ちょっくら握ってきます!
みれにん
彼が握るは……
とあるシステム開発会社。
若い男性社員が出先から戻り、席に着く。
彼の上司である隣の席の女性が声をかける。
「あーおかえり。どう? あの仕様、お客さんとうまく握れた?」
「握ってきましたよ! すごく満足してもらえましたよー。ちゃんと練習した甲斐がありました」
「満足……? 練習……?」
難航するだろうと思っていた彼女は、彼の発言を訝しむ。
「なんかこっちに都合のいい仕様ばかりだったと思うけど……ほんとに満足してもらえたの?」
「ええもう。『うまい! 君には才能がある!』とまで言わせちゃいました」
てへへ、と照れてみせる彼。
「マジか。どんな話し方したらそうなるの」
「んー話し方というか……なんなら実演しましょうか?」
「お、ぜひとも見てみたいな」
「じゃあ少々お待ちを」
彼はいそいそとカバンからモノを取り出し、テーブルに並べる。
そこに並ぶは、ごはんの詰まったタッパーに、保冷された魚介類。
「へいらっしゃい! 何から握りましょう!?」
スパぁン!!
手元のスリッパでつっこむ彼女。
「あいたっ」
「握ってこいとは言ったけど、なんで寿司握ってるのっ」
「え、そういうことじゃなかったんですか!?」
「いやいや……。『合意を得る』みたいな意味もあるんだよね、『握る』って」
「じゃあいいじゃないですか。寿司握って結果的に仕様も握れたことですし!」
「うん……まあ……そうね。いいか……」
その言葉を受け、彼は握り始める。
「イカね! へいお待ち!」
「いただきます……。あ、おいしい」
「それでですね、以下のような仕様でいかがでしょう。イカだけに」
「うまいこと言いおってからに……」
のちに彼が、『前代未聞の寿司職人SE』として有名になり、会社の命運を握ることなったのは言うまでもない。
ちょっくら握ってきます! みれにん @millenni
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