第5話「こうして出会った」

 わたくしはとても魔力の高い子供として周りに認知されていた。

 貴族の、しかも上流の貴族。わたくしの祖先様は数多くの戦歴を残し、国王様も大変深い信頼を寄せてくださっていました。

 しかし、そんな過去の栄光も、長くは輝くことはありませんでした。

 国王からの深い信頼を得ていたゴールデック家は、長い間深い軋轢を持っている、《シルヴァーズ》家の陰謀により、国家反逆罪の罪を被せられるところまで追い込また過去があった。王都に建てられた金の光を放つ黄金の屋敷も破壊され、わたくしの家族も命を守る為に地方に逃げていきました。

 頼るものには全て頼った。わたくしの父は大変聡明な方だったので、日頃からの有力なお人から農家の人たちまで知り合いがおりました。

 家族誰一人欠けることもありませんでしたが、それはもう過酷な逃避の旅路であったのは言うまでもありません。

 しかし、絶対に貴族のままでは経験できなかったことを沢山してきました。

 さまざまな地方に旅をしてきました。肌が凍るような地では農家の人たちに寒さに対しての畏怖や畏敬さとその耐寒の術を学び、水分が干上がる地では熱さをしのぐ術を。

 ですが、やはりみんながみんな優しいという訳ではありませんでした。

 そう、あれは深い森林が囲む夜の出来事でした。魔法が使えていたわたくしたち家族は夜でも不自由なく火を起こし、暖を取っていたら、いきなり周辺には汚らしい恰好の男たちが囲んでおりました。その人たちはこの辺りを縄張りしていた山賊たちだったのです。

 長い月日を旅していたわたくしたちでしたが、やはり旅人たちの真似事をしていても仕草や動作で、貴族であったことがバレてしまったのです。

 山賊たちは様々な武器を手に取り、わたくしたち家族に襲いかかってきました。

 まさしく絶対絶命。そんな時でした。

『待て! そこの者たちよ!』

 声高々にして颯爽と助けにきてくれた人こそが、わたくし、マリー・ゴールデックの運命の御人だったのです。



 ※



「ふぅ~……でたでた。はいはい。嘘だよ嘘。ソイツ言ってること嘘だからね?」

 そう言いながら、フェクシェマ領で最近、話題になっている有名なホテルと聞いた島国・ヤマヒノモトが経営してる旅館《ゴーカケンラン》の最上階の一室にて、まさしくこのフェクシェマ領を治めているであろう領主の姿があった。

「まぁ! 嘘だなんて! ひどいですわ」

「もうその頃から俺が領主になってた時じゃん。イーバル兄貴がまさしくその時、領地の警備を強化してた頃だもん」

「シュヴァイン様。私ごときを兄などと、いくらプライベートだからとはいえ余りにも身に余るお言葉……」

「固い固いってば。一緒にシュヴァインさまとお風呂入ったばっかりじゃん。ここではもうリラックスしていればいいと思うよ♪」

「貴様、従士の分際で気軽過ぎるのだ。もっとわきまえろ」

 シュヴァインの家臣筆頭にしてフェクシェマで『最大の苦労人』の名が広がりつつある傾向のイーバル・ドッグスは、この『旅館』の部屋に置いてあった寝間着に着替えており、浴衣姿になっていた。イーバルだけではなく、シュヴァインやリッカも同じ浴衣姿だった。

「シュヴァイン様の寛大なお心で、この広いお部屋に我らまで一緒に寝起きすることをお許しになられたのだぞ」

「だからだから、それが固いんだってばぁ……ねぇ~シュヴァインさま? 固いのは疲れるよねぇ?」

「長時間維持し続ける益荒男ますらおに……俺もなりたい(ギリッ)」

「なにか勘違いしてない……?」

 言い方が卑猥なんだよこの可愛い男の娘め! とシュヴァインは戦慄していると、目線は再びマリーに向ける。

 長い金髪と東方より伝わる衣服とは合わないでは、と思っていたら、そんなことを露にも思わせぬ完全なる自信でその美貌を放っている。それが少々訝しむ。

「どうして当然のように居るの、マリーさん」

「あら? 周囲に人の気配があると普通にしゃべることが出来るのですね」

「ドきつい返答はもうナッシング……ふっふっふ。オレはいつでも本気モードになれるんだぜ? ねぇねぇ知ってる? ここで一番えらい人知ってるぅ~」

 見るに耐えない醜い肉塊がくねくねしながら挑発するも、マリーが立ち上がった瞬間全力疾走する準備を既にしていた。

「婚約者が同じ場所に居なくてはなりませんのよ? こんな当たり前なことを知らないなんてやはり貴方の脳は肉で埋まってしまったのですね」

「もう本当にやめて! 確かに太ってるけどもそんなに言う!?」

 セイシンテキにダメージが蓄積していくシュヴァインであったが、あることに気付く。

「それにしても、どうしてマリーは俺の婚約話を聞いていたんだ?」

「わたくしの情報網を侮ることなかれですわ!」

「だから、その情報網はどっから……」

「カブトおうから聞きました」

「そっかぁ。家臣みうちから洩れてたか……」

 そんなんダメじゃん。心休まる場所無いじゃんと思ったシュヴァイン。だが、マリーは輝くその笑顔からまたも驚く言葉が吐き出された。

「なにやら、フェクシェマの東南の自然公園よりて不穏な噂を聞きましたので、心配になってしまい。わたくし飛んでやってきたというのに冷たいですわ」

「……うん?」

「あら? ご存じない? フェクシェマの有名スポットの一つ、ツェルガ自然公園に幽霊が現れるという噂で、なんでもその幽霊は肥満体質の人間を無差別に襲っているという話で、だんだんとフェクシェマ領の都市部に近付いていっているという話なので……」

「初耳なんですけどぉぉ~~??」

「当てににしていないのは分かっているのでうが、こちらとしては心配でしょ? だからわざわざ来て上げたのですわ! 喜びなさい歓喜なさい驚喜しなさいオーホッホホッホゴホッゴホ!」

 無理に高笑いしたキヨを横に、シュヴァインは嫌な汗がビッシリとかく。

 これはアレだ。

 嫌なことが起きるフラグに決まっていると……。

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ブタ領主とヤンデレ妻たち 十握剣 @tamo1992

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