第13話
傷が治る迄毎日のようにラムチェルド様は説教がてら書物を持ってきた。書物は私が初見のものを毎回必死に探しているらしい。誰もいない、いや、シロしかいない空間で、暇をも手余した私は勉学に没頭していた。
「魔術だけなんて、勿体ないですよね」
にんまりと笑う宰相様は来る度に様々なことを教えてくださった。各国の言語、国の情勢に歴史、法律の守り方と抜け道、どう考えても貴族の子息ならば、跡取りならば学ぶであろう諸々。
有無を言わせぬ笑顔で宿題までだしてくるため、私は頭を抱えた。私は平民のはず。
ハクは相変わらず、龍の体をとったり、人間になったり自由だ。だが私が魔力の練習をしようとするや否や、封印魔法で妨害する。
「だーめ! まだ、ね」
私がラムチェルド様の側にいるには必要なのに。唇を噛み締めながら、ベッドに沈み混んだ。
傷が治って学園に復帰した日、試験日真っ只中だった。言いがかりによる暴動があったとされ、試験免除も可能だった。
「ちっ。庶民はいいよな」
「あいつ、なんか宰相様に媚って試験受けないんだとよ」
「うわっ。サイテー」
陰口に口が歪む。真実を見る気もない、冷たい視線たち。私は息苦しさから抜け出したかった。みんなからどれだけはなれたか知りたかった。
ただ、それだけ。
机の上に広げた問題はどれも、宰相様より簡単で、回りが唸りながら解くのが信じられなかった。
数日あと。結果は満点。学年一位。盗み見ただろうと疑われても、私の回りの生徒は赤点ばかりだった。
「どうゆう手を使ったんだ」
「盗み見ただろう? 試験前に問題でも盗んだんだろ?」
「そんな点なんか獲れねぇハズだろーが」
クラス中から詰め寄られた。手のひらを握る爪が食い込む。反論すらしないのに苛立ったのだろう。胸元を掴まれた。
「やめろ。教育者がよかっただけだ」
ラムチェルド様がするりと間に割り込んだ。仏頂面で淡々と告げる。
「あの宰相の愛弟子だ。宰相が自ら教えたのだ。俺ですら知らないことも。無理。太刀打ちできん」
若干遠い目をしたラムチェルド様。私は「そういっても学年二位でしょう」という言葉は飲み込んだ。今まで一位しかとったことのないこの人にとって……。
「すごいって、誉めてあげろ。貴族らしからぬ余裕のなさだ。私ならともかく、コイツは1カ月休んでたんだぞ? 宰相が教えたとは言え、何でここで学んだやつが私を追い越さないんだ?」
行くぞ、と私の腕をつかみ、去っていった2にんの背をクラスは見送るしかなかった。
龍の翔ける空 カンナ @ka318nna
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