スシ・フュエル
成亜
スシ・フュエル
急性スシ中毒――それが兄の死因だった。
彼は輸送中の燃料用スシに手を出してしまったのだ。貧しい運送業だった。
訃報を破り捨て、溜息を吐く。そんなもんだろうと思っていた。
スシ・エネルギーの有用性が認められてから幾年過ぎたか、今では誰もがスシと無縁ではいられない。
精錬されていないスシは依存性が高く、燃料用はその中でも入手しやすい部類だ。中毒症状での死者数は年々増えており、しかし最早流通を止めること能わず、世界はシャリを履いたマグロで走り続けている。
私はそっと、タマゴを口に運んだ。甘い味付けが焼きたての温かさに包まれてじんわりと口に広がる。
お茶を一口。会計のボタンを押すと、ピリピリと文字列の並んだ紙が出てきた。ちぎり取ってレジへ。
普段より少し高い食事代に、ちょっとした幸福感を覚える。やはり寿司はいい。今となっては食用の高騰化が進んでしまったが、幼い頃から祝い事といえば寿司だった。
兄からもう金を巻き上げられることは無い。
金も、違法な未精錬スシよりは美味な寿司に使われた方が嬉しかろう。もっとも、法も何もまともな規制はできていなかったか。
私は寿司屋を出てスクーターに乗り込み、少し風に当たってみるかと遠回りで帰路に着く。
気がつけば燃料メーターが随分と下がっていた。
最寄りのセルフのスシスタンドに立ち寄る。スシタンクを開けてスシを補給する。酢と潮の混ざった匂いが鼻を突いた。その時。
キィィィィッ――
金属音が背後から迫る。早い。振り向いた時には、音の主は目の前にあった。無地の白い軽トラックがタイヤを引きずっている。
車体に殴られ、スクーターに挟まれ、視界に火花が散る。
――比喩ではなく、それは本当に火花だった。
倒れ溢れたスシに引火し、火の手が広がる。やがて車の荷台からも爆発があり、焦げたサーモンの匂いが周囲一帯に広がった。
翌朝。違法未精錬スシ輸送トラック炎上のニュースをキャスターが読み上げた。
スシ・フュエル 成亜 @dry_891
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