【緩募】なんかそれっぽい言い訳
@kuronekoya
私氏、テンパる
たぶん今私は、自分史上1,2を争う勢いでテンパっている。
ちなみにその原因となる相手は同一人物だったりするのだけれど。
職場の古参のスタッフたちは「元の鞘に収まったのねぇ〜」と生暖かい目で応援してくれている。
うん、これはまぁ、いい。
っていうか、想定の範囲内。
クリスマスイブのシフトで貸しを作ってある新人正社員ちゃんは、コミュ力が高いのでなんか察してくれて「今回はシフトお譲りしますよぉ」なんて目を三日月型にしてニヤニヤしてるけど、まぁ、これも……不本意ながら想定の範囲内。
彼女が私をいじることはしないだろうし、するとしてもきっと手加減してくれるはず。
問題はっ!
三十路も越えてっていうか、四捨五入するまでもなくアラフォー女子の私が、2月のシフトを作っている最中のイケメン店長代理に「14日は早番で定時上がりさせて下さい。でもって翌日は遅番にして下さい」って頼むのどんな罰ゲームよ?! って話で。
妻子持ちの店長とか、私よりひと回り以上若い他のスタッフはまあ、いい。
でもね、ほぼ同年代の独身イケメン男性に自分の口から遠回しな表現とはいえ「キャッキャウフフするんでシフト融通してください」って、自意識過剰だとしても舌噛んで死にたい。
無理!
絶対無理!!
無理無理無理ッ〜!!
でもって、同居している両親にはどう説明するよ?
バレンタインに泊りがけで女子会はないでしょう?!
この歳で!
去年までやってなかったのに突然!!
Twitterに「【緩募】なんかそれっぽい言い訳」とか投稿してみる?!
あ、そのキーワードでググるのが先!?
いや、こっちの問題は実は昨晩片付いた。
彼のことはもう話してあったから、母の方から先に「バレンタインデーはどうするの?」って訊かれてしどろもどろしているうちに、父がコホンと咳払いなんかしちゃって、まぁこちらも生暖かく……。
先に嫁に行った妹が聞いたら冷やかされるだろうな。
ヤツは新人ちゃんと違って容赦なくいじってくるだろう。
……姉の威厳……(泣)。
そんなこんなでちょっと作業の手が止まっていたら、店長代理が紙を片手にやって来た。
「暮林さん、ちょっと来月のシフトなんだけど」
「あ、はいっ?!」
「いや、春野さんがね、クリスマスイブに無理言って替わって貰ったからお返しに、って言ってたんだけど、14日は早番で、15日は公休日の振替でいいかな?」
「え? ええっ?!」
「ん? なんかマズい?」
「いえ、とんでもない! あ、ありがたいですけど、15日に振公なんかして遅番のシフトまわりますか?!」
「ん〜、そこはなんとかなるから大丈夫。っていうか、フワフワしたまま出勤されるよりはいっそ休んでもらった方がいい、みたいな?」
って、ニヤリと笑う。
レジの方を見ると、春野さん(もう「新人ちゃん」なんて呼んでやらない!)がテカテカしたいい笑顔でサムズアップなんかしてやがる。
四方八方からの生暖かい目線に、穴があったら入りたいとはこういう気持ちのことを言うのか? と思いながらも、やっぱりここはいい職場だな、と頬が緩むのを感じて、どんなチョコレートを用意しようかに思いを馳せた。
fin
【緩募】なんかそれっぽい言い訳 @kuronekoya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます