第五話 強敵現る!

 時は、平成二十九年五月三十一日水曜日の午後九時を過ぎたところ。

 ところは、岐阜県の恵那市――より正確に言うと、JR中央本線「恵那」駅から車で二十分ほど離れたところにある、二DKのアパート。

『魔法中年ローカル平次』こと榊原平次は自宅におり、彼の服は概ねもとの色合いに戻っている。

 そこで彼は、先程思いついてそのままになっていた疑問を口にした。


 *


「ところで、魔法少女というのは何をするんだ?」

「そうですね。まあ、初級魔法少女の場合には、人々のささやかな願望を叶えることが多いのではないでしょうか」

「ささやかな願望を叶えるって、それで何の見返りがあるというんだよ」

「魔法少女ポイントが貰えます」

「はあ? なんだよその、ベルマークみたいなシステムは?」

「質問に質問で返すのは失礼ですが、そのベルマークとはなんでしょうか?」

「あ、まあ、その、それはいいじゃないか。ところでその『魔法少女ポイント』というのは何の役に立つんだよ」

「ポイントというのは分かりやすくした名称でして、言い換えれば人間の徳のようなものでしょうか。それが高まると、使える魔法が高度になります」

「ほう、そいつは助かるねえ」

「先程の私の洗浄によって、平次さんの魔法少女――もとい、魔法中年ポイントも加算されましたよ」

「いやまあ、そこはこだわりどころじゃないんで、魔法少女ポイントでいいんだけど、それでどのくらい上がったんだい?」

「はい。加算されたポイントは〇.〇二です」

「は? 〇.〇二? なんだかすごくささやかじゃないか?」

「はあ、まあ、初級ですから」

「それで、俺の現在の魔法少女ポイント数は合計でいくらなんだよ」

「はい。まず初回契約ポイントが……」

「ちょっと待て。なんだよその初回契約ポイントというのは?」

「サービスですよ。よくあるじゃないですか。入会すると二百ポイント進呈、ってやつが」

「魔法少女の契約が、ウェブサイトのサービス開始扱いかよ」

「まあまあ、それでその初回契約ポイントが一ポイントですから……」

「はあ? なんだそのしょぼいサービスポイントは」

「仕方ないじゃないですか。これが規定ですから」

「……ああ、そうなんだ。分かったよ。で、何か他にも加算されてないのか?」

「そうですねえ……あ、ありますよ。ユニークポイントが二十。これは凄いや!」

「なんだそのユニークポイントというのは? 何が凄いんだよ?」

「これは魔法少女になった時点での希少価値に基づいて、加算されるポイントですね。なにしろ史上初の『魔法中年』ですから、かなりの高得点です」

「ふうん、そうなのか。なら、魔法少女ポイントの上限はいったい何点なんだよ」

「一億ポイントが上限で――うわっ、何するんですかぁ、バールがかすったじゃないですかぁ!」

「全然凄くないじゃないか! なんだよ、一億ポイントって。現在二十一.〇二ポイントの俺は小学生の小遣い以下じゃないか!」

「それは仕方ないじゃないですか。今日なったばっかりなんですから。二十ポイント稼ぐのに、一回〇.〇二ポイントの善行をどれだけやらなくちゃいけないと思っているんですか?」

「まあ、そう言われると――洗浄二千回分と思えば、確かに凄いかも知れんな。けどよ、一億ポイントなんてのは遥か先じゃないか?」

「ですから中級魔法少女になると、大抵は『悪の秘密組織』と戦いますね」

「なんだか初級と中級の落差が激しくないか?」

「いえいえまだまだ。上級になると『魔女』と戦います」

「魔女? 魔法少女とは別なのか? というより、そんなの本当にいるの?」

「いますよ。でもまあ、このご時勢ですからね。強力な魔女というのはそんなに見かけなく――」


 *そこで玄関のチャイムが鳴る。


「榊原さん、いる?」

「……大家さんだよ。お前、ちょっと黙っててくれないか。マスコットみたいに」

「はい、わかりました」

「ちょっと、榊原さん。いるんでしょう? 電気ついているから分かってますよ」

「はいはい、今あけますよ。すみませんねえ」


 *扉を開ける平次。外にはパーマをかけた小太りの中年女性――大家の安井やすい美広みひろが立っている。


「このまま居留守を使われるんじゃないか、と思ったじゃないの」

「はは、申し訳ありません。それで、今日は何の用件ですか」

「実は最近、ここのゴミだしの仕方にご近所さんからクレームが入っていて……」


「うわああああああああああ」


「あっ、黙っていろって言ったのに!」

「あらまあ――誰かと思ったらルンルンじゃないの」

「は?へ? 大家さん、こいつと知り合いなので」

「まあ、そんなに古くからじゃないんだけど、この間のヴァルプルギスの夜に会ったのよ」

「なんですか、その韓国風焼肉みたいな夜は?」

「それはプルコギでしょ、全然違うじゃありませんか」

「はっ、はっ、はっ」

「どうしたルンルン、知り合いじゃないのか?」

「しり、あい、ですって! その、方は、恐れ多くも……」

「なんだよ、先の副将軍かなんかか?」

「違いますぅ! 超有名魔女の『魔女っ子キューティーみひろ』さんじゃないですかぁ!!」

「魔女――っ子? キューティー?」

「あらやだ、ずいずん昔の呼び名だこと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る