大学受験に失敗して高校3年生をやり直した話
伊集院田吾作
第1話
まだ冬の寒さが残る3月の日
僕は大学受験に落ちた
東京の某大学を志願していたのだが見事に失敗した
原因は分かりきっている
この1年間に勉強をあまりせずサボっていたからだ
正直そこまでしなくても受かると思っていたし
実際、模試では判定も出ていた
それで油断したのがまずかった
試験本番では今までの傾向とはかなり違った問題が出された
勉強をしてこなかった僕はそれに対応出来ず
点が取れなかった
きちんと勉強していればこんな時でも点は取れていたのだろう
いや、もはやこれ以上は何を言っても言い訳にしかならないので辞めておこう
「くそっ」
そう言い残し会場を後にした
背後では様々な声がひしめき合っている
喜び、叫ぶ声
そして感極まって泣く声
こうして聞いていると僕以外は皆受かっているのではないかと思えてくる
会場を後にした僕はひとり葉が枯れた街路樹の街を歩いて帰った
「喫茶店にでも寄って帰ろう」
そのまま家に帰るのはなんとなく気まずかったので喫茶店に寄ろうと思った
「時尾 環(ときお たまき)18歳 3月某日
東京の某大学を受けるも見事に落ち
受かったら告白しようとしていた渡里 時子(わたり ときこ)さんに告白することもなく玉砕した後喫茶店に寄り一息ついてから帰宅する」
突然背後から声がし、驚き振り返ると
そこには見知らぬ男が立っていた
「お前は誰だ」
僕は訪ねた
「俺はお前だ」
…見知らぬ、と言ったが訂正しよう
なぜなら僕は彼の事をよく知っている
いや、それもおかしい
だって彼は『僕自身』なのだから
正確に言うと僕によく似た、僕よりも少し年上の男だった
まるで僕を成長させた姿かのような
あまりにも突然の出来事だったため僕がと固まっていると彼は続けた
「合っているよね?
高校時代大好きな渡里さんにかっこつけようとほとんど勉強せずに大学受験に臨んだ時尾くん?」
どうやら彼は『僕』で間違い無いようだ
そう、僕が受験勉強をサボったのはそんな下らない理由だ
そしてその事は誰にも言っていないため
『僕』しか知らないはずだ
「で、その『僕』が僕になんの用だい?」
彼に尋ねると一瞬驚いた顔を見せたが
直ぐににやけて答えた
「話が早くて助かるよ、まぁ知ってたんだけどね
用と言うのは他でもない高校3年生をもう1回やって見る気はないか?」
「…………は?」
僕は再び固まった
「まぁそうなるよね、ここにタイムマシンがある、君があの大学に入って研究して作りたかった物だ。これを使って高校3年生の頭に戻ってやり直そう!という訳だ」
彼は得意気にそう言った
「なるほど、『僕』はそのタイムマシンを使って下らない理由で大学に落ちた僕を救いに来たスーパーヒーロー、という訳だ」
確かに僕があの大学で研究したかったことはまさにそれだった為すぐに納得がいった
「そういうこと〜、下らない理由で落ちたどうしようもないバカ野郎を救いに来たのさ
どうせ浪人するつもりだったんだからいいでしょ?高校で浪人すると思って、ほらほら!」
彼はとぼけた調子で続けた
「どうしようもないバカ野郎は言い過ぎだろ…」
そんな事を言いつつ僕はタイムマシンを受け取った
「思ったより小さいんだな」
彼から受け取ったソレは手のひらに収まる程度の卵型のものだった
こんなもので時間を飛ぶ事が出来るのだろうか
だが実際に『僕』がここにいることが何よりの証拠だった為僕は考えるのを止めた
「どう使えばいいんだ」
彼に尋ねた
「ここのボタンをね、今回は1年だから
こうセットして…スイッチおーーーん!!」
説明しながら彼はスタートボタンらしい所を押した
「え、スイッチ?ちょっと待て!おい!
いきな」ピカッ
眩しい光に目が眩んだ
視界が戻ってきた頃には僕は見慣れた光景を見ていた
つい最近まで通っていた高校の校門だ
どうやら本当に僕はタイムスリップしたらしい
服も制服になっていた
その制服のポケットとに紙が入っていた
ーーー初のタイムスリップおめでとう!!ーーー
僕は破り捨てた
すると反対のポケットにも紙が入っていた
1枚目の紙はもう破いて
捨てちゃったかな?
やっぱり右のポケットの
方を先に気付いたよね!
さて、本題に入るよ
君は今、高校3年生の
始業式の日にいる
今日からまた
高校3年生頑張れ!
そう書いてあった。なるほど今日は始業式か
どおりでみんな少しソワソワしている訳だ
今日から受験生になるとも言える日だからな
「さて、今年は勉強を頑張るかな…」
そう決心し実際に僕は『前回』では信じられないほど勉強をした
そして月日は流れあの日がやってきた
僕と『僕』が出会った日だ
今回は『前回』とは違う
万全の態勢で挑んだ
試験の内容は何故か『前回』とは違った
『僕』曰くパラレルワールドみたいなものだから気にするな、と
前置きが長くなってしまったが
今回の結果は
合格だ
これで僕も晴れて大学生の仲間入りだ
彼が言うにはまたここでサボって研究に力を入れなければタイムマシンができる、という未来は無くなってしまうらしい
流石にこの研究をサボるような真似はしないと思うがタイムマシンという物はなんとも不思議なものなのだと思った
そして、数年の月日がたったある日
「出来た、ついに出来たぞタイムマシンが!!」
僕はあの後目まぐるしい努力を重ね若くして
“超次元時空航空機研究所”つまり簡単に言えばタイムマシン研究所の、所長になり
今日、ついにタイムマシンを完成させる事が出来たのだ
「環さん、よかったですね長年の夢が叶って」
1人の女性が近づいてきて話しかけてきた
「あぁ、それというのも君の献身的な尽力のおかげだよ。思えば学生時代から君には迷惑をかけっぱなしだったね
でも、君には本当に感謝しているよ
改めてありがとう、渡里さん」
そう、その女性は『1回目』の僕が合格したら告白しようと思っていた渡里さん、その人だったのだ
偶然にも彼女は僕と同じ大学に入っており
その頃から僕と共に研究を続けていた
「そんな、全て環さんの努力の成果ですよ
大学受験の時もとても努力されてましたもんね
それから、私はもう“渡里”じゃないですよ
お忘れですか?今は“時尾”になった事を」
大学時代、驚くことに彼女の方から僕に告白してきたのだ
当然断る理由も無かったので僕達は付き合うことになり
そして先日結婚することになったのだ
「あぁ、そうだったな、すまない時子さん」
「もうしっかりしてください」
すこし語尾を強くしながら、しかし優しい微笑みで彼女は言い、続けた
「それで環さん、このタイムマシンを使ってまずは誰をお救いになるつもりですか?」
彼女からの質問に対し僕は少し考える素振りを見せてあ、と思い出しこう答えた
「そうだなぁ、まずは下らない
理由でかっこつけて大きな失敗を犯す
…どうしようもないバカ野郎を
救いに行こうかな」
大学受験に失敗して高校3年生をやり直した話 伊集院田吾作 @tagosakujp
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