46 クリスマスイブにさようなら

 ――一九九三年十二月。


 私にとって、学校は、友達がいなくて寂しいものだったが、楽しいものとなった。

 おはよう、授業、アニメ研、勉強、お電話、おやすみ。

 殆ど、ラブリーなタイムだ。


 クリスマス、クリスマス、クリスマス……。

 この頃はそんな話が多い。

 クリスマスイブは絹矢先輩とデートになった。

 私は、幸せがずっと続く事を願っていた。


 プレゼントを選んでいた。


「んー。いつも上着もなく寒そうだから、手袋かな」


 紳士用のは大きくて、手を繋がれたら私の手が消えてしまいそうだと思った。

 ほっと、あたたまってくれたらいいなとゆっくりと選んだ。


 十二月二十四日の金曜日。

 バイテク研究所はあったが、この日は休めた。

 絹矢先輩の事だけを考えていたい。

 素敵なクリスマスイブにしたい。


 待ち合わせは、池袋の南野デパートになった。

 目指すは水族館。

 その手前の自動車ミュージアムも面白いと、私から誘った。


「ね、この映画は、映画館が揺れたり、香りが出たりするんだよ」

「へえ。じゃあ、一番に並んでいようよ」


「うん。そうだね」


 映画は、車で旅をするものだった。

 途中でガス欠になったり、カーチェイスをしたり、ロマンスもあったりで面白かった。


「あの吊り橋を車で渡る所、怖かったねー。座席も揺れるし」

「俺は、美人研究員が新しい媚薬を作ったってシーンの香りが、トイレの芳香剤かと思ったよ」


「あはは」

「はは」


「このブースは、好きな車のデザインができるんだって」

「いいねえ!」


 黄色いボディーに流線形のカッコいい車ができた。


「殆ど、さーちゃんが描いたね」

「あ、ごめーん」


「俺は、いいんだよ。さーちゃんに喜んで欲しい」

「車の試乗は、絹矢先輩が素敵だったな」


「次、水族館に行こう」

「うん」


 サンサン水族館は、二人とも動物が好きで盛り上がった。


「うー、マンボウ!」

「くっ。お腹痛いよ。さーちゃん」


「タツノオトシゴって面白い生殖をするよね」

「そうだね」


 お土産物コーナーで、ぬいぐるみに目を奪われている時に、絹矢先輩からサプライズがあった。


「気に入ってくれたら、ペンダントどう?」

「きゃー、マンボウの? いいの? ありがとう」


 値札を取って貰って、早速、胸元を飾って、水族館を後にした。


「このお店にしよう。『どんぐりクラブ』だって」

「さーちゃん……。センスいいね」


「そ、それは、食べてみないとね」

「俺は、どんぐりを食べたよ。めっちゃくちゃ渋いよ。渋柿の五万倍はするよ」


「あはは。知らなかったわ」

「渋を抜かないとね。それはそうと入ろうよ」


 にこにこして入った。

 ここは、南野デパートのお店で、洋食屋さんだ。

 メニューはどれも可愛らしくて、選ぶのに困ってしまった。

 それで、結局、絹矢先輩と同じメニューを頼んだ。


「えーと、『どんぐりクラブの迷ったら梢においで』を二つね」


 森から出て来た様なお姉さんに、絹矢先輩が頼んだ。


「可愛いなあ」

「え! ああ、可愛い方でしたね」


「ファッションの事だよ」

「そうか」


 食事も楽しかった。


 南野デパートの屋上に行き、そこでプレゼントを渡した。


「気に入ってくれて、ありがとうね」

「シュッ。シュッ。打つべしとか言ってみたり」


「うさぎさんのぬいぐるみが可愛い。フォトフレームなのね。ありがとうございます」

「うさぎさん、好きみたいだったから」


 時間の許す限り沢山楽しんで、家に帰った。


 電話でお互いの無事を確認した。

 恋しかったし。


「俺、明日、帰省するな」

「明日?」


「うん。菫はもう実家に帰っている」

「そうなんだ……。じゃあ、見送りに行く。羽理科大前駅からずっと」


「大変だからいいよ」

「でも……。明日、絶対に見送るね」


「見送りたいの……」

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いつまで餌付けされてんの!〔ライフワーク用〕 いすみ 静江 @uhi_cna

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