第十話「誰かの視点②」

「チャーリーよりCIへ、指定ポイントに到達」

『ヒトニーヨンマル。予定より遅いですね。は既にそちらに向かっています』

「了解。急ぎます。それでは」

「……簡単に言ってくれるね」

『まだ聞こえていますよ』

「っ?!も、申し訳ありません」

『両名とも気を抜かない様に。では、通信を終わります』

「……ちょっと、終わったらさっさと切ってよ」

「ごめんね。これが邪魔で中々押せなくて」

「……なにこれ?アルレディの5枚目じゃん。お守り代わり?」

「はは、そんなところ、かな?それよりも――」

「うん……岩陰ここからじゃ仰角が取れない」

「だね。解ってはいたけど、出るしかないか」

「なら、カバーはアタシが」

「駄目でしょ、副隊長にまで万一があったら指揮する人間がいなくなる。単独でも撃って直ぐに死角飛び込めば――」

「あの凄腕はここにいないんでしょ?大丈夫、。それに、焦って変な方向に飛んでったら、待っているのは同士討ちにアンブッシュ。それこそ地獄でしょ」

「だけど」

「それとも、アタシが信用できない?」

「……分かった」

「モックの擲弾発射器ランチャーを。アタシがタイミングを見て先導するから、撃つ事にだけ集中してて」




 ※     ※     ※




「影が動いた」

「あ?気のせいじゃねえのか?どの辺?」

「二時方向、二つ並んだ岩の左下」

「……マジだ。てっぺんが微妙に動いてる。ありゃ頭の影だな」

「俯角を修正」

「飛び出てきたからって慌てて撃つなよ。随伴護衛のもんかもしれねえ」

「解ってる。タイミングはいつも通り、そっちに従う」

「了解」

「っと……出てきたな。まだ撃つなよ」

「……」

「やっぱり。片方は囮か」

だ?」

「後から出てきた方だ。あの、長い、三つ編みの、女」





 ※      ※      ※





引き金を絞る。

「……ダウン。ありゃ助からねえな」

 聞き流す。銃口を左に向ける。

「次は」

「いや、一度動こう」





 ※      ※       ※





『遅れて済まないわね』

『問題ない。こちらでも今しがた確認が終わったところだ』

『重畳ね。首尾は?』

『姿を確認した所で、何の躊躇い見られなかったそうだ。観測手が念を押しても眉一つも動かさず、と』

『こちらも旧友を陥れる命令になんの疑問も抱かず遂行した。帰るなりボディバッグの前で延々と泣いた挙句、今は仇討ちに燃えているのにね』

『自らの手引きによる結果だというのに、か?』

『いいえ、彼女はそれをのよ。開発サイドはそこまで織り込み済みだったって事……とにかく、投薬と携行デバイスの組み合わせ、予想以上の効果ね』

『ああ、投薬だけでは私的な因果を伴う情動には対応できなかったからな。デバイスとの併用はその点を完全に克服してくれる』

『完全に自意識を封じられた、さしずめ絶対服従の操り人形。鈴よりも首輪形の方がいいんじゃない?』

『上申しておこう』

『冗談に付き合うなんて珍しい』

『結果が目に見えて満足しているのかもな。あの二人の遭遇は予想の外だったが、却っていい実証実験の場を設けられた』

『若い犠牲には、心が痛むけどね』

『心にもない事を言うな。むしろ出る杭を扼殺出来た事を喜んでいる……今の君はそんな声だ』

『あら、無粋な当て推量はやめてもらえる?』

『……まぁいいさ、どの道戦う理由すら碌に顧みられないような輩がいくら死のうが、この国の不利益にはならん』

『そこは同意しておくわ。後はテストケースを積み重ねね』

『今回浮上した問題はデバイスの駆動時間だな。投薬の効果より短い』

『クジゴジよりってこと?』

『ああ。携行に疑問を抱かれない程度に、バッテリーの大型化を図ってもいいかも知れん……なんにせよ、これから忙しくなるな』

『ええ、どれだけケースを重ねればご納得いただけるかしらね。お互いのバックに』

『大国とはえてして腰が重い物さ。とにかく、それまではまだ暫く敵同士だな』

『そうね、相変わらず国土を丸々よその国の実験場に使われるのは腹立たしいけど……その暫くももう長くはない』

『ああ。それまでは首を垂れておく。身内に羅刹と罵られても構わん。総ては――』

『この国の再生の為』

『この国の再生の為』






 ※        ※        ※





「げ、まーた忘れたし」


「……」


「……」


「……」


「今日は、遅いな」


                     「夕暮れ時」 完

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短編「夕暮れ時」 三ケ日 桐生 @kiryumikkabi

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