第28話 衆議院解散

 その年の11月。衆議院が解散した。告示は12月1日。投票日は12月15日と決まった。

 「新海さん。どうよ調子は」「あー市長。体調はいいんだけどね。例のあれがまだ尾を引いてるよ」「全く脇が甘いからなー自業自得だよ。しっかりしてよ」「申し訳ない」新海は以前から女性問題が話題になっていたのだがそれを今春週刊誌にすっぱ抜かれたのだ。「今回こそ高杉の息の根を止めるんだからね。まーでもターゲットをあなたにするとは思わなかったな」「まー今回で立ち位置を明確にして本命は2年後の県議選じゃないの。4年間何もしないって訳にもいかないんじゃないの」「まー何れにしても徹底的やるよ」「もちろん」「奴は俺たちの金の流れも掴んでいるらしいしな」

 12月1日いよいよ選挙戦が始まった。高杉の選挙は街頭演説が主体だ。個人・企業廻り等は小泉の目が光っているためどこも受け入れてはくれない。

 「皆さん。どうですか今の政権自由党は。経済が上向いていると言ってますが実感ありますか。ないでしょう。そりゃそうですよ。彼らの景気判断は数字です。数字が目標ラインをクリアーすれば景気が良くなったと言う判断です。じゃーその数字は何ですか彼らが勝手に設定したものです。大企業の成績を上げれば数字は一気に上がるんです。そうじゃないでしょう。皆さんが暮らしが良くなったと実感ができて初めて景気は良くなったと言う事じゃないんですか」高杉は訴えた。アポロ市は非常に投票率の低い所だが国政選挙だけは60%近く行く。有権者数約50万人、投票率60%で48万票だ。これまでを見ていても新海の自由党の固定票は8万票。あとは民生党の5万票が乗り合わせて13万票。それに無党派の浮動票が乗っかり恐らく15万票前後だろう。そうなると残りは33万票。これを高杉を含め三人の候補者で取り合うのだ。決して楽ではないが勝機がないわけではない。高杉は声の続く限り演説を繰り返した。

今回も案の定中傷ビラが撒かれた。だがもう高杉は何とも思わない。街の人々も又かと感じる人の方が多いように思えた。それよりもどこの陣営が出したのか新海の女性問題の中傷ビラの方が話題をさらった。

 「どこの陣営か知らんけどありがたいねー。女性問題は結構響くからね。アッハッハ」高杉は笑っていた。

 「おい。新海さん。何やってんだよ。世論調査だと結構高杉が迫ってるらしいじゃない。しっかりしてくれよ。おい。渡辺。NETで高杉の何でもいいから有る事無い事流せよ。絶対に落とせ」「わかりました」「あーあとビラも忘れるなよ」

 選挙戦も1週間が過ぎ後半戦に突入した。高杉への中傷は日増しにひどくなっていた。「高杉。妻へのDV」「プロボクサーの息子。傷害事件」「高杉に隠し子」「実は娘の母親は別の女」もうめちゃくちゃだ。しかし高杉家の人間はこれまでの経験から相当打たれ強くなっていた。妻の麻里は「また始まったね」笑っていた。広樹は広樹で新人王に向けそれどころではない。美穂は第一志望の大学に合格し大学生活を満喫しあまり家にも寄り付かないのでそんなことは意にも返していなかった。

 選挙戦もちょうど1週間目の日曜日アポロ市の駅前で高杉と後援会長の石田は街頭演説を行った。ここでの主役はやはり石田だった。元世界チャンピオンで芸能活動もしていただけあって人気は抜群だ。又、引退したばかりの世界チャンピオンも数名応援に駆けつけてくれた。一気に高杉陣営は盛り上がった。「よーし。皆んなこの調子で残り1週間突っ走るぞ」石田が叫んだ。

相手の新海陣営も現職大臣や総理大臣まで応援に駆けつけた。まさに総力戦だ。

 そして投票日を迎えた。即日開票だから早ければ21時には大勢が判明する。高杉は風呂に入りこの日は家で結果を待っていた。

 「やるだけの事はやった。あとは待つだけだ。でもこれで終わりじゃない。スタートだ。まだ小泉がいる。このままではアポロ市は滅ぶ。アポロ市だけじゃない。日本全国に小泉のような奴ははびこっている。今のこの国の既得権者がいる限り日本に未来はない。既得権・既得権者を「排除」するまで絶対に戦ってやる。

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排除 岡田輝 @sakimari

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