第1章





その日はやけに空が青かった。

大学生になった僕は家の近くにある本屋へと向かって足を進めていた。

最近できた家の近くにある本屋がものすごく気になっているのだ。

小さいころから本が好きだった僕だが、家の近くには本屋がなく、以前は隣町まで出かけて買いに行っていた。

僕の歩く桜並木の一本道を見れば行きかう人はみんな幸せそうに見えた。

桜というものにはなんだか特別なものを感じる。

短い間にしか咲かず、花が散れば切なく思える。一年の間に少しの間しか輝いていられないからこそ桜は美しいのかもしれない。

そういえば今日は星座占い、僕のいて座が一位だったな。「新たな出会いがあるかも。いろんな所に出かけてみて」だっけ?出会い?ないな、うん。あるはずない。期待値ゼロだ。



そんなことを考えながら足を進めていると本屋についた。

「きれいだな・・・」

新設というだけあってやはりきれいだった。木でできた扉を開き、中へと入る。

第一印象;いい感じ。

広すぎず、狭すぎず。居心地が良かった。本屋特有のにおいがした。周りを見ると客がいないらしくとても静かだった。小さな音量で英語の歌詞の歌が流れている。

しばらく本を眺めていると奥から優しい声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませ」

その声の持ち主が僕の顔を見てにこりとほほ笑んだ。見ると、とても美しい女性だった。黒く美しい長髪を一つに束ね、雪のような白い肌を持つ。さらには丸くて大きな澄んだ瞳、高すぎない鼻。まさに「日本人」という感じだ。

僕のもとに駆け寄った彼女は甘い香りを漂わせていた。こんな彼女をほおっておく男性なんて世の中にいるはずがない。

僕はいわゆる、一目惚れとゆうやつをした。

一目惚れなんてあるはずないじゃないか、なんて言っていた僕だったが今日改めて理解した。一目惚れがあり得ることを。

「えっと・・・お探しの本はなんですか?」

彼女は澄んだ瞳で僕を見つめて訪ねてきた。

「・・・いや、今日は新しい本屋を見に来たんです」

見つめすぎていたのを気づかれてしまっていないだろうか。僕の耳が燃えるように熱いのがばれてしまっていないだろうか。考えるのはそうゆうことばかりで、会話が全く入ってこない。てゆうか、彼女が美しすぎて答えるのが遅くなったなんてまるで少女漫画の恋するヒロインのようだな僕は。

ぎこちない笑顔で僕がそう答えると彼女は

「そうだったんですね。この本屋、先週オープンしたばかりで」

と言ってひまわりのような笑顔を見せてくれた。星座占いもたまには信じてやろう。そう思えた。彼女の胸元には・・・いや、決してやましい気持ちがあってみたわけではなく、たまたま目に・・・いや、確かに少しはあったかもしれないが。名前の書いてあるプレートが付いていた。

『藤崎ひかり』

藤崎ひかりってゆうんだな。何才だろうな。見た目からすると僕とおなじくらいだな。

彼女としばらく会話を続けた後、僕は店を出ようとした。

「また、いらしてくださいね」

「はい」

このまま終わってしまうのが名残惜しく、僕はまた声を出す。

「あの、藤崎さんって・・・」

「あれ?なんで私の名前を?ってあぁ、これに書いてあった」

彼女は照れ隠しに笑ってみせた。天然なところもあるのかな。かわいいな。

「えっと、藤崎さんはここら辺に住んでるんですか?」

うわーこんなこと聞いちゃったよ。まるでナンパだな。彼女は僕がいきなり聞いてきたことに嫌がりもせず答えてくれた。

「はい。そうなんですよ。一応この近くの大学にこの春から通わせてもらってます。えっとあなたは・・・」

「如月です。僕も今年から大学生で」

「え!じゃあ同い年ですね、私たち。また本の話しましょうね」

「えぇ、もちろん。じゃあ僕はまたこれで」

耳の熱さがまだ残ったまま僕は店をあとにした。


そのときの空が青すぎて、なんだかやけにまぶしかった。



あれから十日がたった。

やはり僕は藤崎さんにに恋をしたらしい。

証拠は、僕は藤崎さんのことで頭がいっぱいという事実だけで十分だった。

大学のフードコートでため息をつきながら食事をしていると後ろから声をかけられた。

「おーい!キ・サ・ラ・ギくーん!なーにため息ついちゃってんのさ!」

「あぁ・・・ユウタか。いやちょっと悩みがあってね」

「悩み?ははーんさては恋の悩みだな?」

「・・・」

「・・・え?もしかして図星だったりする?」

「かもな」

「えぇー!?まじかよっ!で、どんな人?聞かせてクレヨン」

「んー、本屋で知り合っためっちゃきれいな人。藤崎ひかりさんっていうんだ」

「ほーほーてかさ、その、藤崎さん?だっけ。もしかしてあそこの人じゃね?めっちゃ美人がいるって噂の人も確か苗字が藤崎だったよ?」

「えっマジで?どこの人?」

「ほら、あそこの真ん中の黒髪の人」

僕は目を見開いた。ユウタが指さした先にいたのは見間違えるはずがない。あの日、僕が一目惚れした彼女だった。気づいたら僕は席を立ち、藤崎さんのもとへ歩いていた。そして気づいたら声をかけてしまっていた。

「あのっ!藤崎さん・・・」

藤崎さんは僕の顔を見て一瞬驚いたがまたあのときのようにひまわりのような笑顔で笑って見せた。

「如月君。同じ学校だったんだね。すごい偶然」

「そうだね。僕もびっくりしたよ」

藤崎さんの隣に座っている藤崎さんの友達Aが僕の顔を見てあの人誰?とささやいていた。小さな声のつもりだろうが聞こえてますよ、全部。ごめんなさいね、地獄耳なもんで。もちろん地獄耳の僕には友達よと優しい声でささやく藤崎さんの声も聞こえましたよ。

「如月君、またお店来てくれる?」

「あぁ、今日は時間があるから行きたいな。行ってもいいかな?」

「もちろん。じゃあ準備して待ってるね」

その時授業開始十分前のチャイムが鳴った。じゃあねと手を振って立ち去った藤崎さんを見送った後僕はもしかしたら幸せすぎて宙から十センチぐらい浮いていたかもしれない。現実に連れ戻してくれたのはユウタだった。

「お前が恋したのってホントに藤崎ひかりなんだな」

「え?何?なんかダメなの?」

「いや、あの人なんか隠してる気がするんだよなー」

「そうかな?普通に優しくていい人だけど」

「そっかーならいいんだけどさー」

ユウタの勘はよく当たる。でも藤崎さんがいい人なのは事実だから、今回はユウタの勘が外れたのだと思った。

「まぁ、あれだよ如月。応援すっからさ。がんばれよなー!いい報告待ってるぜ」

「うん」

ユウタはニシシッという効果音が似合うような笑い方をしてフードコートを出て行った。



楽しみなものがあると時が流れるのがやけに長い。時間がたったと思って時計を見るとまだ五分しかたってなかったり。そんなこんなでようやく本屋へ行く時間になった。すっかり夕方で、オレンジ色の空が切なさを感じさせる。十日前以来、僕は欠かさず星座占いを見るようになった。今日のラッキーアイテムは水色のもの。僕はカバンに水色のミサンガをつけて一日を過ごしていた。

まだあまり歩きなれない桜並木。桜がだいぶ散ってきてしまっていた。

歩いて左側にあの本屋が見えてきた。自然と歩く速度が速くなる。

本屋につき、十日前に見た木でできた扉をそっと開ける。中からは最近はやりの歌が聞こえてくる。

本棚の通りを進んで奥に行くと本の整理をしている彼女の姿があった。

「あ、如月君」

こちらに気が付いた彼女は僕に小さく手を振った。大学ではおろしていた髪も今は一つに束ねていた。

「藤堂さんお疲れ様。これ、よかったら後で飲んで」

僕は彼女に近くのコンビニで買ってきた飲み物を渡した。彼女は受け取るとニコリと微笑んだ。

「わーありがとう!如月君優しいね」

「そんなことないよ」

こんなことするの藤堂さんにだけだよ、と内心つぶやいていた。

「そういえば如月君は本が好きなの?」

「うん。小さいころから本が大好きでね」

「私も本好きなんだ」

「そうなんだね。だからここでアルバイトを?」

「うん。そうなの。そうだ!如月君もさ、ここでアルバイトしたら?」

「・・・え?」

「あ、もしかしてもう別な場所でバイトしてる?」

「いや・・・そんなことないけど・・・」

「ならよかった!ここオープンしたばかりだから人手が足りなくてさー」

「え・・・ちょっ・・・」

「じゃあ面接受けてみない?」

「えっと・・・あの・・・はい」

彼女からの突然の誘いに驚き:嬉しさ=7:3くらいの割合で頭がごちゃごちゃだった。話の流れで面接を受けることになってしまったが、どうしような。バイトなんてしたことない。

この三日後、僕はあっさり面接で採用されこの本屋で藤崎さんと一緒に働くことになった。



バイトを始めて一か月。桜はもう散ってしまい、緑で生い茂っている。僕は彼女とぐっと距離が縮まった気がしている。一緒に行き帰りをしたり、食事に行ったり。勇気を出して連絡先を聞いたらあっさり教えてもらえたり。今日もバイト帰りに藤崎さんと帰っていた。

「いやー明日はバイト休みだね!如月君は何するの?」

「うーん・・・家でダラダラ?」

「あははっなにそれーでもいいかも」

「だよね」

「そっかー如月君明日暇なんだーへー」

「うん。そうだけど」

「じゃあさ、デートしない?デート!」

「はぇ?」

仲良くなって気づいたことがある。彼女の行動は全く読めないのだ。いつも唐突。前のバイトの誘いもそうだし、なんか今回も変なこと言ってるし・・・。驚きすぎて変な声が出ちゃったじゃないか。全く。

「なにその声ー変なのー」

「いや、突然すぎて驚いたんだよ」

「いいじゃん!デート」

「付き合ってないんだからデートって言わないんじゃない?それ」


















































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ラッヘリーベ 古月美葉 @hurutukimiyo

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