テラバッテラ

並兵凡太

白波を臨む崖にて

「畜生……!」

 吹き荒れる風。背には波しぶきをあげる海。

 とうとう崖まで追い詰められてしまった金髪の少年は、その脅威を睨んだ。

 光輝くネタを背負い、シャリの音が響く。

 その合間から覗く鋭い昆布。

 バッテラである。

 大量の、バッテラである。

 最初は大阪の、小さなスーパーであった。

 おばちゃんが握ったバッテラに突然動き出し――人類を駆逐していった。

 何故バッテラが動きだしたのか。

 何故人類を襲うのか。

 何故バッテラなのか。

 それは誰にもわからなかった。

 わからないまま人はバッテラに蹂躙されていった。

「みんな……みんな、やられちまった……!」

 友の仇、家族の仇と少年はバッテラを睨む。

 少年のいる崖へじりじりと迫っていくバッテラ。その数はゆうに十兆はいるだろうと、少年は適当に考えていた。

 後退りをしながら、少年は考える。

 なにか、なにかここを切り抜ける方法は……!

 眼前にはおびただしい数のバッテラ、そして後ろには荒れに荒れる海。

 海に飛び込めば勝機はあるだろうか。いや、バッテラとて元はサバ。文字通りの自殺行為でしかない。

「くそ……くそッ!」

 どうしようもないのか。

 無念に駆られ、少年は足元に転がる石ころをせめてもの報いとバッテラの群れに投げた。

 すると、不思議なことが起こった。

 ただの石ころを、バッテラがそこだけ穴が開いたかのように一斉に避けたのである。その姿、さながらマグロに狙われたサバの群れのようだった。

「……これだ!」

 閃いた少年は、石ころを次々と投げながら無謀にもバッテラに突っ込んでいく。

 すると石を投げられた場所のバッテラはそれを避け、バッテラの中に道が出来る。少年はその中を駆け抜けていく。

「これなら……!」

 後ろからシャリの音がする。追ってきているのだろう。しかし幸いにもバッテラは足が遅い。ここから先のことは、走りながらでも考えられた。

「いける!」

 確信した少年は石ころを投げ続けながら、バッテラの群れの中を突き進む――。

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テラバッテラ 並兵凡太 @namiheibonta0307

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