夢幻の泡沫の如し。曖昧になっていく夢と現実の中、鮮やかに想いが浮き立つようです。美しい文章で綴られた詩的で繊細な物語は、不可思議を孕んで読後、複雑な思いに浸れます。
眠っている間、人が見る夢には何が含まれているのだろう。 暗示、願望、いずれにしろ我々の現実とは隔たったものだと理解されることが多い。 恋愛にしてもそう。夢中になるほど本当のことは見えづらいのかもしれない。 待っているのは断絶か、超克か。 不思議な恋愛小説。
静かに舞い降りる花びらのように、紡がれた言葉たちが本当に綺麗でした。夢と現実。その境界線とは、自分が思っているよりも本当はもっと、淡く儚いものなのかもしれないな、と思いました。そして今、自分が目の前にしているのはどちらなのだろう。その不思議な感覚にひたひたと触れる感じが心地良くて、繰り返し読ませて頂きました。ありがとうございます!「そして、エピローグに還る。」このぐっと胸に迫る一行も大好きです。
おとなしい大学生の雪、彼女が想いを寄せる行平。雪はあるとき、夢を巡る不思議な出来事に気付き、それを行平に語ってみる。行平は話に耳を傾ける。行平の章に入ると、夢も現実も次第に頼りなくなる。彼が一体どこに立っているのか、わからなくなる。明るくも暗くもない闇のようなプロローグに辿り着く。喫茶店の飲み物のぬくもりや、ワインや花束の赤色。そうした端々の描写が美しく印象的で、心を惹かれる。満ち足りたような空虚なような、不思議な読後感だった。