最終神秘の最前線――ミステリック・フロンティア

小見川 悠

日常と神秘のボーダーライン

 空は雲で覆われ、今にも雨が降り出しそうな空模様の朝のことだった。

 俺はテレビの天気予報に耳を傾けながら、口にトースターでこんがり焼いた食パンを口に運び、それをコーヒーで流し込んでいた。


「今日は一日中曇り一つない快晴でしょう……――洗濯物がよく乾く一日となりそうです」


 テレビの天気予報はこう言ってる。

 けど……どこをどう見ても快晴ではないな。


 空にした食器を洗ってから荷物を持って家を出る。


「行ってきます」


 返ってくるのは、沈黙ばかり。

 これももう一つの癖だ。

 返事は返ってこないとわかっていても、つい癖で言ってしまうんだ。


 俺はそのまま玄関の戸を鍵までしっかり閉めて、高校へと歩いていく。



 先に自己紹介でもしておこうか……俺の名前は御坂 刀哉とうや。ごく一般的な高校生……のはずだ。強いていうなら、両親は数年前に亡くなってからそれっきり。

 引き取る親戚が一人もいないという天涯孤独っぷりを現在進行形で見せつけながらの一人暮らしだ。

 洗濯だって慣れれば楽しいし食事だってちょっと志向を凝らせば娯楽になる……意外と一人暮らしも楽しんでる。

 そんな感じで、今日も元気に登校中だ。

 手にはもし雨が降ったらと持ってきた傘を持って。その時、ふと日差しがゆったりと差し込んでくる……。


 ――眩しい。なんだよ急に、曇ってたハズじゃないのか?


 そう思い空を見上げるが……俺は唖然とする。



 あの空一面に立ち込めていた分厚い雲は跡形もなく消え去っていて、――代わりに雲一つない空――すなわち、天気予報通り快晴になっていたのだ。


「……あ? 晴れてるし……」


 信じられない光景に、少しだけ考えてから。


「……不思議な事もあるもんだな」


 そう言ってまとめてしまう。

 余裕そうなその言葉とは裏腹に、俺は表情を引攣らせて思った。


 ――こんなことがあり得るのか? と。


 晴天の下、信じられないくらい晴れ渡る空に浮かぶ太陽を眺めながらその天気の異常さに気づかないままでいる自分がいることを、刀哉は知らなかった。




 $$$




 天気予報が嘘をついた今日の朝。

 落ちてきそうな程の重量を感じさせる曇天の下。

 吹き込む風になびく髪を押さえながら、町外れの裏山にある展望台の上で空を眺める私。


「天候操作……こんなタイミングで使用するなんて、いい度胸してるわね」


 天気予報は嘘をつかない――。

 この世界で一番と言ってもいいほど私が信用してない言葉の一つだけど、今回は違った。

 この雲――私は曇天と形容したけれど……本当はあれ、神秘の塊なのだ。


 やがてあれは分散して快晴な空模様になる、そのハズだがそれはそれでそうなった場合が面倒。今この町には私以外に追求者シーカーがいるらしいし……そうなるとメリットとデメリットがある。


「まぁ……関係ないわね」


 私がこの町に来たのは他でも無い。神秘のためだ。恐らく他の三人も同じモノを狙っているのだろうけれど……それも関係ない。


「問題があるとするなら、今日の寝床よ」


 だけどそれだって大した問題じゃない。

 何かの縁か、この町には師匠が住んでいるのだ。最悪、泊めてもらえるだろうし……あまり気にしてはいない。


「大丈夫、問題ないわ。――行きましょう」


 ――茶色混じりの長髪を風になびかせながら、美狩 涼は展望台の塀を乗り上げて真っ逆さまに落下する。

 が、その身体は地面に叩きつけられることなく、宙へと浮かび上がったのだ。


「さ、まずは竜月洞ね」


 晴天の下、一人の少女が、この町に飛び立った。

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最終神秘の最前線――ミステリック・フロンティア 小見川 悠 @tunogami-has

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