羽多野君は暗号を解かない。

畳屋 嘉祥

羽多野君は暗号を解かない。




 放課後、靴箱に入ってた謎の手紙。

 一行目。逆向きの「入」。逆向きの「喜」。

 二行目。「喜」。「周周周周」。

 三行目。字の下半分が消えかかった「神」。同じく下半分が薄い「更」。

 最後。「あがり」。


「ねえ羽多野君。この手紙、なんだと思う?」


「分かんね」


「だよねー。意味不明だし。この暗号っぽいの解いたらわかるのかな?」


「知らね」


 あの、さっきから返事適当すぎない?

 自分の彼女宛てにこんな怪しいモノ届いたんだから、もう少し心配してくれてもよくない?

 なんて内心拗ねながらも、目線はしっかり暗号に。正直、解いてみたかったり。


「あがり、っていうのヒントっぽいよね。あがり、あがり……お寿司屋さんのお茶?」


「だっけか」


「うん。なんか、湯呑にいっぱい漢字書いてあるやつ」


「そうだっけ」


「そうそう、魚編の漢字。鮪とか鯛とか……ん? 

 待って、鯛って魚編に周だよね。そんで、この暗号にも周ってある」


「だな」


「ひょっとしてあがりって、書いてある漢字に魚編付けろって意味?」


「どうだろ」


「それでいくと一行目は……魚編に入? そんな字あるのかな」


「さあ」


「スマホで調べよっと。えーっと……あ、出てきた。エリ

 これが逆文字になってるから、リエ? あ、私の名前だ」


「そうだな」


「これ当たりっぽい。

 次は、喜? スマホスマホ。えーっと、キス

 で、逆文字ってことは、スキ?」


「……うん」


「二行目も喜だ。こっちは普通にキスかな。

 そんで、周が四つ? 周は鯛だから、ヨンタイ? シタイ?」


「……したい、かな」


「かなぁ? 三行目は、神と更? えーっと……ハタハタと、ノギ? 

 で、この二字は下半分が消えてるから、上半分だけ読む感じ?

 ってことは、ハタと、ノ……?

 えっと、これ……え?」


「……おう」


「あの、羽多野、君?」


 よく見れば。羽多野君の耳は真っ赤になってて。

 それはつまり、そういうこと?

 羽多野君は頭を抱えて、小さな声でぽつりと零した。


「……目の前で解かれるのは、予想外だった」



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羽多野君は暗号を解かない。 畳屋 嘉祥 @Tatamiya_kasyou

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