第12話 真実
ラムチェルド様は唖然としていた。私が見たことがないくらい。私も聞いたときは驚いたから、当たり前だ。
「産まれた時から莫大な魔力をお持ちだった。初めは3人ほどから魔力コントロールの術を受けていれば何ともなかったんです。あれは、そう、ラムチェルド様が5つの時」
宰相様は唇を噛み締めた。言い澱みつつ、決意したように顔を上げる。
「城に盗賊が入って、母様である王妃様を失ったのは、皆知ってますね?」
「ああ、母上が、どうした?」
声がかすれ、震えている。私は痛みをこらえ、彼の手に触れた。宰相様はためらう。
「言え、言えよ、何があった。いや、俺に魔力あるって嘘だろうが。嘘って、言えよ」
宰相様は首を振った。長く息を吐くと、観念したように口を開いた。
「あの時、共に襲われたのは、貴方様。そして、魔力の暴走によって、王妃様も盗賊も失った」
「何、て言った?」
「あの時、魔力が暴走してしまったのです。大地が変わるほど」
愛する妻を失った王が、ラムチェルド様が原因と疎んでしまうほど。ラムチェルド様は崩れ落ち、体を震わせた。
龍姿のハクがラムチェルド様の体を抱きしめるように、体躯を巻きつける。ハクは不安げに私を見上げた。どう慰めたものか。
「だからか。だから封印か。だから忌み嫌われたのか。俺は、俺は、何者」
クルリと首だけが向けられる。私は金縛りにあったようだ。動けない。ラムチェルド様は虚ろな目で私を見ていた。
「だからか。お前までも避けるのは、俺は、やはり、俺は、俺は、父上の申す通り」
違う。でも、結果的には避けたように見える行為だった。弁解しようにも、避けた事実は変わらない。
「俺はバケモノか」
甲高い音がなる。宰相様も私も目を丸くした。
「バケモノ級の魔力を持つお主が何を言うか。かの者が、なぜお主に会わなかったか知らぬくせして、知った口振り、何を主は知っておる」
シロ、なんで人型なんだ。それは私しか知らぬ姿。宰相様は何が起きたかわからぬらしい。目を白黒させて、口をぽっかり開けた。
ラムチェルド様も、だ。
「彼奴はお主が万が一の為に、自身の魔力精密度を高める訓練を密かにしておったぞ。1人でな。精密でより魔力の濃いものならば、主を抑えれるのでは、主も魔力の暴走を恐れずともよいように、とな」
待って、なんで知ってる?私が夜中に1人隠れてしていたことも、なんで?恥ずかしくて、顔から火が出るようだ。
宰相様が「なるほど、最近コントロールが良いのはその為」と言い出す。ハクはさらに余計な一言まで付け加えた。
「たまに、限界ギリギリまで修行するから何度生死をさまよいよったか。朝には治るよう、治癒したからよかったものの」
私は血が引いた。ああ、たまに意識がなくなっても翌日元気だったのは。心当たりはあった。ラムチェルド様と宰相様の目が冷たい。
「今、いろいろ聞きたいことがございますが、後にしましょうか。人龍についても聞きたいですが。王子は知らぬ?貴方様がどうせ拾ったのでしょう?フィル、無茶、したのですか?禁じたはずなのですが、どうして?あ、今は答えなくていいですよ?今は、ね」
笑いながら切れることほど怖いものはない。背中に寒気が走る。
「今は頭冷やしなさい。あ、王子は見張りで。龍とフィルが襲われないように、気をつけて」
「分かった。安心して、行け」
にっこり笑って、逃げないでくださいと言ったのは、恐怖で私をベッドに縛り付けるためか。私はラムチェルド様に押されるまま、おとなしく布団に潜り込んだ。
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