最終話 魔法中年ローカル平次、最大の危機!

 時は、平成二十九年五月三十一日水曜日の午後九時半。

 ところは、岐阜県恵那市にある二DKのアパート。

 人類史上初の『魔法中年』である「ローカル平次」は、魔法遣いにとって強敵であるところの『魔女』である「キューティーみひろ」と対峙していた。


 *


「ところで榊原さん。ルンルンと一緒にいると言うことは、貴方まさか魔法遣いになったということかしら」

「はあ、まあ、そういうことでして」

「そうなの? ふうん。ルンルン、ちょっと聞きたいのだけれど、貴方、魔法学院の初級勧誘学講座で禁忌きんき属性について勉強したはずよね」

「え、あ、はい」

「じゃあ、『男性を魔法遣いにしてはいけない』という禁忌のことはご存じのはずよね」

「……は?」

「おいルンルン。ちょっと待てよ。今の『は?』ってのは何だよ」

「あの、その」

「それに禁忌ってなんだよ」

「それはその」

「言葉の響きからすると、かなり不味まずそうな奴に聞こえるんだけどよ」

「あら、さほどでもないわよ」

「へ、大家さん。それはどういう意味で?」

「そうね。分かりやすく説明すると、男の子を魔法遣いにしたとしても、なった本人に即座に実害が及ぶわけではないのよ」

「じゃあどうして禁忌なんですか」

「それなんだけど――ルンルン、そこは勉強しなかったのかしら」

「はあ、その……」

「どうなんだよ」

「実はその……」

「さっさと言えよ」

「タブンソノジカンニネテイタノデハ――」

「都合が悪くなると小声で早口になるのはやめろよ」

「実は、多分その講義の時間に居眠りしていて聞いていなかったのだと思います! すみませんでしたあ!――って、バールが! バールが!」

「当たり前だよなあ。それで大家さん、何が問題なんですか?」

「なっちゃったものは仕方がないから教えてあげますけど、魔法遣いになった男の子の問題というよりは、周囲にいる女の子に多大な迷惑がかかるからなのよ」

「……」

「あれ、平次さんどうしたんですか。急に視線をそらしてうつむいたりして」

「うるせえな、ルンルン」

「いや、だっておかしいじゃないですか。今までどちらかというと強気な態度だったじゃないですか。なんで急におとなしくなるんですか」

「……」

「おほほほほ。榊原さんには理由がよくお分かりのようね。実は――」

「ああっ、大家さん! それだけは口にしないで!!」

「なんで今度は急に慌てているんですか!」

「ルンルンは黙ってろ!」

「いいえ黙りません! なんか今の態度はあやしすぎます!!」

「お前、バールの餌食になりたいのかよ!!」

「別に物理攻撃でどうこうなるわけじゃありませんから、大丈夫です!」

「あ、糞! 急に開き直りやがって!」

「まあまあ落ち着きなさいな二人とも。榊原さんも、これ以上抵抗しても無駄ですよ」

「……」

「ルンルン。どうして男の子を魔法使いにしてはいけないかというとね――」

「はい」


「――当然、彼らは一番最初に透視魔法を習得したがるからなのよ」


「へ? 透視魔法ですか? 割と高度なやつだから、そうそう簡単には習得することがで・き・な・い・は・ず……」

「あら、さすがに気がついたかしら?」

「……はい。そういうことですかぁ。ふううううん」

「なんだよルンルン。その嫌らしい言い方は」

「いやぁ平次さん。そういえば、天から『地球を救う使命感』とかいう啓示を得たんじゃなかったでしたっけぇ?」

「……」

「なんで目をそらすんですかねぇ。そりゃあ私も急に態度が変わったので、おかしいなあとは思ったんですがねぇ。まあ、割とピンチでしたから、あまり深く考えずに契約しちゃいましたけどぉ、ふうん、そういうことだったんですかぁ」

「な、な、なんだよお前。そ、そ、そういうことって、な、な、なんだよ!」

「しらばっくれても無駄ですよぉ。なんだぁ、ただ魔法で女の人の裸が見たかっただけじゃないですかぁ」

「……」

「違いますかぁ?」


 *平次は今、絶体絶命の窮地に立たされていた。

  このままでは『男が魔法遣いになる』という選択肢が完全に断たれてしまう。

  頑張れ、平次! 全世界の男達の最大の夢を守るために!!

  最後の力を振り絞って、この最大の難関を乗り切るのだ!!

 (というナレーションを、男性の落ち着いた低音の声で各自脳内再生願います)


「……」

「どうなんですかねぇ、平次さん?」


「……はい。その通りでございます」


 *へぇいじぃぃいいいいいいいいいいいい!!!

 (という絶叫を、男性の低音の声で各自脳内再生願います)


( 終わり )

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魔法中年ローカル平次 阿井上夫 @Aiueo

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