振り下ろし二撃、徐々に斬撃の速度を上げ額に汗を滲ませながら全身の力を己の体重を一撃一撃に込め二本のダガーを竜のキバの様に突き立て喰らうように縦横無尽に腕を振り動かし止めに思い切り全身の力を使って飛びついては勢いよく切り抜けていく。 原形をとどめていないほどに切り刻まれたルーンは砕け散った。そしてゴーレムのボディが小さく爆ぜると全身の機能を失いボドボドっと音を立てながら地面に岩塊になって砂埃を上げながら転がった。


「はぁ・・・はぁ・・・ やったぞ!フレイ!」

キールが息を切らしながら喜びの声を上げた。フレイは砕けてしまった剣の柄を投げ捨てるとうんと頷き、キールの手首に自分の手首をコツンっとぶつけて見せた。

「すまない、手がしびれてしまってな・・・っ」

キールは手を握ったり開いたりしながら苦笑いを浮かべながら述べた。一方のフレイは先ほどの攻撃で肩が外れてしまったようでゴキッと痛そうな音と苦痛の表情を作りながら治していた。

「いてて…剣は壊れるし、肩は外れるんだよねえ…」

肩がしっかりはまったのを確認するとフレイはキールが脱ぎ捨てたマントを投げ渡した。キールはそれを受け取ると羽織り直し直ぐにゴーレムがいた先にあるものに目を移した。そして二人は顔を見合わせるとうんと頷いて足を進めた。

暗い闇の中でぼんやりと光る光を二人は追い続けた。そして一つの扉の前に立ち止まった。光はこの部屋の扉の隙間から漏れているものだった。二人は片方ずつの扉に触れるとぐっと力を込めて押した。

ゴゴゴゴッっと重苦しい音を立てながら扉は開く。まばゆい光が飛び込みそして―


「これは…っ」

フレイは目を見開いて固まった。キールは口に手を当てて驚いた表情を浮かべていた。


吹き抜けるさわやかな風、柔らかい光…そこにあったのは翡翠をも思わせる美しいエメラルドグリーンの輝きを放つ純度の高いクリスタルだった。そう、それはまるで―


「風の結晶…」

フレイは引き寄せられるようにその秘宝に足を進めると両手でその結晶を納めた。

フレイが触れるとクリスタルはまるで持ち主が帰ってきたのを感じたかのように徐々にその光を納めていくのであった…

「こ。こんなに純度の高いクリスタルは始めて見た…!な、なあフレイ、触らせてくれないか…?」

キールは興味津々そうに声を上ずらせながらフレイから半ば無理やりそのクリスタルを奪い天井に透かし見てみた。すると…

キールはその結晶の中で何かを見た気がした。一瞬、ほんの一瞬、刺すような光がキールを襲いキールは思わず目を閉じてしまったがそれは理解ができなかったが何かの文字のように見えた気がした

キールはもう一度天井にそのクリスタルを掲げるも何も見えはしなかった


「アレ・・?確かに何か見えたんだけど…」

と呆然と呟くもフレイはそのクリスタルを取ってしまった。

「ほら、玩具じゃないんだ、もうしまうぞ?」

「んあ、待ってくれ!もう少し!」

とキールは駄々をこねる子供の様に述べては慌ててフレイからクリスタルを奪った。そして両手でその石を包むと目を細めて非難するような視線を送った

「な、なんでだよ…」

「フレイ、君は私と初めて会ったとき宝物はくれてやるって言ったな…?」

その時フレイはしまったといわないばかりの顔をした。

「ま、待て!?売るなんて冗談じゃないぞ!?国が買えるかもしれない代物だぞ!?」

「む、そうなのか…?ならなおさら…」

「いやいや、待てよ、今の世界のそれに価値をつけられる人間なんていやしないぞ!」

「んまあ冗談だ、人が悪かったな。売ったりしないよ…ただ、」

そう述べるとキールは少しいじらしく後ろで手を組んだり意志を蹴ってみたりした。そして言おうか言わまいか迷うような表情でもじもじとしばらく考えてからゆっくりと口を開いた


「 私も君の旅に同行したい。 」


一瞬空気が静まり返り風が吹き抜けた。するとフレイはその言葉を聞くと口元を緩めて笑った。


「俺もお前が仲間だと心強い、ぜひよろしく頼むよ。キール」

そういって彼女の手をとった。キールは力強く握り返すとうんと頷いた。


「だからこれは私が持っていてもいいな!」


嬉しそうに踵を返すと子供の様に駆け出してしまった。


「な!待て!絶対落とすなよ!俺らの命を削って手に入れたものだぞ!」

と慌ててフレイも追いかけるのであった。 



――――


「…見つけたよ、フレイ」



そんな二人を遠目から見る黒い影、そのはっきりとした底冷えするような暗い声は確かに男の名前を呼び唇を歪め笑みを浮かべていた。


その夜

各地を大きな地殻変動が襲った。被害こそ少ないもの、一部の山は崩れるなどの被害をもたらした。

風のクリスタルの封印が解き放たれたことによって世界は新しい運命の歯車の一部として回り始めた。それはゆっくりにして急速に世界の色を変えていくものだった。

ある場所の海辺にて。


「導師様、大変です!」

「いかがなさいましたか?」

白装束を身に纏った白魔導士たちが一人の女性の周りに集まっていた。その様子はとても焦っており同時に怯えるように見えた。

彼女の名前はカミラ、白魔導士の最高権威を持つこの世界に4人しかいない導師のうちの一人である。


「水のクリスタルを封印しているとされた、海底神殿が浮上し始めました…!」

「なんですって…?いえ・・・ついに来たのですね?この時が… 白魔導士たちを集めなさい!神殿に結界を張ります!何人たりとも、近づけていけません!ふさわしい勇敢なるものが現れるまでは…」

カミラの一括で白魔導士たちはあわただしく動き出すのであった。


徐々に世界は動き始める、それはクリスタルを鍵とし、あの天空にそびえるジグラドの塔を中心にして…


こうして二人はジグラドの塔を目指しての道のりは始まったのであった。それは多くの出会いと多くの別れを経験する長く険しい旅になったであろう、なるであろう。

はたしてフレイ達は大義を成し、ジグラドへの道を切り開く事が出来るのだろうか?それはまだ神をも知らない境地である。


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天空の古塔へ ナシ・ミゾレ @episodesky

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